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このページは、ジョン・キーツの本の感想のページです。

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「エンディミオン」岩波文庫(2008年12月読了)★★★★★

ラトモス山麓の羊飼いたちの部族の若き王者・エンディミオンは、狩を好む美しい青年。しかし喜ばしいはずの祝祭の日、エンディミオンは突然気を失うのです。優しく介抱する妹のピオナの腕の中で息を吹き返したエンディミオンが語ったのは、夢の中で出会った月姫と恋に落ちたということ。そしてエンディミオンは、地下と海底、そして天上へと月姫を探す旅に出ることに。(「ENDYMION」大和資雄訳)

月の女神・セレネがラトモス山中で眠っていた美しい少年・エンディミオンに恋をしたというギリシャ神話のエピソードを元にイギリスの詩人・ジョン・キーツが書いた長編の物語詩。
エンディミオンとセレネのエピソードは、アポロドーロスの「ギリシア神話」にはごくごくあっさりとしか載っていません。「カリュケーとアエトリオスから一子エンデュミオーンが生れた。彼はテッサリアーからアイオリス人を率いてエーリスを創建した。一説によれば彼はゼウスの子であるという。彼は人にすぐれて美貌であったが、月神が彼に恋した。しかしゼウスが彼にその欲するところを授け、彼は不老不死となって永久に眠ることを選んだのである。」…呉茂一「ギリシア神話」にはもう少し詳細な説明があり、永遠に美しさを保って死の眠りを眠るのと、生きて年老いていくのと、どちらがいいかという選択があり、永遠の美と死の眠りを選ぶことになったと書かれています。ただし、その選択をしたのがエンディミオンなのか、セレネなのか、それともゼウスの意思だったのかというのは明らかにはされていません。ということは、エンディミオンはゼウスの子ではないのではないかと思いますね。もしゼウスの子だったのなら、おそらくゼウスももう少し恋人たちに優しい措置を考えたのではないでしょうか。
しかしいずれにせよ、ギリシャ神話の中ではとても短いエピソード。この無機質と言えるほどのエピソードがこれほど長く美しい物語になってしまうとは驚きます。しかしギリシャ神話がこういった詩人たちのイメージの源泉となっているのは、とても分かる気がしますね。「エンディミオン」には、エンディミオンの妹など、ギリシャ神話には登場しない人物も出てくるのですが、基本的に神話の中の人物やエピソードが満載。とても好きな雰囲気です。

そしてこの大和資雄訳は昭和初期の文語調。とても美しいのです。キーツのイメージにもよく似合いますし、読むのには苦労しますが、目の前に美しい情景が広がるようです。素敵でした。
「美しきものはとこしへによろこびなり、
そのうるはしさはいや揩オ、そはつねに
失せ果つることあらじ。そは常に吾らのために
靜けき憩ひの木陰を保ち、又うましき夢と
健康と靜かなる息吹とに滿つる眠りを保たむ。」
新訳を出せば読みやすいでしょうし、読者も増えるのかもしれませんが… この美しさを再現するのはなかなか難しいことでしょうね。

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