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このページは、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの本の感想のページです。

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「ぼくとルークの一週間と一日」創元ブックランド(2008年12月読了)★★★★

両親を亡くしたデイヴィッドは、今はバーナード・プライス大おじに引き取られていました。アッシュバリーの家に住んでいるのは、大おじさんとドットおばさん、その息子のロナルドとその妻・アストリッドの4人。普段は寄宿舎学校に入っており、休暇の時はサマースクールやホリディ・キャンプに行くため、デイヴィッドが4人と顔を合わせることもほとんどないのですが、今回は参加するサマースクールを知らせるハガキが来なかったため、仕方なく家に戻ることに。しかし家に帰り着いてもデイヴィッドのトランクはまだ届いておらず、しかも誰もデイヴィッドがその日帰るとは思っていなかったため、大騒ぎになります。戻った途端揉め事続きで、しかも自分が4人にとって迷惑でしかないと改めて思い知らされたデイヴィッドは、4人に呪いをかけるつもりでぶつぶつつぶやきながら空き地を歩き回ります。そんなことをしても、実際には何も起こらないと分かってはいても、時々それらしい言葉の組み合わせを見つけるては大声で唱えてみるデイヴィッド。しかしついに最高の組み合わせを見つけたのです。デイヴィッドは、堆肥の山の上で重々しくその言葉を唱え、ついでに堆肥を一握り塀に投げつけます。するとその途端、塀が崩れ落ちはじめて...。(「EIGHT DAYS OF LUKE」大友香奈子訳)

1975年に発表したというダイアナ・ウィン・ジョーンズ初期の作品。
「呪い」が偶然成功してしまい、偶然助けることになったのはルークという名の不思議な少年。ルークに会いたい時はマッチをするだけでいいのです。ルークに関しては、ほとんど何も分からない状態。しかし少しつきあっただけで、ルークが普通のルールに従って生きているのではないということだけは分かってきます。
序盤はハリー・ポッターのような話だと思いながら読んでいたのですが(DWJの作品では、こういう設定は珍しくもないのですが)、中盤からぐんぐんと面白くなりました。面白くなってきたのは、これまで家の中で1人頑張っていたデイヴィッドが思わぬ味方を得る辺りからですね。それまではただの拗ねた少年にしか見えていなかったデイヴィッドが意外としっかりと育っていたことが判明。危ない事態に直面しても、歯切れの良い言動で意外と上手く切り抜けていて驚きました。いつの間にかプライス一家との立場が逆転していたのも面白いところ。ルークやルークの関係で登場する人々が思いがけないところに繋がっていくのがとても楽しかったです。
キーポイントは、とある神話関係。私は元々大好きなので、そちらの方面でもとても楽しめたのですが、日本人にはやや馴染みが薄いのです。そちら方面の知識があまりないと、今ひとつ楽しめないまま終わってしまうかもしれません。


「牢の中の貴婦人」創元推理文庫(2008年12月読了)★★★

エミリーはケント育ちの27歳の普通の女性。牧師だった父は5年前に、そして母も去年の夏に亡くなっています。しかしある時ふと気が付いたら見知らぬ世界の見知らぬ人々の中におり、ヒルダという女性の衣装を借りて着替えた途端、砦の牢獄に閉じ込められることになったのです。どうやら、この世界での二大勢力の一方の貴族の女性に間違えられているようなのですが…。(「THE TRUE STATE OF AFFAIRS」原島文世訳)

デビュー前に書かれたという「海駆ける騎士の伝説」よりもさらに古いという作品。
エミリーはまるで訳も分からないまま牢獄に入れられてしまうのですが、読者もまるで訳が分からないまま読み進めることになります。すぐに分かるのは、エミリーがどうやらこの国の2大勢力の争いに巻き込まれたらしということだけ。牢獄とは言っても暗くて湿っぽい地下牢みたいなのではなくて、貴婦人用のものなのできちんと家具も暖炉もある部屋なのですが。寝室まであるのですから、それほど悪い暮らしというわけではありません。そしてエミリーは、この部屋のバルコニーから見かけた、別の牢獄に囚われているハンサムな男性に心惹かれることになります。
しかし牢番の目を盗んでこの男性と手紙のやり取りをしてみたり、ユールのお祭りの前に呼ばれて来た彼の息子絡みで一波乱あったりと、色々な出来事はあるのですが、とにかく同じ場所ばかりの描写が続くこと、そしてなかなか事実が判明しないことなど、どうしても変化が乏しく、中盤で飽きてしまいました。そもそもこの世界が、あらすじに書かれてるように本当に異世界なのかどうかも分からないのですから…。
訳者あとがきに、この作品はDWJが「王の書」を読んでいた時に触発されて書いたとありました。これはスコットランド王ジェームズ1世が囚われの身になっていた時、遠くに見かけた娘に恋をして、そのことを題材に書いた詩なのだそう。王と娘の恋愛は、王が解放されると同時に終わります。そしてそれを読んだDWJが、娘の立場からこの作品を書いてみたというわけですね。しかしスコットランド王と娘の恋愛なら、そのまま終わってしまっても構わないかもしれませんが、この作品は最後まで読んでも、結局何がどうなってこのようなことが起きたのか分からないのです。完全に消化不良。古い作品を出版するのもいいのですが、それならそれできちんと手を入れて欲しいものです。これでは単なる習作としか思えません。
そしてこの作品は、デイルマーク王国史と共通してる部分が多々見られます。デイルマークの世界を構築している最中に書かれたため、とありましたが、こちらが原点となっているのかもしれませんね。


