Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、アーサー・マッケンの本の感想のページです。

line
「夢の丘」創元推理文庫(2009年1月読了)★★★

貧しい牧師の家に育ったルシアン・テイラーは、学校の休みの期間に牧師館の近隣の見晴らしのいい場所を見つけようと歩き回り、空の凄まじい赤光に目を奪われ、人の通らなくなった暗い小径を歩き回り、ローマ人が大昔に作った砦を眺めます。書物が好きで、様々な文学を読んで成長したルシアンは、やがて円い小山の秘密や秘境の谷の魔法、葉の落ちつくした林の中を赤い渦を巻いて流れる小川の音などを英語の散文に移し変えたいと、少しずつ書き始めることに。(「THE HILL OF DREAMS」平井呈一訳)

「空にはあたかも大きな溶鉱炉の扉をあけたときのような、すさまじい赤光があった」という文章から始まる物語。その「赤い光」は作中に時々登場し、最後の最後までとても印象に残ります。
これはアーサー・マッケンの自伝的作品なのでしょうね。文学少年のルシアンが、自分の家の周辺の景色の美しさに気づき、その感動を文字に書き留めようとします。出版社に送った原稿は結局盗作されてしまうのですが、それでも書き続けるルシアン。ルシアンの持っている理想は現実から乖離していますし、ルシアン自身がルシアンの幻想の世界に生きているようで、どこまで読んでもまるで現実感が感じられないのです。これは結局、現実と理想のあまりのギャップの大きさにルシアン自身が耐え切れなかった、ということなのでしょうか。ルシアンの書く言葉、そして作り出す文学は、現実と理想の橋渡しになるものというよりも、幻想を支える土台のようなもの。現実と向き合うための盾のようなものですね。そして読んでいる私まで徐々に現実感を失ってしまうことに...。
場面場面の描写はとても印象に残っているのですが、それが頭の中で1つの流れとはならず、ばらばらに存在しているような印象。今ひとつ掴みきれなかったのが残念なのですが、不思議な作品でした。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.