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このページは、ミック・ジャクソンの本の感想のページです。

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「穴堀り公爵」新潮クレスト・ブックス(2007年7月読了)★★★
年老いて、自分の身体が頑固な痛みの詰まった袋に過ぎないと痛感するようになった公爵は、ある時思い立って、広大な敷地内に巨大なトンネルを8本も掘らせることに。そのトンネルは、馬車も通れるという大きいもの。施工には5年もかかります。しかしそのトンネルが何のために作られたのか、公爵が人に明かすことはなかったのです。(「THE UNDERGROUND MAN」小山太一訳)

この作品はミック・ジャクソンの処女作なのですが、この作品が出る前に脚本を書いたり映画監督をしているそうで、それも納得の構成でした。基本的な流れは公爵閣下の日記なのですが、使用人や近隣の人々の証言が挟み込まれており、どこかとても映画的な印象があります。
最初は人生に疲れた普通の老人に見える公爵。いかにもイギリス的なユーモアを交えながら、この公爵の人となりが徐々に明らかになっていきます。周囲の人々にも奇矯な人物と認識されているようですが、最初のうちは愛すべき老人。しかし公爵が失恋した時や、子供の頃の両親の思い出など、これまでの人生でのエピソードも時折挟まれるのですが、あまりに断片的で、微笑ましいというよりも危うい印象。老公爵は徐々に狂気に蝕まれ始めており、ふと気がつくとそれは取り返しのつかないところまでいってしまっているのです。それがはっきりと分かるのは、エディンバラへの旅以降。
ただ、終始淡々と描かれるため、単調に感じられてしまうのが難点でしょうか。最後の結末などはかなり強烈な展開のはずなのですが、それでもそれまでの淡々とした筆運びに負けてしまっているように感じられてしまうのです。この穴掘り公爵にはモデルがいて、それは第5代ポートランド公ウィリアム・ジョン・キャヴェンディッシュ=ベンティック=スコットという人物なのだそう。とても風変わりな人物で、実際にトンネルを掘ったこともあったのだそうです。ここに登場する公爵と比べることができないので分からないですし、実際にはミック・ジャクソンが作り上げた部分も多いのでしょうけれど… どこかそのモデルの影から逃げ切れなかった、そんな印象も残ります。
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