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このページは、E.M.フォースターの本の感想のページです。

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「天使も踏むを恐れるところ」白水uブックス(2009年5月読了)★★★★

33歳の未亡人のリリアが、23歳のキャロライン・アボットと共に1年のイタリア旅行に出ることになります。チャールズ・ヘリトンが10年前に周囲の反対を押し切ってリリアと結婚して以来、ヘリトン夫人を始めヘリトン家の人々は、リリアをヘリトン家の嫁として恥ずかしくない人間になるように教育し続け、それはチャールズの死後も続いていました。しかしリリアは主婦としても奥様としても落第。ヘリトン家では、リリアが真面目なキャロライン・アボットの感化を受けることを期待して送り出します。そんな期待を知ってか知らずか、イタリアから楽しそうな手紙を頻繁によこすリリア。しかしそんな時、突然リリアが婚約したという知らせが舞い込み、ヘリトン家は大騒ぎに。(「WHERE ANGELS FEAR TO TREAD」中野康司訳)

「天使も踏むを恐れるところ」とは、18世紀のイギリスの詩人・アレキサンダー・ポープの「批評論」の中の一節「天使も足を踏み入れるのをためらう場所に、愚か者は飛び込む」から取られたもので、本来は無知と軽率さを笑い、賢明で慎重な行動の大切さを説く言葉。この場合、「愚か者」は明らかにリリアですね。そして訳者あとがきにはヘリトン夫人が「天使」の代表だと書かれているのですが、どうなのでしょう。もちろんヘリトン夫人もそうなのでしょうけれど、私にはむしろキャロライン・アボットのように思えます。キャロライン・アボットは、ヘリトン夫人のような「賢明」で「慎重」な存在とは言えませんし、むしろ常に揺れ動いているのですが…。
自由奔放で、裕福で上品なヘリトン家の家風に合わずに結婚して以来というもの窮屈な思いをしてきたリリア。彼女の同伴者となるキャロライン・アボットは、常識的な真面目な女性。そしてハンサムなイタリア男のジーノは、自由でおおらかな精神の持ち主。細かいことに一喜一憂し、自分たちが認められないことは直視しようとしないイギリス勢と、全てをそのまま受け入れて認めるイタリア勢のお国柄も対照的なら、奔放なリリアと真面目なキャロライン・アボットの造形も対照的。そしてそこで右往左往するのは、イギリス人でありながらイタリアを賛美するリリアの義弟・フィリップ。彼の橋渡しにもならない滑稽な姿も印象的です。「愚か者」のリリアですが、愚か者なりに自分に正直に求めるものを求め、それを得ることになるのですね。キャロラインもまた求めてはいるのですが、賢明かつ慎重でありたい彼女には、リリアのように軽率な行動を取ることは許されず、結局求めるものを何も得ることができません。ただし、軽率な行動はそれなりの結果をももたらします。結果的に誰が一番幸せだったのでしょう。とても滑稽でありながら、同時に深い喪失感も残る作品。全てにおいて両極端な悲喜劇だったように感じられました。

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