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このページは、ジョゼフ・ディレイニーの本の感想のページです。

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「魔使いの弟子」創元ブックランド(2009年3月読了)★★★★★

畑を分割しないことが鉄則の農家では、長男以外の息子たちにそれぞれ仕事を見つけることが必要。そして7番目の息子のトム・ウォードは魔使いの弟子になることになります。トムの父親も7番目の息子で、7掛ける7の子には素晴らしい能力があるのです。とは言え、畑や村や町を悪い魔女や魔物から安全に保ち人々を守るという大切な仕事を果たしながらも、人に忌み嫌われる魔使いという仕事に胸中複雑なトム。そして師匠となる魔使い・グレゴリーが迎えに来たのは、トムが12歳の春のことでした。トムはウォータリー通り13番地の幽霊屋敷での試験に合格し、魔使いが「夏の家」と呼ぶチペンデンの家で学び始めることに。(「THE SPOOK'S APPRENTICE」金原瑞人・田中亜希子訳)

魔使いのシリーズの第1弾。
この物語では、「魔法使い」ではなく「魔使い」というのがポイント。魔女やボガートのような魔物は存在するのですが、魔使いはあくまでも「魔使い」。魔法使いのように魔法を使うのではなく、力づくで戦うのでもなく、それまで培ってきた知識と経験を駆使して魔女や魔物に立ち向かうのです。例えば魔女を拘束するのに必要なのは銀の鎖。自由ボガートを拘束するには、巨大なオークの木のそばに縦180cm横90cm深さ180cmの穴を掘り、塩(ボガートを焼く)と鉄(邪悪な力を失わせる)と骨から作った特殊な接着剤を混ぜて穴の内側に満遍なく塗り、穴の中には血を入れた皿を置き、臭いに誘われたボガートが穴に入ったらすかさず分厚い石板で蓋をするという仕組み。それほど特別な道具を使うわけではありません。しかし魔使いになるには誰でも構わないというのではなく、それなりの素質は必要なよう。7掛ける7の息子だけあって、トムも兄たちとは違って幼い頃から普通の人間には見えないゴースト(霊)やガースト(残留思念)が見え、その音を聞いたりしています。
このトムの造形がいいですね。ごく普通の12歳の少年が主人公という物語は多いと思いますが、トムはとても頭がいいですし勇気もあり、そこまでなら普通なのですが、とても真っ当に育った少年なのです。ボガートが何種類いるか知っているかと尋ねられた時の答え方、そして脅されて怖いからといって魔使いのための食料を無闇に他人には渡そうとしない責任感を見せてくれた時が印象的。いまどきなかなかいない良い少年。両親の育て方、そして家族のあり方がとても良かったのでしょうね。しかしそんな真っ当さな感情を持つ少年だけに、人々に忌み嫌われている魔使いになるには、かなり迷いもあるのですが…。今回は邪魔女・ボニー・リジーの姪のアリスに振り回されることになったのですが、おそらく彼女にはこれからも振り回されることになるのでしょうね。続きも楽しみです。


「魔使いの呪い」創元ブックランド(2009年3月読了)★★★★★

高熱で寝込んでいる魔使いの代わりに、ホーショーでのボガート拘束の仕事に送られたトム。チペンデンから教会に着くまで2日かかったのは、チペンデンからホーショーまで50kmの距離があるから。そして最初、魔使いがトムを送りたがらなかったから。少なくとも1年修行を積んでからでないと1人では仕事に行かないのが普通なのに、トムは13歳になったばかりで、弟子になってから半年も経っていないのです。その司祭とは、魔使いの40年も口をきいていない兄。司祭は鈴と聖書とろうそくでボガートに立ち向かおうとしたのですが、そのボガートは最も凶悪な牛裂き魔(キャトルリッパー)。司祭が餌食になったため、いまや人間の血を好む完全な人裂き魔(リッパー)となってしまっていました。朝までに人裂き魔を穴にに拘束しないと司祭の命が危ないのです。(「THE SPOOK'S CURSE」金原瑞人・田中亜希子訳)

魔使いのシリーズの第2弾。
今回は、かなりの強力な人裂き魔と対決したと思えば、今度はカタコンベに封じられた古代の邪霊・ベインが登場、かなりの波乱となります。そのカタコンベのあるプライスダウンの町に向かえば、そこにはちょうど魔女狩り長官が現れて、魔物だけでなく人間にも悩まされることに。
今回は「すべてが善の者も、すべてが悪の者もいない。わたしたちはみな、そのあいだのどちらか寄りにいるの。ただ、どの人生にも重要な一歩を踏み出す瞬間がある。光の側に行くか、闇の側に行くかの瞬間よ。」「悪はおれたちひとりひとりの中にあるものだ。ちょうど、火花さえあれば、ぱっと燃えあがる小さな火種のようにな。」と、1人の人間の中の善と悪の共存が強調されてましたが、アリスといいトムの母親といい、女性陣が特にその傾向が強いですね。魔性の女が集まっているようです。今後のアリスがどうなっていくかに注目。しかしそんな女性陣に対して男性陣は基本的に優しく、トムも魔使いも非情にはなりきれません。もちろん魔女狩り長官のようにどうしようもない人間も登場しますが、主要な登場人物はこの傾向のような気がします。
トムのお母さんの話は、まるでアンドロメダのようですね。そして魔使いのことも徐々に分かってきて、これからの展開がますます楽しみになってしまいます。


