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このページは、ルーマー・ゴッデンの本の感想のページです。

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「人形の家」岩波少年文庫(2005年6月再読)★★★★★お気に入り
トチーは100年以上前に作られた小さなオランダ人形。今はデーンさんの家の小さいエミリーとシャーロットのいる子供部屋に暮しています。トチーと一緒にいるのは、トチーよりも少し大きめのプランタガネットさんと、セルロイド製の「ことりさん」ことプランタガネット奥さん、そしてフラシ天の小さな人形「りんごちゃん」と、背骨がかがり針でできた飼い犬の「かがり」。エミリーとシャーロットは人形を大切にする子供たちだったため、人形たちは、靴箱の中に住まなければならないのを別にすれば、とても幸せに暮らしていました。そんなある日、エミリーとシャーロットの大おばさんが亡くなり、トチーが昔住んだことのある素敵な人形の家がエミリーとシャーロットの元へとやって来ます。しかし美しいけれど性格の悪い花嫁人形・マーチペーンもまた、2人の元へとやって来ることになるのです。(「THE DOLL'S HOUSE」瀬田貞二訳)

トチーたち人形は常に子供たちに「遊んでもらう」だけで、自分たちから何か「する」ことはできません。彼らにできるのは「願う」ことだけ。古い人形の家がエミリーたちの元に来た時も、「ぼくたちに何ができるだろう?」と言うプランタジネットさんに、トチーは「願うことができるわ」「願って!願って!願うのよ!」「なんどもくりかえすのよ」「けっして途中でやめてはいけないわ」と言いきかせます。そして願いは不思議とエミリーとシャーロットに通じて、1つずつ叶えられることになります。この辺りに、子供たちと人形の絆、普段子供たちがどれだけ人形を大切にしているのかが伝わってきて素敵です。もっとも、子供たちは人形を「秘密主義」と考えていて、人形が何を考えているのか分らないことを残念に思っているのですが、それでも展覧会に送られるチトーの不安な気持ちなどはきちんと受け止めています。しかし考えてみれば、無力なのは人形たちだけではないのですね。人形の家や、人形の家用の椅子とソファーのセットを欲しがっているエミリーとシャーロットも、それを自分たちの力で買うことはできません。それでも子供たちが願わなければ、人形の家も、人形の家用の椅子とソファのセットも、何1つとして手に入らなかったのでしょう。もちろん子供たちは、人形の家用の椅子とソファのセットを手に入れるために自分たちでも努力することになるのですが、まず願わなければ何事も実現することはないという強いメッセージのように思います。
トチーはもちろんのこと、プランタジネットさんやことりさんたちの造形もしっかりとしているので、読みながらとても感情移入してしまいます。しっかりとした木で作られているトチーが、しなやかな強さを持った人形だということや、セルロイド製のことりさんが、いつもふわふわと軽くて物事を深く考えられないというのも上手いですね。しかしそれだけに人形たちの哀しい運命やマーチペインの自己中心的な意地悪さに心が痛みます。それでもエミリーとシャーロットも最後にきちんと自分たちにとって本当に価値のあるものを選ぶことになります。外見だけの美しさに惑わされるのでなく、内面の美しさや貧しさに気付くこと… それは人形だけの物語だけではないのですね。
読んでいると気持ちが柔らかくほぐれてくるような優しさを持った物語。繊細な挿絵もとても素敵です。
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