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このページは、フィオナ・マクラウドの本の感想のページです。

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「ケルト民話集」ちくま文庫(2006年8月読了)★★★★

【クレヴィンの竪琴】…コン・マク・アルトとダルウラの美しい娘・エイリイは、アルトニア人の10人の人質のうちの1人・コルマク・コンナリスに恋をします。しかし王の命で琴手・クレヴィンに嫁ぐことに。
【雌牛の絹毛】…「雌牛の絹毛」とも呼ばれる美しいエイリイは、イスレーの盲目の戦将イスラ・モールの息子イスラと愛し合っていました。しかし王の命でオスラ・マク・オスラに嫁がされそうになり…。
【ウラとウルラ】…エイリイとイスラは愛を全うするために死を選びます。しかし海賊に捕えられ、コル・マク・トルカルの元へと連れて行かれることに。
【白熱】…食料も底をついたある春のこと、急に具合が悪くなったトーマド。その後持ち直すもののまた具合が悪くなります。そして「あの娘(こ)を見ちまった」と言うのです。
【海の惑わし】…折に触れて、ふいに自分のことを忘れ、遥か昔の先祖に戻ってしまうことがあるアンドラ。そうなると彼は数週間姿を隠してしまうのです。
【罪を喰う人】…コンテュリホの村近くに戻ってきたニール・ロスは、イオナ島に渡るための船代を稼ぐために、「罪を喰う人」となるのですが…。
【九番目の波】…海の谷間から湧き出す大波が世界中の岸辺に押し寄せる時、それは第一の波となり、引き波がもはや起きないと確かめたところで、潮は九つの長い波を押し出すと言います。
【神の裁き】…イヴォールの兄・マードックは海の惑わしに取り憑かれていました。ある大晦日のこと、イヴォールと両親、妹とその夫とでマードックに会いに行くのですが…。
【イオナより】…イオナにいるフィオナ・マクラウドから、ジョージ・メレディスに宛てた手紙。(「THE SIN EATER AND OTHER CELTIC TALES」荒俣宏訳)

「かなしき女王」もそうでしたが、巻末の「北方の昏い星-フィオナ・マクラウドとスコットランドのケルト民族について」で荒俣宏氏が書いている通りの「呪詛と涙と月光と妖精の妖しい火とにあふれ」た作品集。読んでいると本当に、荒俣宏氏が書いている通り、まるでスコットランドのケルト人たちは狂死することが本懐のように見えてきます。まさしく当時のケルトの人々の心の中に入り込んで書いているような印象。これは、実はウィリアム・シャープという男性であるフィオナ・マクラウドが、フィオナの名前を使った時に初めて、心に霊が宿っていくらでも言葉が出てくる、という執筆形態によるものもあるのでしょうか。そしてこれまた「かなしき女王」でも思ったことなのですが、W.B.イエイツが採取した一連のケルト民話と比べて、物語として遥かに洗練されているのが印象的です。フィオナ・マクラウドも同じように民話を採取していたはずなのに、作家の創作という手を経るだけでこれほど違ってしまうものなのかと不思議になってしまうほど。これはケルト神話に近いですね。むしろケルト神話として伝わっている物語よりも洗練されているかもしれません。
巻頭の「クレヴィンの竪琴」は、「かなしき女王」に収められた「琴」と同じ作品。「雌牛の絹毛」と「ウラとウスラ」は繋がりのある物語ですが、同じエイリイという名前が登場しても、「クレヴィンの竪琴」とはまた別の物語です。この本の中で特に印象に残ったのは、英雄譚を思わせ、神話の時代に通じるものを感じさせるこの3作品でした。こちらの本にもキリスト教的色彩は見られるものの、「かなしき女王」で見られるようなあからさまなものではなく、もっと自然に溶け込んで存在しています。


