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このページは、ヤスミン・クラウザーの本の感想のページです。

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「サフラン・キッチン」新潮クレスト・ブックス(2009年3月読了)★★★

妹のマラーが亡くなった知らせに、サラの母・マリアムは嘆き悲しみます。ロンドンに住むマリアムは、テヘランに住むマラーに1年以上会っていなかったのです。マラーの夫が既に再婚していたこともあり、マラーの一番下の息子のサイードがロンドンへとやって来て、15年前にサラが家を出るまで使っていた部屋に落ち着くことに。しかしサイードは学校に通い始めるとすぐ、いじめられ始めていました。授業時間中にショッピングモールで途方にくれていたサイードは警察に保護され、サラは母と共に迎えに行くのですが、その後入ったパブでマリアムはサイードにいきなり平手打ちを食らわせます。店を出ると橋から飛び降りようとするサイード。そしてサイードの身体を引き戻そうとしたサラは腹部を蹴られ流産。ショックを受けたマリアムはしばらくイランへと帰ることに。(「THE SAFFRON KITCHEN」小竹由美子訳)

「ずいぶん長いあいだ二つの場所のあいだにいたような気がする」というマリアム。彼女の中にあるのはロンドンでの現在とイランでの娘時代。そしてイランを知らない娘のサラ。2人の物語が交互に進んでいきます。
青いタイルを並べたような表紙が印象的な本ですし、この青色はとてもイランらしい気がします。しかしサフランの色は赤。キッチンの壁をサフラン色に塗ろうとするサラはサイードに、サイードならサフランの色をどう説明するかと問いかけ、2人でサフランの色を表現し始める場面がいいですね。「夕焼けみたいに真っ赤」「切り傷つくっちゃったときの血の色」「お母さんの指先についたヘナ」「トルバートゥの土か、ゴセマールバートの土」「溶岩の色」「水ギセル(フーカ)の燃えさし」「ケシにザクロ」… どの表現からも想像できるのは深い赤い色。イラン料理にも欠かせないサフランの赤は、イランの赤なのでしょうね。
しかし半分しかイランの血が流れていないサラでさえ、そんな風にサイードと色の感覚を共有できるのに、マリアムは夫であるエドワードとは共有できなかったと感じています。言葉も記憶も分かち合えない夫婦。エドワードはそうは思ってはおらず、しかもマリアムはエドワードの穏やかさに救われた思いをしたはずなのに。それでもマリアムはエドワードの妻でありサラの母である以前に、1人の女性、そして人間だったということなのでしょうね。通常ならそういった思いも長い年月の間に徐々に色褪せていくはずなのに、マリアムの場合はイラン革命という時期に父や半分血の繋がった弟を失い、祖国から遠く隔てられてしまうことによって、40年という年月を経ても色褪せることなく残ってしまったということなのでしょう。そしてイランで女性が求められる役割を拒否したことによって、マリアム自身が彼女の横暴な父親そっくりの人間になってしまったように感じられるのが皮肉。そして、そういった昔ながらのイランの家族のあり方などもとても興味深く読みました。男性との関係を疑われただけで追放というのは前にもどこかで読んだことがあるのですが、特に印象に残ったのは、結婚しないで両親の面倒をみることを当然のこととして期待されているハッサンの長女・ファーヌーシュ。
ただ、終盤近くまでは良かったと思うのですが、サラがマリアムと再会した辺りから浅くなってしまったように感じられてしまいました。それまでの思いを知っていればこそ、なぜこれほど簡単に物事が進んでしまうのかと思えてなりません。それが少し残念でした。

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