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このページは、アントニイ・バージェスの本の感想のページです。

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「時計じかけのオレンジ 完全版」ハヤカワepi文庫(2008年11月読了)★★★★

近未来のイギリス。15歳の少年・アレックスは、3人の仲間ジョージー、ピート、ディムとともに「何か新しいものを」入れたミルクでハイになっては、夜の街でしたい放題の毎日。図書館から借りた学術書を大事そうに持って歩いている教授タイプの男性を襲って殴る蹴るの暴行を加え、本を破壊。続けて商店に強盗に入り、木の下にいたカップルを殴り、さらに「ホーム」と書かれた家に押し入って、夫の目の前で妻を強姦。押し入った時、その夫は「時計じかけのオレンジ」という題名の原稿を執筆しているところでした。しかしその後入ったバーで、女性客がオペラの一節を歌い始めたことが原因で、アレックスとディムの仲は険悪になります。次に盗みに入った家でアレックスは仲間たちに裏切られて警察につかまり、アレックスは14年の実刑判決を受けることに。(「A CLOCKWORK ORANGE」乾信一郎訳)

スタンリー・キューブリック監督が映画化したことでも有名な作品。アメリカ版では出版社の意向で最終章が削られており、キューブリックはそのアメリカ版を元に映画化しているので、この本と映画とでは結末が違うのだそうです。本国イギリス及びヨーロッパ版では、最終章まできちんと付いているそうですが。
映画も衝撃的だったのだそうですが、原作もとにかくパワーのある作品でした。アレックスたちの極悪非道ぶりもなかなか他に類を見ないものですが、文章にはバージェスの作り出した造語が沢山入っており、それが一種独特な雰囲気を作り上げています。仲間は「ドルーグ」、男の子は「マルチック」、男性は「チェロベック」、女の子は「シャープ」、若い女性は「デボーチカ」、おばあさんは「バブーチカ」。他にも「デング」「ハラショー」「スコリー」「モロコ」「ベスチ」などなど、ロシア語にヒントを得たという言葉が饒舌なアレックスの一人語りにふんだんに散りばめられています。
そしてこの作品で一番のポイントのように感じられたのは、アレックスが実はクラシック好きだったというところでしょうか。外でどれだけ暴力を振るっても、自室に戻ると自慢のステレオでモーツァルトの「ジュピター交響曲」やバッハの「ブランデンブルク協奏曲」を聴いているアレックス。(そういった場面に、架空の音楽家や演奏者の名前がそ知らぬ顔で混ざってるのが可笑しいのです) その音楽好きが、アレックスと仲間の反目の原因になり、後のルドビコ療法でも利いてくることになります。そしてさらに後にはアレックスの変化による音楽の好みの変化も…。
日本語版では、「デボーチカ」や「デング」といった言葉には「おんな」とか「かね」とかルビが振られていますが、原書にはそういう配慮はないようですね。新井潤美さんの「不機嫌なメアリー・ポピンズ」に原文が紹介されていましたが、文章にいきなり見知らぬ単語が登場してました。そのため読者は文脈から意味を汲み取るしかなく、その解読で気を取られてしまい、暴力描写をあまり生々しく感じなくなるという効果もあるのだとか。日本語版でもいちいちルビを見るわけですから、原文よりも読みやすくなってるとはいえ、その効果は多少あるかもしれませんね。しかし映画ではそのものの場面が映されるわけです。私は映画は観ていないのですが、序盤は相当衝撃的な場面となってるようで…。本と映画の違いが面白そうなのですが、この物語を映像で観るのは相当な勇気がいりそうです。

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