Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、ペネローピ・ファーマーの本の感想のページです。

line
「イヴの物語」トパーズプレス(2009年1月読了)★★★★★

イヴがエデンの園の禁断の木の実を食べたのは、自分で食べようと決めたから。蛇は挑発こそしたものの、その行為自体に直接の関係はないのです。しかしイチジクの繊維が多くもったりとした果肉、ぼんやりとした甘さはイヴを落胆させただけでした。イチジクを食べたことによって空が落ちることはなく、神の怒りを示す雷鳴が鳴り響くこともなく、自分裸なのに気付いて恥ずかしくなることもないまま、イヴは夜になって顔を合わせたアダムにイチジクを食べたことを告白。イヴを失いたくないアダムもまた、イチジクの実を食べることに。そして翌朝、いい加減待ちくたびれた頃に4人の天使たち、ミカエルとラファエル、ガブリエルとウリエルがやって来て、2人と蛇、そして動物たちをエデンの園から放り出します。(「EVE: HER STORY」金原瑞人訳)

聖書の創世記、アダムとイヴの楽園追放の物語をイヴの視点から描いた物語。同じようにエデンの園を描いた作品といえばジョン・ミルトンの「失楽園」がありますが、魅力的な堕天使たちが特徴の「失楽園」とはまた全然違う、フェミニズム的な視点から語った作品となっています。
アダムの最初の妻・リリスもまたエデンの園にいるということがとても面白く感じられたのですが、それ以上に興味深かったのは蛇の造形。蛇は最初から現在のような蛇の姿ではなく、人間のような姿であり、文化的にとても進んだ存在だったという設定が面白いです。エデンの園の木々の世話をしているのも蛇ですし、自宅では様々な道具を使いこなす文化的な生活を営んでおり、しかもイヴにこれから起きるノアの箱舟の話やバベルの塔の話、ダニエル書のシャデラクとメシャクとアベデネゴの話などを語って聞かせるのです。世界にはまだアダムとイヴとリリスの3人の人間しか存在しておらず、いきなり大勢の人間の話をされてもイヴは戸惑うばかりなのですが、その中にはイヴ自身の未来の物語も含まれています。そして蛇はイヴに日常生活の中の様々なことを教えるのです。あたかも来るべき楽園追放の日々に備えるかのように。この物語では蛇自身は堕天使ではありませんが、堕天使・サマエルとは親友という間柄。
こういった物語は聖書ではなく、もっと様々なエピソードが語られているユダヤの創造神話からできあがったのだそうです。ルイス・ギンズバーグの「Legends of the Jews」やロバート・グレイヴズとラファエル・バタイの「Hebrew Myths, The Book of Genesis」、ラポポート「Myths of Ancient Israel」が参考になりオススメなのだそうですが、それらの日本語訳はその後出ているのでしょうか。今後出ることはあるのでしょうか…? ぜひとも読んでみたいところなのですが…。

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.