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このページは、ジョフリー・チョーサーの本の感想のページです。

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「完訳カンタベリー物語」上中下 岩波文庫(2007年6月再読)★★★★

<上巻>
【総序の歌】
…カンタベリーへ巡礼の旅に出かけようと考えた「わたし」ことチョーサーは、旅籠屋で同じようにカンタベリーへと向かう29人の人物と一緒になり、一緒にカンタベリーへと向かう仲間になることに。旅籠屋の主人は、行く道で2つ、帰る道で2つずつ話をして、一番愉快な話をした人に夕食をご馳走するという趣向を提案し、全員その提案に喜んで従うことになります。そして審判として旅籠屋の主人も旅に参加することに。旅に行くのは、騎士、近習をしている騎士の息子、盾持、尼僧院長、助手の尼僧、3人の僧、修道僧、托鉢僧ヒューベルド、貿易商人、オックスフォードの学僧、高等弁護士、郷士、小間物商、大工、織物商、染物屋、家具装飾商、料理人、船長、医学博士、バースの女房、教区司祭、農夫、家扶、粉屋、召喚吏、免罪符売り、賄い方、「わたし」、そして宿屋の主人の計32人。
【騎士の物語】…テーベを攻め亡くなった7英雄たちの未亡人たちの嘆きを聞いたセシウス大公は、クレオンの治めるテーベに攻め込みます。勝利を収めたセシウスは、アルシーテとパラモンという2人の騎士をアテネに送り、2人は塔の中に閉じ込められることに。
【粉屋の話】…オックスフォードに住む年寄りの大工の家に住んでいたのは、貧しいけれどしゃれ者の大学生・ニコラス。なんと大工の留守中に、大工の美しく色っぽい18歳の妻といい仲になってしまいます。しかし教区書記のアブサロンも大工の妻に目をつけていたのです。
【家扶の話】…孔雀のように高慢で派手な粉屋は、ずるくて盗みの常習犯。その妻は教区司祭の娘で、気位が高く、鵲のようにおしゃべり。2人の間には20人の美しい娘がいました。その粉屋の家に、ケンブリッジの学生のジョンとアランがやって来ます。
【料理人の話】…。食料品屋の徒弟は、放蕩者のパーキン。ばくちや騒ぎや色事に夢中な遊び人の徒弟に呆れた親方は、徒弟に暇を出すことに。(未完)
【弁護士の物語】…富裕で誠実なシリアの商人の一団がローマへに滞在している間に聞いたのは、皇女コンスタンス姫の名声。商人たちはシリアに戻ると大公にコンスタンス姫の気高さを事細かに物語り、リアの大公は、コンスタンス姫を手に入れたいと願います。
<中巻>
【バースの女房の話】
…アーサー王の時代。王の側近の若者が1人の乙女を陵辱し、アーサー王はその若者に向かって死罪を先刻。しかし王妃や貴婦人たちが慈悲を請い、「女性が最も望むものは何であるか」という問いの答を1年以内に持ってくれば命を許すことになったのです。
【托鉢層の話】…ある日、1人の寡婦の老婆を召喚に出かけた召喚吏は、途中で1人の盾持が行くのに出会います。2人は意気投合、死ぬまで刎頚の友になろうと誓い、愉快に話しながら行くことに。
【召喚吏の話】…教会での説教を終えた托鉢僧は、頭陀袋をさげ、金具のついた杖を持ち、家という家をのぞいて喜捨を求めます。そして今まで一番歓待を受けていた家にやって来ます。
【学僧の物語】…西イタリア、ヴィゾー山麓にある豊かな国・サルッツォ。若き侯爵・ワルテルは賢明に国を治め、領民から愛し畏れられていました。しかしなかなか妻を娶ろうとしなかったため、不安に思った領民たちは侯爵に訴え出ることに。
【貿易商人の話】…昔、ロンバルディアに住んでいた立派な騎士は、60歳過ぎて突然妻帯したくなり、妻を探し始めます。そして若く美しいメイを見出して結婚することに。
【近習の話】…韃靼の国サレイの気高い王・カンビィウスカンの誕生日の宴の席に、真鍮の駿馬にまたがった騎士がやって来ます。アラビアとインドの王である騎士の主君が、望む場所へ運んでくれる真鍮の駿馬、真実を語る鏡、鶏の声が分かる指輪、深く食い込む剣を贈るというのです。
【郷士の物語】…ブルターニュの騎士・アルヴェラーグスは、ドリゲンのために数々の骨折りと大きな冒険を試みることによって心を掴み、結婚することに。しかし武勇の誉れを得ようと2年間ブリテンに行っている間に、ドリゲンに恋する近習・アウレリウスがドリゲンを口説こうとするのです。
【医者の物語】…騎士・ヴィルジニウスとその妻の間にできた子は美しく徳の高い乙女に育ちます。しかし乙女に目をつけた1人の裁判官がその乙女に目をつけ、自分のものにしようと考えたのです。
【免罪符売りの話】…フランドル地方の居酒屋で朝から酒を飲んでいた3人の若者たちは、墓に運ばれてゆく死体につけられたベルの音を聞きつけます。誰の死体か知りたがる3人に、居酒屋の召使の男の子は、3人の旧い仲間が昨晩突然殺されたのだと答えます。
【船長の話】…サン・ドニに住む金持ちの貿易商人のジョンは美しい妻を持ち、社交的でお祭り騒ぎの好きな彼女を美々しく装わせるために、いつも相当の代金を支払っていました。そんなある日、貿易商人の家に、昔馴染みの1人の修道僧が訪れます。
【尼僧院長の物語】…アジアのある大きな町でのこと。ある敬虔な7歳の少年が、「救い主のやさしき御母」の聖歌を覚え、毎日のように学校の行き帰りに歌っていました。しかしそれを聞いたユダヤ人たちは、その少年を捕え、喉をかき切って、穴に投げ込んでしまったのです。
【トパス卿の話】…チョーサーが語ろうとしたのは、フランドルの若く美しく品位高い騎士・トパス卿とその馬上槍試合の話。しかしその詩は宿屋の主人の気に入らず、中断させられてしまいます。
【メリベウスの物語】…富裕なメリベウスとその妻・プルーデンスの間にできたのは、ソフィエという娘。しかしある日メリベウスが気晴らしのために野原に出かけている間に、家には彼の3人の敵が入り込み、ソフィエは手足、耳、鼻、口の5箇所に致命的な傷を受けてしまうのです。
<下巻>
【修道僧の物語】
…ルシファーに始まり、アダム、サムソン、ヘラクレスと続く名士列伝。高い地位にあった人が、ある時を境に大きく転落した受難の物語を語っていきます。
【尼僧付の僧の物語】…ある貧しい寡婦が飼っていた、雄鶏のチャンテクレールと雌鳥のペルテローテの物語。恐ろしい夢をみて呻いたチャンテクレールをペルテローテがたしなめます。
【第二の尼僧の物語】…処女にして殉教者なるセシリア聖人は、処女の徳によって永遠の生命と悪魔への勝利を得ることになります。
【錬金術師の徒弟の物語】…旅籠屋から一行が旅立つのを見ていた錬金術師の徒弟が、一行を追いかけてきて合流します。そして語ったのは7年間一緒に暮らした師匠の話。
【賄い方の話】…世界中で最も美しく徳の高い騎士・フィーバスは、妻をこよなく愛していたのですが、妻は密かに情人を持っていたのです。フィーバスの白い烏は全てを目撃することに。
【教区司祭の話】…悔い改めとは何か、なぜ悔い改めと呼ばれるのか、悔い改めの行いやその働きの数や種類、何が悔い改めを妨げるのかなどを語ります。
(「THE CANTERBURY TALES」桝井迪夫訳)