「かなしき女王-ケルト幻想作品集」ちくま文庫(2006年8月読了)★★★★★

【海豹】…聖者コラムが神に召される1年ほど前。コラムはなぜ自分がまだ召されないのか思い悩んでいました。そして訪ねてきたムルタックの霊に尋ねることに。
【女王スカァアの笑い】…スカイの島の女王スカァア。彼女がクウフリンを慕い、クウフリンだけに輝かしい顔を見せながらも、クウフリンは彼女を愛することなく、島を去ってしまうのです。
【最後の晩餐】…小さな幼児だったアルトが出会ったのは、平和の王・ヤソ。アルトはヤソと12人の人々の食事風景を見ることに。
【髪あかきダフウト】…アルヴォルの王・グラッドロンは、サクソンの遊牧人も北のゲエルも山のピクト族も平らげ、モルヴァアクという黒馬とマルグヴェンという女を連れて帰ります。
【魚と蝿の祝日】…3日間断食したコラムに対し、断食をやめさせようとしたオランとキイル。しかしコラムが命じた時、壁の上の蝿が歌い始めたのです。
【漁師】…シェーン・マクラオド婆さんは、夕食の後、1人息子のアラスデルに楊の谷で出会った人のことを語ります。
【精】…「マリヤの僕カアル」として聖者となったアルトの子カアルは、アラン島でピクト人の酋長の娘・アルダナと出会い、彼女を愛します。しかし2人は見つかって罰せられることに。
【約束】…アルバンの南方の王・ケリルが1疋の猟犬と猟をしていた時、うっかり仙界の王・キイヴァンの手を踏みつけてしまいます。2人は1年間お互いの姿を交換することに。
【琴】…コン・マク・アルトとダルウラの美しい娘・エイリイは、アルトニア人の10人の人質のうちの1人・コルマク・コンナリスに恋をします。しかし王の命で琴手・クレヴィンに嫁ぐことに。
【浅瀬に洗う女】…目しいた時から、琴が仙界の風のひびきを持つようになり、トオカル・ダルと呼ばれるようになった琴手は、眠りの中で浅瀬を洗う女に出会います。
【剣のうた】…6月、スカイの海峡を下ってきた海賊たちは、沢山の掠奪品を彼らの船・スヴァルト・アルフに積み込み、また新たな村を襲います。
【かなしき女王】…ミスト島の女王スカァアの前に引き出されたのは、戦いに生き残ったはげのウルリックと琴手コンラでした。
【ウスナの家】…アルスターの王・コノール・マック・ネサは、自分の王妃とするつもりで大切に育てていたデヤドラをナイシイに奪われ逆上します。(「THE WORKS OF FIONA MACLEOD vol.II」松村みね子訳)

フィオナという名前ながらも、実際にはウィリアム・シャープという男性。オカルト研究家だったのだそうです。 ケルトスコットランドの西の海にある小島、古代の聖者コロンバにゆかりの聖なる心霊の地・アイオナ(イオナ)に滞在し、ケルト民族の神話や伝説、民間伝承に根ざした物語や詩を書きながら、滅び行く運命をもった「ケルトの暗い哀しさ」を訴え続けたのだそう。確かに全体を覆っているのは、何とも言えない陰鬱な雰囲気。しかしその中に、一条の光が射すかのような美しさを見せています。ケルトの英雄クウフリンや女戦士であり影の国の女王であるスカァア、ゲールやピクト、ケルトといった民族、さらには、ヴァイキングも多く登場し、いかにも副題通りの「ケルト幻想作品集」。
しかしそれだけケルト的なモチーフを含みながらも、異教的というよりもむしろキリスト教色の濃さには驚かされました。聖者コラムの登場する「海豹」「魚と蝿の祝日」も、その気配は濃厚ですし、「最後の晩餐」「漁師」などは、はっきりとキリストが登場するもの。しかしキリストその人が登場しながらも、どこかキリスト教圏の物語とは雰囲気が異なっているのが不思議な感じですね。キリスト教徒側の視点からの物語ではなく、あくまでもケルト側からの視点で書かれた物語といった感じです。そして「精」になると、コラムを始めキリスト教の僧侶たちが複数登場しながらも、こちらは逆にケルト精霊の力を再認識させられるような作品。キリスト教の狭義の懐の狭さと、土着の精霊たちの器の大きさが対照的です。カアルが青い人々に出会い、受け入れられる場面、そして聖者・モリイシャが青い人々を見る場面が非常に美しく、強く印象に残りました。
最もケルトらしさを感じた作品は、やはりスカァアが登場する「女王スカァアの笑い」と「かなしき女王」でしょうか。恋の狂気のために自滅し、男たちの血と死を求めるようになるスカァアの姿は、「琴」や、その裏返しのような戯曲「ウスナの家」の、恋によって破滅していく人々の姿に重なり、さらにはケルト文化そのものの破滅に重なっていくようです。しかし彼らの姿は哀しいながらも非常に強く、誇り高いのですね。そして「髪あかきダフウト」は、沈める都・イスの伝説前史。
アイルランド文学を数多く日本に紹介した松村みね子さんは、歌人としても活躍した方なのだそう。作中の詩の翻訳が美しく、その言葉に対する感覚にも納得です。

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