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このページは、ダイアナ・ヘンドリーの本の感想のページです。

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「屋根裏部屋のエンジェルさん」徳間書店(2006年10月読了)★★★★

両親を事故で亡くし、アガサおばさんに引き取られた少年・ヘンリー。バランター通り131番地にあるアガサおばさんの家は下宿屋で、70歳ぐらいのマゴマゴさんと75歳ぐらいのオドオドさん、そして60歳ぐらいの銀行員・パーキンスさんの3人が住んでいて、屋根裏部屋に住んでいたパン屋のマーガトロイドさんが、屋根裏部屋の天井に頭をひどくぶつけて怒って出ていったところ。その日学校から帰ってきたヘンリーは、下宿人募集の看板を見てがっかりします。窓が1つあるだけで、暗くてじめじめした地下室に住んでいるヘンリーは、屋根裏部屋に住みたかったのです。けちで厳格なアガサおばさんのお眼鏡に適って屋根裏部屋に住むことになったのは、ハービー・エンジェル。500キロワットの幸せそうな笑顔が印象的な若者でした。(「HERVEY ANGELL」こだまともこ訳)

イギリスの児童文学賞・ウィットブレッド賞受賞作品。 
冷たくカチカチのアガサおばさんと、おばさんそっくりの居心地の悪い家が、「エンジェルさん」の登場によって徐々に変わっていくという物語。エネルギー充電器、銀色のフルート、文字盤に花や動物の絵がいっぱい描いてあって数字がほとんど見えない時計などといった「つながり道具一式」を持ち歩くエンジェルさんはとても胡散臭い人物。勝手に飾り棚や食器棚をくんくんとかぎ回り、「つながり」「回路」「エネルギー畑」などの言葉を連発します。
エンジェルさんがやって来てから最初の音楽会になるまでの過程が、あまりにあっさりしすぎているように思えましたし、その後の経過ももっとじっくりと描いて欲しかった気がします。それでも過去の人間と現在の人間をつないで、それを未来へと結びつけていくという基本的な部分がいいですね。そして人がそれぞれに香りを発散しているという部分がとても素敵です。不幸な家は魂のスイッチを切ってしまっているから、そして家をおさめる魂を見つけるために、「うちづくり屋」は、ヒナゲシの香りやリンゴの香りの中から、一番大切な香りを嗅ぎ分けなければならないのです。タチアオイの花やピアノやフルート、詩といった部分も効いていて、最後は読んでいる読者まで幸せにしてくれる幸せな暖かさ。とても可愛らしい物語でした。
エンジェルさんが何者だったのかは、最後まではっきりとは書かれていないのですが、ふらっとやって来て、ある日突然行ってしまうメアリー・ポピンズと同じような世界に住んでいるのかもしれないですね。


「魔法使いの卵」徳間書店(2008年7月読了)★★★★

スカリーことエラスムス・ブラウンのお父さんは魔法使いで、お母さんには予知能力者。スカリー自身も魔法使いの卵で、近々「魔法紳士団」の認定試験を受ける予定。しかし魔法のことは周囲には内緒。お父さんは市場の店で時計を売り、お母さんは占星術師で、スカリーは普通の人間の学校に通っています。しかしスカリーは欠席が多く、授業もぼーっとしてばかりいたため、「お守り」がつくことになってしまったのです。「お守り」としてやって来たのは、赤毛の若い女性・モニカ・ブリュワー。モニカは早速スカリーの家にやって来て両親と話し、学校ではスカリーに付き添うことに。(「MINDERS」田中薫子訳)

田中薫子さんが訳で佐竹美保さんが挿絵。まるでダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品を読んでいるような錯覚を覚えてしまいますが、DWJの作品と同じくテンポの良い展開ながら、DWJに比べると物語があっさりして読みやすいです。あっさりと中編、それなのに物語には書かれていない世界の奥行きが感じられるところが良いですね。そしてスカリーのお守り役のモニカもいいですし、過去の時代を旅して帰ってくるたびに話し方が古めかしくなるというお父さんも可笑しくて魅力的。
スカリーと同じクラスにリジー・モアランドという女の子がいます。親がとてもお金持ちなのに全寮制の学校などではなく、スカリーのような普通の家の子供たちが集まる学校にいるため、彼女は家にある5台の車のことやイタリアのトスカーナにある別荘のこと、週末にちょっとニューヨークに行ってきたことなどをうっかりしゃべってしまわないように努力しており、服装も周囲に合わせようと苦労しているようです。スカリーはリジーにこそ気にかけてくれる「お守り」が必要なのではないかと考えています。…「いっぱいいろんなものを「持ちすぎてる」女の子に、そのうえなにかをつけようなんて、だれも思わないんだ。「持ちすぎてる」人も、「まるでたりない」人と同じくらいこまってるのかもしれないってことに、みんな気がつかない。こまってることの中身はちがうし、まるでたりない人にくらべたら切実じゃないかもしれないけど、でもこまってるにはちがいないのに」…  こんな風に何気ないところにハッとさせられる台詞が潜んでいて、なかなか侮れない作品です。

P.24「人間はみんな、魔法遺伝子を持っているんだけど、一生それに気づかなかったり、気づかないふりをし通す人もいるんだ。お母さんによると、人の感性が豊かかそうでないかは、魔法遺伝子によって決まるんだって。「魔法遺伝子が活発な人はね、上等なグラスみたいに、打てばきれいな音で響くの。でも魔法遺伝子が働いてない人は、鈍い音しかしないのよ」

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