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このページは、ウィリアム・ラングランドの本の感想のページです。

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「農夫ピアズの幻想」中公文庫(2007年7月読了)★★★
日の暖かなある初夏のこと、世の不可思議なことどもを聞こうと世間を歩き回っていた「私」は、モールヴァンの丘の小川のそばの斜面でぐっすり寝込んでしまい、その時に驚くべき夢を見ることに。夢の中で「私」はある荒野の中にいて、東を見ると丘のうえに見事な造りの塔が、その下には底深い谷間が、その谷間には恐ろしい掘割をめぐらせた城塞がありました。そして塔と城塞の中間の平らな野原には、あらゆる階層の人々が世のならわしのままに働いたり彷徨っていたのです。(「PIERS THE PLOWMAN」池上忠弘訳)

14世紀後半の詩人・ウィリアム・ラングランドによる寓話的な夢物語。この作品にはABCの3つのテキストがあり、ラングランドが期間をおいて改訂を重ねていった作品なのだそうです。内容としては、ラングランド自身の良心が提起した社会・宗教問題をさらけ出し、ラングランドなりに解明しようとしたもの。「報酬」や「良心」といった抽象概念が擬人化され、その言葉の意味を持ったまま普通の人間と同じように活動し、特性や機能を表すという擬人化のアレゴリー。この方法は、その人物を見ただけでどのような意味を持っているのかが分かりやすく、17世紀前半までの文学でよく用いられた方法なのだそう。13世紀フランスの「ばら物語」が有名です。そして「夢」(dream-vision)もまた、中世の重要な文学形式の1つであり、古代の人々は夢が未来に起こる出来事を予言していると信じていたことから、これもまた「ばら物語」によって世俗文学の世界に広まったようです。この「農夫ピアズ」の場合は、1回だけの夢ではなく、何度も続けてみているという点が特徴。読者はドリーマー(dreamer)と共に夢を見たり、夢から醒めて考えたりすることになります。まず、この世界に初めてやって来た語り手の問いは「どうしたら魂が救われるか?」であり、それに対する<聖教会>の答は、「真理」こそが最も重要だというもの。
キリスト教的な文学としては深い意味を持つ作品なのかもしれませんが、例えば語り手が「ウィル」という名前だというのもまるで説明がありませんし、農夫ピアズに関しても唐突。物語として読むにはまとまりが悪く、分かりづらいような気がします。17世紀の同じようなアレゴリー作品「天路歴程」の方が遥かに面白かっただけに、少し残念です。
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