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このページは、ジョン・ランチェスターの本の感想のページです。

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「最後の晩餐の作り方」新潮クレスト・ブックス(2005年8月読了)★★★
フランス贔屓のイギリス人・タークィン・ウィノットは、夏も過ぎてから短い休暇を取り、心の我が家である南仏へ。道すがら食べ物について思い浮かんだことを、訪れた土地や身の回りで起きた出来事を交えながら、ブリヤ・サヴァラン風に書き留めていきます。(「THE DEBT TO PLEASURE」小梨直訳)

ウィットブレッド処女長篇小説賞、ベティー・トラスク賞、ホーソーンデン賞、ジュリア・チャイルド賞受賞作品。
1人称で書かれていることもあり、まるで料理エッセイを読んでいるようでもあるのですが、これはタークィン・ウィノットという人物の自伝的作品という体裁。「序、謝辞、および本書の構成について」から既に物語は始まっていました。様々な料理に関する話が、架空の著者であるウィノットの6歳年上の兄のバーソロミューや女優をしていた母のこと、乳母のメアリー=テレサ、料理人・ミッターグとの思い出や、現在滞在しているホテル、行ってみたレストランの話などを交えながら延々と語られていきます。料理のレシピや薀蓄は詳細すぎるほど詳細で、古今東西の著名人や、哲学や美術、歴史の話が散りばめられ、語り手の博覧強記ぶりに幻惑されることに。そして最後に突然色々なことが腑に落ちるという仕掛け。かなりのブラック・ジョークですね。
しかしこの作品の最大の難点は文章が読みにくいこと。非常に長い文章が多く、しかもその長い文章の中に目一杯の情報が詰め込まれているので、一読してすんなりと意味が入ってきません。読んでいても目が文字の上を素通りしてしまいそう。しかも語り手は尊大で自信過剰で、自分勝手に話を進めるだけ。読み進めても、一体何がこの物語の核となっているのかがなかなか見えてこないのです。そのせいか、これだけの美食話にも関わらず、1つとして料理に対して「美味しそう」という印象を持つことができませんでした。翻訳の問題もあるのかもしれませんが、これは原文が相当の難文なのでしょうね。
しかしこの語り手の饒舌ぶり、文章の読みにくさは、実は作者の意図していたところだったのでしょうね。八面六臂の文章で読者を煙に巻き、語り手という人間をカモフラージュしていたように思えます。まんまと作者にしてやられてしまったのかもしれません… が、やはり読みにくさには変わりないですし、限度というものがあると思うのですが。
ちなみにミケランジェロの「最後の晩餐」とはまるで関係ありません。
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