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このページは、スーザン・クーパーの本の感想のページです。

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「コーンウォールの聖杯」学習研究社(2007年5月読了)★★★

コーンウォールのトリウィシックのグレイ・ハウスに、夏休みの4週間滞在することになったドルウ一家。トリウィシックは港町で、グレイ・ハウスの持ち主である船長が船旅に出ている間、メリイおじさんがその家を借りてくれたのです。しかし着いた翌日は1日中雨。サイモンとジェインとバーニイの3人のきょうだいは、毎日料理と洗濯をしに来てくれるポークおばさんにお弁当を作ってもらい、家の中の探検を始めます。3人は寝室の洋服だんすの裏に隠れていた扉を見つけて屋根裏部屋を見つけ、そして茶色がかった分厚い羊皮紙を発見します。それは600年ほど昔に書かれた、アーサー王伝説にまつわる古文書でした。(「OVER SEA, UNDER STONE」武内孝夫訳)

アーサー王伝説がモチーフとなっている「闇の戦い」シリーズの前日譚的作品なのだそうです。コーンウォールを舞台に、アーサー王の聖杯に似せた形に作られたカップや古文書を巡って、3人きょうだいと闇の手先が争う物語。3人きょうだいの謎解きや、3人の解いた秘密を探り出そうとする闇の手先たちとの競争は緊迫感たっぷりなのですが… 闇の手先たちも不気味ではあるのですが、その闇の暗さが今ひとつ伝わって来ないですし、聖杯を手にしたらどうなってしまうのか、概念的にしか書かれていないせいか説得力がありません。そもそもなぜメリイおじさんも闇の手先も揃ってこの古文書を見逃したのかというところに、説得力がないですね。
メリイおじさんの正体はあっさりと想像がつきますが、この作品では確証を得られない状態。カップと一緒にあった古文書の内容も分からず仕舞い。「闇の戦い」を読めば、闇の手先たちのことも合わせてもっと分かるのでしょうか? この作品では3きょうだいの話し方など訳に違和感が多々あったので、浅羽莢子訳の「闇の戦い」では、また印象が変わりそうな気もします。


「妖精の騎士 タム・リン」小学館(2007年3月読了)★★★★

スコットランドの王女・マーガレットは、お城の塔のてっぺんの部屋で毎日朝から晩まで、貴族の娘たちと一緒に刺繍をする日々にうんざりしていました。娘たちはただお行儀良くおとなしく座って、身分の高いお金持ちの男性が結婚を申し込みにやって来てくれるのを待っているだけなのです。マーガレットはお城の外に出て、わくわくするような冒険をしてみたくて堪りませんでした。そんなある日、ばあやのお説教にうんざりして部屋から走り出たマーガレットは、そのままカーターヘイズの森へ。この森は伝説の妖精の騎士・タム・リンの森で、若い娘が行くとタム・リンに呪いをかけられて戻れなくなるというのです。森に着いたマーガレットが赤い薔薇の花を摘んでいると、そこにはタム・リンが現れます。(「TAM LIN」森丘道訳)

スコットランドに古くから伝わるバラッド(民間伝承の物語詩)の1つ「妖精の騎士 タム・リン」をスーザン・クーパーが再話、ウォリック・ハットンの絵で絵本にしたもの。ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「九年目の魔法」の中でも重要モチーフとして使われている物語です。
物語そのものはオーソドックスなのですが、マーガレットとタム・リンの出会いの場面がとても素敵でした。「なぜ、バラをつむのだ、マーガレット。わたしの許しもなしに」と言うタム・リンに対し、マーガレットの返答は「カーターヘイズの森はスコットランド王の領地、そしてわたしは王の娘。行きたいところに行き、したいことをするのに、だれの許しもいらない。むろん、バラをつむことにも」というもの。マーガレットの凛とした性格が表れていていいですね。そしてウォリック・ハットンの絵の色彩が淡いだけに、この後マーガレットがタムから渡されて食べる林檎の赤い色がとても印象的なのです。
ちなみにこの物語では、妖精の女王からタム・リンを救い出すのは夏至の夜、騎馬行列でのこと。タム・リンを救い出しに行く晩のマーガレットが選ぶマントの色が緑だというのも暗示的。禍々しいまでに美しい妖精の女王を期待していたので、実際に登場した女王が全く魅力的でないのが少し残念でしたが、素朴ながらも力強い物語となっていました。

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