Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、ニール・ゲイマンの本の感想のページです。

line
「コララインとボタンの魔女」角川書店(2007年10月読了)★★★

コララインとその両親が引っ越してきたのは、古い大きな家の2階。その家の1階には元女優のミス・スピンクとミス・フォーシブルが何匹ものスコティッシュ・テリアと一緒に住んでおり、屋根裏の3階に住んでいるのは、ハツカネズミにサーカスの芸を仕込んでいるという変わり者のおじいさん。2階の半分をコララインの家族が半分を使い、あとの半分は空き家となっているのです。境目にある大きな木のドアをあけると、そこにはレンガの壁があるだけで行き止まり。しかしある日、母親が買い物に出かけている時にコララインがそのドアを再び開けてみると、そこにあったはずのレンガの壁はなく…。コララインが向こう側に足を踏み入れてみると、そこにはコララインの家そっくりの空間と母親そっくりの女性が。しかし部屋の雰囲気はどことなく違い、その女性は本物の母親よりも背が高くて痩せていて、気味が悪いほど色が白く、目が大きな黒いボタンでできていました。(「CORALINE」金原瑞人・中村浩美訳)

ヒューゴー賞とイギリスSF協会賞を受賞したという作品。
話はとても淡々と進んで、静かではあるけれど、「もうひとりのお母さん」ののっぺりした顔のように不気味な雰囲気。こちらとあちらとどちらが本当の世界なのかといえば、もちろんこちらに決まっているのですが、こちらの世界のコララインはあまり幸せではないのです。せっかくコララインという個性的な名前を持っているのに「キャロライン」と間違われてばかりですし、デパートでは蛍光グリーンの手袋が気に入ったのに、母親が買いたがったのは、誰でも持っているようなグレーのブラウス。探検できるところは既にしつくしてしまい、両親とも家で仕事をして身近にいるというのに、1人ぼっちで退屈なコラライン。お父さんの作る食事もちっとも美味しくありません。仕方なく1階の2人の老婆や3階の老人に相手をしてもらっているのですが、そんなコララインが訪れた「もうひとつの世界」では、コララインの日頃の不満が全て解消されていました。両親とも優しく、食事は美味しく、面白いことがいっぱい。自分の部屋は個性的で珍しいものが沢山あり、衣装戸棚には仮装用に使えそうな服ばかり。本当の世界ですら名前を間違えられてばかりのコララインにとっては、まるで「もうひとつの世界」の方がコララインが本来属するべき世界のよう。そんなコララインに、「ネコには名前などない」「おまえたち人間に名まえがあるのは、自分が何者かわかってないからだ。おれたちはわかっているから、名まえなど必要ない」というネコの言葉が意味深長。
物語としてはあまりに淡々としすぎていて盛り上がりに欠けますし、面白味も薄いような気はするのですが、この雰囲気を映画にしたらきっと相当怖くなりそうですね。丁度この作品のアニメ映画の製作が進んでいるところのようなので、そちらの出来上がりが楽しみです。


「スターダスト」角川文庫(2007年10月読了)★★

そこにある石の壁が名前の由来となったウォールの町。壁のただ1つのの穴を抜けた向こうには妖精の国が広がり、町を抜け出そうという人間が出ないように、穴には常に見張りがつけられています。しかし9年に1度の5月1日のメイデイ、壁の向こうの草原に市が立つ日だけは、見張も警戒を緩めるのです。トリストラン・ソーンは、ダンスタン・ソーンが18歳の時の市で、囚われの妖精と出会ってできた息子。そのトリストランが17歳の時、トリストランはその界隈で一番の美人のヴィクトリア・フォレスターのために、一緒に見た流れ星を拾ってくる約束をします。もし無事に流れ星を持って帰ることができたら、何でもトリスタンの望むことをするとヴィクトリアが約束したのです。そしてトリスタンは壁を抜けて、妖精の国へ…。(「STARDUST」金原瑞人・野沢佳織訳)

訳者あとがきには、「ハリー・ポッター」は「子ども向けだけど、大人も楽しめる」作品で、こちらの「スターダスト」は「大人向けだけど、子どもも楽しめる」と書かれているのですが、読んだ印象としては「ハリー・ポッター」よりも子供向けのファンタジーという印象の作品でした。確かに大人向けの場面もあるのですが、それはほんの少し。その場面さえなければ、児童文学という分類で十分だと思いますし、むしろ子供の方が楽しめるのではないかと思います。主人公のトリストランの旅は、当初想像したほど困難ではなく、その場その場での助けの手もあって比較的スムーズに目標が達成されますし、ウォールの町での場面が念入りに書かれている割に、物語全体も簡単に終わってしまいます。せっかくの「壁の向こう側に妖精の国が広がる」という設定があまり生かされていないようで残念。この作品は実際に映画化されているようですが、まさに映画のノベライズを読んでいるような印象でした。これでは大人の読者は、肩透かしを食わされたように感じてしまうかもしれませんね。訳者あとがきに書かれているように「ちょっと初々しく、ちょっとストレートで、ちょっとほほえましく、ちょっとはにかみがちで、思いっきりロマンチック」な作品なのですから、もう少し丁寧に書き込んであれば、ずっと読み応えがある作品になったのではないかと思うのですが…。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.