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このページは、J.L.カーの本の感想のページです。

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「ひと月の夏」白水uブックス(2008年11月読了)★★★

ヨークシャ地方北部のオクスゴドビーにある国教会の壁画を復元するためにロンドンからやって来たトム・バーキンは、戦争後遺症のために頬の痙攣や夜になると怖い夢に苦しめられている青年。しかし1人でやる仕事はこれが初めてのバーキンは、今回の仕事を見事に仕上げようと決意していました。そしてオクスゴドビーでの最初の朝、仕事を始めようとしていたトムを歓迎したのは、チャールズ・ムーン。ムーンはヘブロン嬢の先祖の墓を見つける仕事を請負いつつ、この教会がサクソン人が建てた初期キリスト教時代の聖堂であることを見抜き、その調査発掘をしようとしていました。お互い先の大戦で傷を負った仲間ということもあり、2人はすぐさま意気投合します。(「A MONTH IN THE COUNTRY」小野寺健訳)

戦争で悲惨な体験をし、しかも妻のヴィニーに手ひどく裏切られたバーキンが、仕事で訪れた北部ヨークシャでひと夏を過ごすうちに癒されていくという物語。安い報酬で引き受けた仕事ではありますが、バーキンにとっては初の1人での仕事。幸い漆喰の下に隠れている絵画は綺麗に保存されており、やりがいのある仕事となります。美しい田園での生活、そして村人たちとの交流。戦争後遺症を共有するムーンの存在と、バーキンがその美しさに目を奪われるアリス・キーチの存在。バーキンの仕事は国教会での仕事ですが、メソジスト派の駅長一家の存在も大きいです。
読み進めるうちに、これらの出来事が遠い未来からの回想であることが徐々に分かってきます。今はもう失われてしまった若い頃の美しい日々を愛しむ未来のバーキン。過ぎ去ってしまったからこそ、その日々は一層美しく感じられるのでしょうか。まるで教会の壁画そのもののように、美しいまま塗りこめられてしまった過ぎ去った日々が、美しく蘇ってきます。

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