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このページは、コリン・デクスターの本の感想のページです。

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「ウッドストック行最終バス」ハヤカワHM文庫(2000年2月再読)★★★★★お気に入り
ウッドストック行きのス停にいた2人の娘は、バスを待ちくたびれて、とうとうヒッチハイクをすることに。しかしその日の晩、ヒッチハイクをしていた片方の娘が酒場の駐車場で死体となって発見され、もう1人の娘はそのまま行方不明になってしまいます。その後、2人を乗せた車を運転していた男は見つかるのですが、その男はどうやら犯人ではないらしく…。モース警部が捜査に乗り出します。(「LAST BUS TO WOODSTOCK」大庭忠男訳)

コリン・デクスターのモース警部シリーズの第1作。
このシリーズの一番の特徴は、まずその推理の進め方です。普通のミステリ作品でも、探偵はある程度試行錯誤しながら推理するとは思うのですが、このモース警部は、物語が続いている間中ひたすら大胆な仮説をたて続けます。証拠が不十分だったり、良く分からない部分については、モース警部個人の勝手な想像で補い、そこからさらに推理を無理矢理推し進めるのです。しかし大抵の場合は、勝手な思い込み部分が間違えているので、推理は最初からやり直しとなります。警察らしい捜査の場面はほとんどなく、ただ、モース警部の推理が延々と繰り広げられるのみ。しかしその仮説の1つ1つが、正解ではないにせよ、とても魅力的。決して頭が悪いゆえの間違いではないのです。むしろその逆。この「正解ではなくても楽しめる」という部分は、アントニイ・バークリーの「毒入りチョコレート事件」に少し通じるところがありますね。2作目以降、この特徴はますます顕著になっていきます。あまりに何度も試行錯誤しているので、読んでからしばらく時間がたつと、真犯人が誰だったのか忘れてしまうほど。今回読み返した時も、かろうじて犯人の名前は覚えていたのですが、それ以外の展開はすっかり忘れていました。
モース警部とルイス部長刑事のやりとりも魅力の1つ。自分勝手なモース警部を、人の良いルイスがひたすら献身的にサポートし、尻拭いしていきます。モース警部は本当にわがままばかり言っているのですが、ルイスがいるからこそ自分の推理を展開できるんですよね。そしてそんなモース警部をルイスが本当に好きだというのが感じられるのが、またいい感じ。本当に良いコンビです。

「モース警部、最大の事件」ハヤカワHM文庫(2000年2月読了)★★
短編集です。モース警部物の他に、ノン・シリーズ物とホームズ物のパスティーシュ「花婿は消えた?」があります。作風は相変わらずの皮肉っぷりなのですが、短編だといつものモース警部の脱線しまくりの推理の本領発揮というわけにはいかないのが残念です。(「MORSE'S GREATEST MYSTERY AND OTHER STORIES」大庭忠男他訳)

収録作品…「信頼できる警察」「モース警部、最大の事件」「エヴァンズ、初級ドイツ語を試みる」「ドードーは死んだ」「世間の奴らは騙されやすい」「近所の見張り」「花婿は消えた?」「内幕の物語」「モンティの拳銃」「最後の電話」

「カインの娘たち」ハヤカワHM文庫(2001年5月読了)★★★
今回モース警部とルイス部長刑事が担当したのは、オックスフォード大学の元研究員の刺殺事件。容疑者として名前が挙がったのは、以前この被害者の住むフラットの用務員をしていた時に、麻薬の密売がばれて首になったエドワード・ブルックスでした。しかし彼は数週間後、刺殺体として発見されます。そしてその凶器は、彼自身が最近勤務していた博物館から盗まれた物だったのです。(「THE DAUGHTERS OF CAIN」大庭忠男訳)

モースとルイスのコンビの楽しさは相変わらずなのですが…。でもモース警部が絶不調?!
いつものああでもないこうでもないという紆余曲折の推理があまり見られず、その上、どうやら健康状態もかなり悪いらしく、いつもなら少なくともあと三転四転はするところが、今回はかなり控えめです。魅力的な女性が近づいてきても、モース警部の気分もどうにも冴えないようで…。。シリーズも終わりに近づいてきているというのは分かるのですが、大丈夫なのでしょうか。…それでもやはりモース警部はモース警部なのですが。(笑)
私の注意力が散漫だっただけなのかもしれませんが、最初の方の人間関係が少々分かりづらく感じました。しかしラストはなかなか切なくて良いですね。今回はモースよりも女性たち(カインの娘たちでしょうか)が主役だったと言えるような作品でした。