「魔法の館にやとわれて-大魔法使いクレストマンシー」徳間書店(2009年6月読了)★★★★

イギリス・アルプスの山中にあるストチェスターの町に住むコンラッド。コンラッドの叔父のアルフレッドはグラント&テズディニク書店を経営し、コンラッドやコンラッドの姉のアンシア、そして自分の姉である母さんを養っていました。しかしまずアンシアが大学に行くために家を出て、コンラッドも12歳になって学校を卒業すると、上の学校に進学するのではなく、ストーラリー館で働くことに。アルフレッド叔父が言うには、コンラッドは相当悪い業を背負っているため、ストーラリー館にいる誰かを始末しない限り、今年中に死ぬ運命にあるのだというのです。(「CONRAD'S FATE」田中薫子訳)

大魔法使いクレストマンシーシリーズ。
時系列的には「クリストファーの魔法の旅」の数年後の物語。この時点でのクレストマンシーはゲイブリエル・ド・ウィットという年配の男性です。大魔法使いクレストマンシーの<関連世界>は、第1〜第12までの12の系列に分けられ、各系列には原則として9つずつ異世界があり、全ての魔法の使われ方を監督するのが大魔法使いクレストマンシーである、といったダイアナ・ウィン・ジョーンズによる説明が冒頭にあります。同じ系列にある世界は地理的にはほとんど一緒で、たとえばクレストマンシーが住んでいるの第12系列の世界Aと、この世界は私たちの世界である第12系列の世界Bは外見的にはそっくり。しかし世界Aでは魔法がごく身近な存在であり、世界Bではほとんど魔法がないという点に違いがあるのです。そして今回は第7系列の世界が舞台の物語。しかし他の世界からの移動がほとんど前面に出てこない分、それほどややこしくはありません。
「クリストファー の魔法の旅」でのクリストファーは少年でしたが、こちらではコンラッドが見るところ「15歳にはなっているように」見える、お洒落な青年です。将来クレストマンシーになることが決まっているクリストファーも、今は普通の青年魔法使い。ストーラリー館では1人の近侍見習いとして、コンラッドと共にこき使われているのがまず楽しいです。そして最初はクリストファーに好感を持つコンラッドですが、徐々にその偉そうな態度が鼻についてきて、という辺りも面白いですね。少年の頃のクリストファー、この作品でのクリストファー、そして後のクレストマンシーとしてのクリストファーの変化の様子を、改めて追ってみたくなりました。
この作品の15年ほど後の話が「魔女と暮らせば」。その半年後に「トニーノの歌う魔法」、短編「キャットとトニーノの魂泥棒」「キャロル・オニールの百番目の夢」、そして次刊「キャットと魔法の卵」へと続くのだそう。ちなみに「魔法使いはだれだ」と短編「妖術使いの運命の車」「見えないドラゴンに聞け」は、時期ははっきりしないものの、「魔女と暮らせば」よりも後の出来事とのこと。全てが刊行されたあかつきには、時系列順に再読したいものですね。


「キャットと魔法の卵-大魔法使いクレストマンシー」徳間書店(2009年9月読了)★★★★★お気に入り

夏休みが始まって間もなく、マリアン・ピンホーとその兄のジョーは、ピンホーのばば様に呼び出されます。ピンホー一族はクレストマンシー城の近くにあるアルヴァースコート村に住む魔女の一族で、ピンホーのばば様はその一族の長。ボウブリッジ町やホプトン町、アップヘルム町、ヘルム・セント・メアリー村に移り住んだ一族の者たちもみな、ばば様の命令には従っているのです。ばば様の用件は、ジョーは夏休み中クレストマンシー城でブーツみがき係をしながら、クレストマンシー城の人々がピンホー一族のことに気づく気配がないかどうか確かめて報告すること、そしてマリアンは毎朝朝食後から夕食前までばば様の家で使い走りをすること。しかしそこにファーリー一族のじじ様とばば様、その娘のドロシアが現れ、口論の末、ファーリーのじじ様のかけた呪文で、ばば様がすっかりおかしくなってしまったのです。(「THE PINHOE EGG」田中薫子訳)

大魔法使いクレストマンシーシリーズ。「魔女と暮らせば」の翌年の夏の物語。
今回はあらゆる世界での魔法の使われ方を監督するクレストマンシーのお膝元で起きた事件。クレストマンシー城からほど近い村に住む魔女の一族、主にピンホー一家とファーリー一家のお話。
今回は久々の大ヒットでした。登場人物がとても多くて覚えるのが大変なのですが、読みながら面白くて面白くて仕方なかったです。まさかクレストマンシー城のお膝元にこんな一族が住み、このような状態になっていたとは…。頭がおかしくなってしまったばば様を自宅に引き取って介護する話やら、しかしそのばば様が実はまだまだ最強だったとか… ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品に嫌なオバサンが登場するのはいつものことですが、このピンホーのばば様は凄まじいですね。意地を張ってベッドに根を生やしてしまった姿などはとてもユーモラスなのですが、その実態は「ユーモラス」などとは言っていられないほどの酷いやりくち。ピンホーとファーリーの人々も、クレストマンシー城の人たちまでも、このばば様にいいように振り回されてしまいます。主役から脇役に至るまで魔法使いや魔女ばかり、しかも実に様々な種類の魔法を持った人がいるようですね。魔法を使える人でも知らないうちに魔法でいいようにされていたりして、必然的に大魔法使いや同等に力の強い人間が奮闘することになります。キャットとマリアンはいいコンビですね。
なぜか乗馬を始めることになってしまったキャットと馬のシラクーサ、そしてクラーチ。そして猫のウツケ。そしてモリー。今回は動物たちが大活躍しますし、映像的にも面白い作品です。

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