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このページは、クエンティン・クリスプの本の感想のページです。

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「魔性の犬」ハヤカワ文庫FT(2006年11月読了)★★★

かつては名門の系譜に連なる裕福な地主の一族だったエムズ家は、度重なる不運と馬鹿騒ぎのために、一度はすっかり身代を傾けてしまうものの、現当主のヘンリー・エムズ卿が財産目当ての結婚、さらに吝嗇に徹することによって身代をかなり持ち直していました。そのエムズ卿は妻と子に先立たれており、その人間嫌いぶりは徹底していたため、雇い人のデーヴィス夫婦は自分たちが遺産相続をする可能性に淡い期待を抱き始めます。しかしエムズ卿の動物、特に半シェパード犬のフィドーへの偏愛ぶりを見ているうちに、もしや動物に全財産を遺すつもりなのではないかと不安になり、デーヴィス夫婦は1匹ずつ動物を始末し始めたのです。そしてエムズ卿の死後。エムズ卿は、動物たちがが生きている限り雇い人のデーヴィス夫婦が屋敷に住むこと、そしてその後は獣医学研究所に改めることを遺書に書き残していたことが明らかになります。(「CHOG」望月二郎・船木裕訳)

原題の「CHOG」とは、「child」と「dog」の造語。文字通り、娼婦のレイナと犬のフィドーとの間に生まれた犬児のことです。実際にはそういった場面は全くと言っていいほどはっきりとは書かれておらず、「このお代は高いよ」という「この」とは何なのか、そして「鳥のように痩せさらばえた肋骨」の持ち主が誰なのか、読者は後になるまで分かりません。それほど直接的な表現は避けているのに、ここに書かれていること自体は、おぞましいこと極まりないのですね。登場人物たちは揃いも揃って醜く愚か。何とも言えないブラックユーモアが漂い、読んでいるだけで気が滅入りそうなのですが、しかし物語の展開からは目が離せません。奇妙な魅力を持った作品です。
クエンティン・クリスプは、バージニア・ウルフ原作の映画化作品「オルランド」や、アンディ・ウォーホールも出演している「チェルシー・ホテル」、スティングの「イングリッシュマン・イン・ザ・ニューヨーク」のビデオクリップに出演しており、同性愛カミングアウトの先駆者としても有名なのだそうです。

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