14世紀のイギリスの詩人・チョーサーによる長大な叙事詩。カンタベリーへ向かう巡礼たちの語る24の物語です。「総序の歌」の時点では、1人4つずつの物語が聞けるはずだったのですが、結果的には全員が話すところまでもいっていません。それでも、巡礼の中でも一番気高い騎士には気高い物語を、一番下衆な酔いどれ粉屋には下卑た卑猥な話を、というように語る人物それぞれに語るに相応しい物語が語られ、それが巡礼団のメンバーのバラエティそのままのバラエティ豊かな物語群となっています。時には自分が当てこすられたように感じた人間が、当てこすり返す趣向も。そしてそれらの物語群を1つの大きなまとめるのは旅籠屋の主人の役目。
純粋に物語として読んでも面白いのですが、それよりもむしろ中世の庶民の暮らしを身近に感じられるのが楽しい作品なのでしょう。騎士や郷士の語る物語はとても高尚ですし、弁護士や尼僧院長、第二の尼僧、教区司祭の物語などは、とてもキリスト教色の濃いもの。托鉢僧の話のように教訓的な物語もあります。しかし全体的には、世俗的で下世話な話の方が圧倒的に多いのです。そういった物語の中の女性の描かれ方もとても興味深いですね。様々なタイプの女性が描かれているのですが、妻を管理しようとする夫を出し抜いて、結局自分の好きなように行動してしまい、それが露見してもしたたかに開き直る妻の物語が圧倒的。
バースの女房の話は、アーサー王伝説のガウェイン卿の結婚の物語ですね。尼僧付の僧の物語はいかにもイソップ風ですし、他の物語もそれぞれに元になる物語があり、それを語り手の品位に合わせて再話したということのようです。バースの女房の話では、なぜ乙女を陵辱しておきながら、王妃を始めとする宮廷の貴婦人たちが若い側近をかばったのかという部分が全然分からないのですが、騎士や学僧ではなく、バースの女房が語った物語としてはこれでいいのかもしれませんね。

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