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このページは、ジェラルディン・マコーリアンの本の感想のページです。

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「不思議を売る男」偕成社(2003年11月読了)★★★★

5年生のエイルサは、学校の<働く人びと>という課外レポートのために図書館へ。興味があるのは<動物の飼育>と<工業>と書いたはずなのにと、図書館に全く興味がないエルイサはうんざり。しかしマイクロフィルムの器械の見学をしている時、エイルサは緑色のコーデュロイの上着を着た奇妙な若い男に出会います。一見して、あまり相手にしない方が良さそうなその男には、図書館側もどうやら手を焼いているらしく、副館長は彼を見た途端警察を呼びに走ります。しかしエルイサは咄嗟に、自宅の古道具店で働く人を探していると口走り、MMC・バークシャーと名乗る彼は、エイルサの母が1人でやっているポーベイ古道具店の手伝いをすることに。(「A PACK OF LIES-TWELVE STORIES IN ONE」金原瑞人訳)

1989年のガーディアン賞と1988年のカーネギー賞を受賞したという作品。
リーディング(本の国)から来たというMMCは、古道具店に来るなり本に没頭します。そして古道具を見にやって来た客に、その家具にまつわる由緒ありげな物語をまことしやかに語ります。語る話は11つ。舞台はアイルランド、インド、中国、イギリス、トランシルヴァニア、海の上と様々ですし、ジャンルも寓話のようなものからロマンス、ミステリー、戦争物、怪奇小説… それぞれに現代の話だったり、昔の話だったりと様々。金原瑞人さんが訳者あとがきで、この作品は現代の「アラビアンナイト」だと書かれていますが、本当にその通りですね。これらの物語の1つ1つが、それぞれに完成度が高く、お店の客はもちろんのこと、店のオーナーであるポーベイ夫人もエイルサも、みるみるうちに彼の語る物語に夢中になってしまいます。
ハープシコードや鉛の兵隊の話も良かったのですが、私が特に好きだったのは、中国の柳模様の絵皿の物語。最後のお祝いのために作られた絵皿がまるで目の前に浮かぶようですし、いちごがなくなって徐々に見えてくる場面がとても好きです。しかしそういった物語もいいのですが、やはりそれらの物語の器となっている大きな物語、古道具屋で繰り広げられる情景や、MMC自身の謎が面白いですね。このMMCの正体には驚きました。このラストは、ハッピーエンドということでいいのでしょうか…?


「ジャッコ・グリーンの伝説」偕成社(2008年7月読了)★★

「世の中に理由を説明できないものなんてないね」と言う現実家の姉のプルーデンスとは逆に、魔法の存在を信じているフェイリム。そんなある朝フェイリムが起きると、5つも扉がある重い鋳鉄製のオーブンが壁際から動いており、他の家具は玄関に積み上げられ、ひっくり返ったテーブルが窓をふさぎ、が色付けの仕事をしている鉛の兵隊がイグサのマットに散らばっていました。そして鉛の兵隊を拾い上げていたフェイリムに話しかけたのは、油まみれの小人。目の前には、小人の他にも背丈がフェイリムの腰ほどしかない素っ裸で全身毛むくじゃらの男女が沢山いました。小人は、自分は家を守る精霊ドモボーイで、毛むくじゃらの男女は畑を守るグラッシャン、そして自分たちを「生まれくるもの」から救えるのはジャッコ・グリーンだけなのだと言います。どうやらフェイリムがジャッコ・グリーンと思われているようなのです。ドアの前の家具の山をくずしはじめたフェイリムに聞こえてきたのは、何か大きなものがひどく怒って荒い息をしながら玄関のドアに体当たりする音でした。(「THE STONES ARE HATCHING」金原瑞人訳)

ドモボーイに、石が孵りワームが目覚めるのを阻止しなければならないと言われたフェイリム。森の中で出会ったマッド・スウィーニーと名乗るじいさんは、<乙女>と<馬>、そして<愚者>が必要だと言います。<愚者>は木から木へと飛び移るスウィーニー。<乙女>は影のない少女・アレクシア、<馬>は丸いカフェテーブルのような不思議な姿のオビー・オース。
水辺の洗濯女やバンシー、小麦畑の鬼婆などイギリス土着の妖精が多く登場して、妖精というより妖怪といった方が相応しい様相。さすがに可愛いだけの妖精とは違って迫力がありますね。しかし訳文のせいなのか原文のせいなのかは分かりませんが、「生まれくるもの」も「ワーム」も読んでいてまるでイメージが湧かず、しかもなかなか現実を受け入れることのできない情けないフェイリムの姿と相まって、全体的にとても読みにくかったです。イギリスの土着の妖精に多少は馴染んでいると思う私ですらそうなのですから、こういった妖精のほとんどが初めてという読者には一体どうなのでしょう。フェイリムは姉から常に罵倒されて育ったせいか、その自信のなさには本当に情けないものがあります。そういった妖怪じみた存在を倒して前に進んでいくのではなく、逃げ惑いながら仕方なく旅を続けているので、読んでいてあまり楽しい気分になれるものでもありません。
ワームを眠りから目覚めさせ、石が孵り始めたのは、人間たちの銃の音。それらの存在を恐れ、常に供え物をしていたはずの人間は、今やそれらの存在も恐ろしさもも忘れてしまい、供え物もやめてしまったため、どうやって逃れればいいのかスウィーニーにすら分からないのです。そしてスウィーニーが正気を失ったのも戦争のため。知恵と恐怖を手に入れたのと引き換えに正気を失っています。アレクシアが影をなくしてしまったのは、元はといえば父親の浅はかな考えのせい。そしてワームに立ち向かうのは「常に善」のはずのフェイリム。色々と含むものはあるのだろうとは思うのですが…。
妖怪たちの存在には迫力がありましたし、途中で面白くなりそうになったところもありました。ハイ・ブラジルにいる妖精たちに安易に願い事を叶えてもらおうとする人々に対して、妖精たちの言葉が面白かったですね。しかしラストの詰めは甘いように思いますし、訳者あとがきに書かれているほど深みも味わい深さも感じられませんでした。あまり好みではなかったです。

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