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このページは、キャサリン・ブリッグズの本の感想のページです。

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「魔女とふたりのケイト」岩波書店(2007年6月読了)★★★★

スコットランドのアウヘンスキオフ城のキャサリン・リンゼイと、ケイト・マックスウェルが初めて出会ったのは、キャサリンが5歳でケイトが6歳の頃。ボーランド川をはさんでいた2人は、お互いに相手を妖精だと思ったにも関わらず、出会った途端にお互いのことが好きになります。そしてそんな2人が初めて話をしたのは、ケイトが8歳になろうとしている頃。それからというもの、2人は少しでも機会をみつけると、一緒に過ごすようになります。キャサリンが12歳なる頃、乳母のゲルダが結婚してスウェーデンへと旅立つことになり、キャサリンの父・アンドリューは後妻としてケイトの母親のグリゼル・マックスウェル夫人と結婚、2人は姉妹となることに。しかしグリゼルは魔女だったのです。野育ちのケイトが、美しく気立ての良い継子キャサリンに負けているのを見て腹立たしく思ったグリゼルは、アンドリューが出征している間にじわじわとキャサリンを狙い始めます。(「KATE CRACKERNUTS」石井美樹子訳)

17世紀半ばのスコットランドが舞台。元となっているのはスコットランドのギャロウェイ地方を舞台にしたケイト・クラッカーナッツの物語で、ジョセフ・ジェイコブズの「イギリスの妖精物語」の中に収められているのだそう。しかしこの物語はそちらの筋をほとんどそのまま採用していながら、その背景としてスコットランドとイングランドの内乱、1649年の国王・チャールズ一世の処刑とそれに続く内戦という、激動の時代を舞台にしています。まるで歴史小説のような趣き。
継母が実は魔女だったというのは、「シンデレラ」を始めとするおとぎ話によくあるパターンなのですが、その娘と先妻の娘が実の姉妹のように仲良くなるという展開はあまりないですね。それに先妻の娘・キャサリンはグリゼルを怖がるだけなのですが、グリゼルの娘のケイトは、母を愛する気持ちと怖れる気持ちとの板挟みになるというのが大きな特徴。キャサリンを母親の悪意から守ろうとしながらも、発作的に愛情を示すグリゼルにやはり嬉しくなるケイトは、魔女を忌まわしく感じながらも同時に強く惹かれるものも感じています。ケイトとグリゼルの関係がとてもリアルです。キャサリンのためには魔女が死んで嬉しいのに、やはり母親を失ったことで悲しむことになるケイトが印象的。
物語は前半と後半で2つに分かれ、前半はスコットランドのアウヘンスキオフ城、後半はイングランドのヨークシャーが舞台となります。前半の魔女も迫ってくるような生々しさがありましたが、後半登場する妖精もとても存在感があり、妖精や魔女が本当にスコットランドやイングランドの土地に根ざした存在だったのだということが感じられます。歴史小説のような重厚な背景にも負けずにしっくりと馴染んでおり、この辺りはさすが妖精学の泰斗と言われるブリッグズですね。


「妖精 Who's Who」ちくま文庫(2005年11月読了)★★★★

イギリスの妖精学の最高権威であるキャサリン・ブリッグズがまとめた妖精集。同じくブリッグズによる「妖精事典」(富山房)には400種類の妖精が紹介されており、その中から代表的な妖精101種類を選んだのだそうです。それぞれの妖精の紹介と共に所々短い物語を一緒に収録しています。(「ABBEY LUBBERS, BANSHEES & BOGGARTS-A WHO'S WHO OF FAIRIES」井村君江訳)

ブラウニーやドワーフ、エルフ、ゴブリンなどの有名な妖精は知っていますが、名前を聞いたことがない妖精も多く紹介されており、イギリスにこれほど多くの妖精がいるというのが驚きでした。やはり妖精譚の本場ですね。それに日本では妖精といえば、C.M.バーカーのフラワーフェアリーに代表されるような可愛らしいイメージが一般的ではないかと思いますし、時には意地悪だったり悪戯者だったりしても、基本的には良いイメージなのではないかと思うのですが、この本を読んでみると、気まぐれだったり意地悪だったり、むしろ人間を困らせる妖精の方が多いという印象。取り替え子を始めとして、人攫いをする妖精譚も多いですし、人間に良いことをしてくれても、気まぐれからというのが目につきます。「良い」どころか、平気で残酷なことをする妖精も多くいたようで、「妖精」という言葉よりも、日本の妖怪に近いイメージ。実際、妖精を信じていた昔の農家の人々は、相手が良い妖精であっても決して怒らせないように気をつけていたようですね。
この本にはリチャード・ドイル氏によるイラストも収められており、その独特な少し暗めのタッチも、あまり明るいばかりではない妖精のイメージを強調しているかのようです。しかしそういったイメージが出来てきたのも、日々起きる奇妙な出来事を、人々が妖精のせいにしていたからなのでしょうね。時には、妖精の取り替え子せいにして、自分の子供に酷いことをしていたのかもしれません。「本当は恐ろしい妖精物語」といったところでしょうか。

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