「魔使いの秘密」創元ブックランド(2009年3月読了)★★★★★

寒くて暗い11月の晩、魔使いの鐘が鳴ります。それは魔使いに仕事を頼む合図の鐘の音。しかしトムが外に見に行くと、そこには農夫ではなく、左手に杖を持った背の高い黒いフード姿の人物が立っていました。ここから一番近くに住んでいる魔使いは、トムの兄弟子にあたるビル・アークライト。咄嗟にそのアークライトなのかと思うトムでしたが、男は名乗ろうとはせず、トムに師匠宛ての手紙を渡します。それはかつて魔使いの弟子だった男で、しかし結局魔使いいはなれなかったモーガン。手紙を読んだ師匠は、翌日アングルザークの「冬の家」に行くと宣言します。(「THE SPOOK'S SECRET」金原瑞人・田中亜希子訳)

魔使いのシリーズの第3弾。
「魔使いの呪い」でも少し触れられていましたが、今回は題名通り、魔使いの秘密が本格的に明かされることになります。しかもその魔使いの過去に密接に関係する出来事も起きてしまうことに。これまでも、最終的には優しい人物だという印象がありましたし、厳しさの奥に人間らしさが見え隠れしていましたが、今回は弱さが見えるほどですね。これまでトムには散々厳しいことを言っていましたが、それは自分の過去の失敗を踏まえて、同じ轍を踏ませたくないという親心なのでしょう。愛想が悪く見えても、実は人一倍愛情たっぷりな人間だということがよく分かります。おそらく魔使いになるに当たっては、今のトム以上に逡巡したのではないでしょうか。そして今回も善悪が綺麗に分けられない部分が多かったですね。今までも、自分の身が危なくなるほど闇に近づきながらも、結局魔使いやトムを助けてくれたアリス。そんなアリスだからこそ、メグのことが誰よりも理解できるのかもしれません。そしてそんなアリスやメグを結局利用してしまっている魔使いやトムも、その都度、善悪が綺麗に分けられないことを実感させられることになるのですね。
そして今回は別れの物語でもあります。あちらでもこちらでも避けられない別れの時期が来るのです。親は子育てを卒業し、子供は親から巣立ち… 。トムのお母さんとメグにも共通点などありそうな予感。続巻も楽しみです。


「魔使いの戦い」上下 創元ブックランド(2009年3月読了)★★★★★

魔使いの弟子となって1年が過ぎ、1年目の課題「ボガート」から2年目の課題「魔女」へ。少し前にペンドルの魔女の力が増しているという報告を受けた魔使いは、魔女と対抗するためにペンドルに行くことを決め、トムはアリスの協力で、魔女から逃げる術をつけるための修行を繰り返していました。その頃、魔使いを訪ねて来たのは、ペンドルの丘の北にあるダウンハム村のストックス神父。かつては魔使いの優秀な弟子であり、しかし修行を終えた後、魔使いではなく教会の仕事を選んだという人物。そしてトムはアリスと共に久しぶりに兄のジャックの農場へと向かいます。しかし納屋は黒く焦げ、母屋の扉は壊れ、兄の家族も家畜もおらず、しかも母親から受け継いだ部屋は開けられて、そこに置かれていたトランクその他の荷物もなくなっていたのです。(「THE SPOOK'S BATTLE」金原瑞人・田中亜希子訳)

魔使いのシリーズの第4弾。
いよいよアリスの親戚の魔女たちもいる、魔女の本拠地・ペンドルが登場。本当に「いよいよ」ですね。しかし魔使いその人でも苦戦は必至と言える敵なのに、いくら優秀な弟子で修行を頑張っているとは言っても、修行2年目のトムにそれほど大きなことができるはずがありません。トムにできることは、自分にとれる最善の道を考え、それを着実に実行することだけ。魔使いやアリス、そして今はいない母親の助けがあってこそ。敵の存在があまりにも強大すぎて、魔使いたちには荷が重過ぎるのが気の毒になってしまうほどです。
今回トムは大切な家族を人質に取られて、非常につらい思いをすることになります。ただ、家族の存在がトムにとって弱みであると同時に強さの源ともなっているようで、その辺りがいいですね。自分の仕事と家族のどちらかを選ばなければならないような状況にまで追い詰められる展開もあり、その辺りの対応にトムの精神的な成長も見られます。トムを弟に持ったばかりに、ジャック一家の受難の日々が続くのですが… 今回特に気になったのはエリーのこと。ただでさえ、思わぬ「魔使い」としてのトムの実態に傷ついているエリーなのに、今回のことをきちんと受け止めて消化していけるのでしょうか。もし身体や精神が元に戻れば、ジャックはこのことで大きく好転しそうな気がしますが、エリーはどうなのでしょう。どこか壊れてしまいそうでとても不安。しかし今回初登場の次兄・ジェームズがいいですね。力強くて、ジャックよりも人間的な大きさを感じます。彼が一緒に暮らすことで、ジャック一家も落ち着くかもしれませんね。
このシリーズは最終的にどこまで進むのでしょう。このままでは、冒頭にあるような「ウォードストーン」の物語までいくとは思いませんが、今回の「魔王」がその物語へと直結していくという予感もあり、次巻もますます楽しみです。

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