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このページは、アン・ローレンスの本の感想のページです。

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「五月の鷹」福武書店(2007年4月読了)★★★★★
ロジアンの母の所からチェスターへと向かっていたオークニーの王子・ガウェインは、途中の谷間で濃い霧にまかれ、道に迷ってしまいます。そして辿り着いたのは、ゴーム谷のグリムの屋敷。ガウェインはどこか不吉なものを感じながらも、ここで一夜の宿を取ることに。主人のグリムは宮廷の事情に詳しく、ガウェインのことも見てすぐそれと分かったほど。しかし「残忍」という言葉がぴったりくる男でした。グリムとその娘のグドルーンと共に夕食を取った後、用意されていた部屋に戻ったガウェインは、そこにグドルーンが待ち構えているのを見て驚きます。なんと父親に言われて来たのだというのです。礼儀正しくグドルーンを退けるガウェイン。しかしチェスターの王宮の新年の宴の席に着いていたガウェインは、その場に来ていたグリムに、グドルーンを襲ったという濡れ衣を着せられてしまうのです。そして神聖裁判として、グリムの「すべての女が最も望んでいることとはなにか?」という問いの答を探すことに。(「THE HAWK OF MAY」斎藤倫子訳)

ガウェインとはウェールズ語で「五月の鷹」のこと。その題名通り、アーサー王伝説のガウェインが主人公の物語です。伝説のエピソードを自由自在に組み合わせているため、時折他のエピソードらしきものが顔を出すのが楽しいところ。ニニアンに閉じ込められてしまったマーリンも声だけですが登場しますし、特にガウェインが1年間の探求の旅に出ている時に、とある寺院の泉に辿り着く場面がいいですね。これは「マビノギオン」で、「ウリエンの息子オウァイスの物語、あるいは泉の貴婦人」に描かれている泉として登場する場所。そこには「なにかを待ち望んでいるような雰囲気」があり、ガウェインも何かをしなければいけないと感じるのですが、「たとえここに探し求めるべき冒険があるとしても、それは私がおこなうものではないのだ」と分かって、ガウェインは水を飲むだけで立ち去るのです。確かにこれはガウェインの従兄弟のイウェインの冒険。あとがきで訳者の斎藤倫子さんが「作者自身も楽しんでーーほとんど遊び心といってもいい感覚でーー書いたもののように思われてなりません」と書かれていましたが、本当にその通りなのではないかと思います。
ガウェインの弟たち、アグラウェインやガヘリス、ガレスも個性的に描き分けられていますし、グウィネヴィアもしっかりと自分を持った素敵な女性に描かれていますね。ただ1つ不満なのは、老婆・ラグニルドが必要以上に下品に振舞っているようにしか見えないこと。下品に振舞って尚、ガウェインに認められることが必要だったのでしょうか? それとも下品な性格もまたラグニルドにかけられた魔法のうちだったのでしょうか。確かに伝説でもその通りなのですが、あと一言添えられていたら説得力があったのにと思うと、少し残念な気がします。

「幽霊の恋人たち-サマーズエンド」偕成社(2007年3月読了)★★★
夏の終わり。学校に行ったリジーとジェニーの帰りを待っていたベッキーが農場の柵戸に腰掛けて薄青色の秋空を見上げていると、そこにやって来たのは荷物を背負って細い杖を持った男性でした。それはレノルズさん。レノルズさんはオーク荘という宿屋を経営しているベッキーたち三姉妹の家に住み込んで父親の仕事を手伝うことになります。姉妹たちはレイノルズさんが滞在している間、時々不思議な物語をしてもらうことに。(「SUMMER'S END-STORIES OF GHOSTLY LOVERS」金原瑞人訳)
【こわいもの知らずの少女】…しっかり者の女の子・プリスはおばあさんが亡くなってからドブソンさんの家で働くことに。そのうちプリスにはこわいもの知らずの少女だという評判が立ちます。
【タム・リン】…スコットランドの貧しい貴族の娘・ジャネットは、五月祭の朝、カーターホーへと出かけます。雪を散らしたようなサンザシの白い花の枝を折ろうとした時、そこに表れたのはタム・リンでした。
【チェリー】… 一番上の妹のジェニーが12歳になったのを機に、独立する決意を固めたチェリー。仕事を見つけるためにトウドナックへ向かう途中、馬に乗った紳士に出会い、その家の子守となることに。
【ウィリアムの幽霊】…いとこ同士で大の親友のウィリアムとジョン。ウィリアムはマーガレットという娘と結婚することになるのですが、結婚式の直前にウィリアムは胸を患って亡くなります。
【野ウサギと森の番人】… その村の川に近づくと、ニッキー・ニッキー・ナイに引きずり込まれるという噂がありました。ある日ルーシーという娘の話を聞いた森番は、ルーシーに会いに出かけます。
【泉をまもるもの】…白いメアリもスパニエルも気に入らないルーシー。しかしグウィンは家のものを勝手に動かさないで欲しいと言い、白いメアリにもらった花束を捨てたと聞いて怖い顔をします。
【ジェムと白い服の娘】…農場主の息子・ジェムは、丘のふもとの村のエレンと付き合い始めます。しかしある日待ち合わせの場所に行くとエレンはおらず、白い服の娘がいました。
【最後のお話】…妹が2人とも結婚し、ケイトも妹が世話になったポコック夫人に世話になることに。ある日犬の散歩をしている時、1人の若者がケイトを見つめているのに気づきます。

ある日ふらりとやって来たレノルズさんが三姉妹に語る物語。彼の語る物語はどれも「この世のものでないもの」が登場する物語。ファージョンの「リンゴ畑のマーティン・ピピン」「ヒナギク野のマーティン・ピピン」のシリーズを思い出させるような物語。あちらもどこかの伝承から題材を取ったような物語が多かったのですが、こちらも同様。特に2番目には、スコットランドの伝統的な物語詩「タム・リン」の話が登場します。元々アン・ローレンスは民間伝承を素材にした物語を書いていることで有名なのだそうです。しかしどの物語もおとぎ話風でありながら、どこか現実的。それぞれの少女が自分で自分の道を切り開き、自分の居場所を見つけていくからなのでしょうか。そしてその辺りが三姉妹のこれからを物語っているようでもありますし、最後のベッキーとレノルズの会話に結び付いてくるのですね。特に物語冒頭で子供から大人へと移り変わる季節を迎えたと描かれているベッキーに、それらの物語が重なるようです。
ただ、レノルズさんのお話そのものは面白いのですが、その他の部分は単なる繋ぎに過ぎないような気がします。途中で3姉妹の母親も登場するのですし、もう少し枠組みを膨らませれば、もっと魅力的になったのではないかと…。ベッキー、ジェニー、リジー、そして三姉妹の母親が鮮やかに見えてくるような工夫が何か欲しかったです。
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