「死はわが隣人」ハヤカワHM文庫(2001年12月読了)★★★★
大学の学寮長の後継者選挙を控えたオックスフォード。久しぶりの選挙の候補者は、ジュリアン・ストーズとデニス・コーンフォード、五分五分の勝負と言われています。しかしそんなある日、大学にほど近い住宅地でレイチェル・ジェームズという若い女性の射殺死体が発見されます。モース警部とルイス部長刑事が調べていくうちに、この女性はジュリアン・ストーズと不倫関係があったことがわかり、その他にもオックスフォードに存在するいろいろな脅迫が明るみに出てきて…。しかし捜査の最中、モース警部は糖尿病で緊急入院することに。(「DEATH IS NOW MY NEIGHBOUR」大庭忠男訳)

モース警部シリーズ第13作です。これでシリーズ終了かと騒然となったという作品。前作で、かなりの疲れを見せていたモース警部は、今回少し復活。ひどい糖尿病で入院する場面はあるのですが、しかし前回と違い、魅力的な女性は放っておきません。それでも初期のような迷走する推理はあまり見られず、常識的な範囲でのみの推理の積み重ね。それだけが少々物足りないですね。
しかし、何の関連も見られなかったいくつかの事柄がだんだんとつながっていくさまは、まさにコリン・デクスターの職人技。後継者選挙と事件のつながり方は、やはりさすがです。それに、学寮長の後継者選挙の水面下での状況を見ていると、イギリス、それもオックスフォードでも、このようなことがあるのかと改めて驚かされます。一流の知識人と言われる人々だからこそ、プライドが人一倍強くなってしまうのでしょうか。全く情けない話ですね。
そしてこの作品の大きな目玉は、モース警部のファーストネームが分かること!しかしこの名前、天才型のモース警部にはあまり似合ってないようです。隠したくなるのも分かります。(笑)

「悔恨の日」ハヤカワHM文庫(2003年10月読了)★★★★★お気に入り
糖尿病の病気療養中のモース主任警部補の元を訪れたのは、上司のストレンジ主任警視。1年前、看護婦のイヴォンヌ・ハリスンがローワー・スウィンステッドの自宅で全裸死体で見つかった事件に関して、匿名電話による情報提供があったため、モースにその事件を再捜査して欲しいというのです。しかしモースはその事件の話を聞いても、いつになく消極的。それでもストレンジの要請に応えて、再度ルイスと組んで捜査に乗り出すことになります。(「THE REMORSEFUL DAY」大庭忠男訳)

モース主任警部シリーズの14作目にして最終巻。本国英国では、シャーロック・ホームズを凌ぐ人気を誇り、シリーズが終わってしまうという噂に抗議が殺到し、急遽記者会見を開かなければならなくなったという人気シリーズ。日本での評価はそこそこなのですが、私も本当に大好きで、これでもうモースの迷走推理にもお別れかと思うと、なかなか読み始められなかった1冊です。
やはり14作目ともなると、初期の鮮烈さは失われているのですが、今回に限っていえば、それはあまり問題ではありません。いつになく事件に対して消極的なモースの姿には、ひたすら悪い予感。しかし今回のモースの行動は、ひたすら素敵です。やはり素晴らしい名探偵ですね。今回、なぜモースが事件にあまり関心を示さなかったのか、モースが最後まで守ろうとしたものは何なのか… 最後のルイス部長刑事の涙は、シリーズを読んできた読者全員の涙でしょう。事件自体はそれほど大したことはないのですが、しかしこのラストだけで感無量です。
解説で山田正紀さんが「デクスターの熱烈なファンでありながら、その内容をよく覚えていない、という読者は、ぼく一人にかぎったことではないらしい」と書かれていましたが、正にその通りですね。ここまで再読に耐えるミステリというのは、珍しい存在なのでは。
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