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このページは、アラン・ガーナーの本の感想のページです。

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「ブリジンガメンの魔法の宝石-オールダリーの物語」評論社(2009年1月読了)★★★

かつての乳母・ベス・モソックを訪ねて、オールダリーの村へとやって来たコリンとスーザン。ベスが乳母だったのはもう12年も前の話なのですが、いまだに折に触れては手紙やクリスマスの贈り物のやり取りをしており、両親ともイギリスを離れている半年間、2人はモソック家に滞在することになったのです。到着した翌日、早速近くの「丘」へと出かける2人。見渡しても家など一軒もないところにぽつんとうずもれている「魔法使い」という名前のついた宿屋があったり、魔法使いの意志によって水が流れているという言葉が刻まれている石の水槽を見て不思議に思います。しかしお茶のために帰宅している時、突然奇妙な女性に絡まれます。その女性は道を尋ね、モソック家は歩いて100メートルほどの距離にも拘らず、強引に2人を乗せようとします。そして2人が拒むとラテン語のような言葉を唱えだしたのです。(「THE WEIRDSTONE OF BRISINGAMEN」芦川長三郎訳)

イギリスのウェールズ地方に伝わる民間伝承を元に書き上げたという作品。その伝承がケルト文学の中に織り込まれている、と訳者あとがきにありましたが、洞窟の中で甲冑に身を固めた騎士たちがいつか戦う日のために人知れず眠っている… というのは、アーサー王伝説にもある言い伝えですね。この物語でその騎士たちを眠らせたのは、「銀のひたいのキャデリン」と呼ばれる魔法使いなのですが、これがまるでマーリンのよう。そしてこのキャデリンが騎士たちを眠らせ続けているのは、「炎の霜」と呼ばれるブリジンガメンの魔法の宝石の力によって。この宝石が紛失し、キャデリン側と邪悪な敵・ナストロンドが宝石の行方を密かに捜す… という辺りからは「指輪物語」と似たような展開になります。スーザンが知らずに貴重な宝石を持っていたというのもそうですし、コリンとスーザンが途中脱出しようとする洞窟はまるでモリアのよう。同行するのはドワーフ、途中で出会うのはエルフ、そして「黄金の手のアンガラット」はガラドリエルといったところでしょうか。キャデリンも、ガンダルフのように見えてきます。
しかしやはり似ているだけに「指輪物語」と比べてしまいますね。中心人物たちが今ひとつ魅力不足に感じられてまったのがとても残念。黄金のアンガラッドやギャバランジーといった人物には、背後にいかにも物語が潜んでいそうですし、それはこの世界観がきちんと作られているからなのでしょうけれど、その魅力が十分に発揮されていないようにも思います。この本では「炎の霜」ことブリジンガメンの魔法の宝石の奪還の物語だけが語られているのですが、大きな歴史絵巻の一部分を切り取ったという印象の作品。この後のことが「ゴムラスの月」で語られることになるのでしょうか。しかしその1冊では、この世界の全貌を見ることはできなさそうですね。

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