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このページは、伊藤遊さんの本の感想のページです。

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「鬼の橋」福音館書店(2005年9月読了)★★★★
平安時代、弘仁5年(814年)の夏。自分のせいで異母妹の比右子を亡くし悶々とする12歳の小野篁は、再び五条の橋を渡って比右子を失った荒れ果てた寺の境内へと向かっていました。10歳だった妹は、2人で隠れ鬼をしている最中、古井戸に転落して亡くなったのです。改めて事故のあった古井戸を見ていた篁は、井戸のふたをずらして石を投げ込み始めます。しかし気付けば賑やかに響いていたはずの水音がしなくなっていました。不審に思い、もう一度石を投げ込んだ篁は、なんとその井戸の中に吸い込まれてしまいます。気がつくと、そこは石ころだらけの河原。そこには向こう岸が霞んで見えないほどの大きな河と、都でもなかなかお目にかかれないような立派な橋がありました。行くあてもない篁は、その橋を渡り始めます。そしてふと気付くと、篁の後ろには鬼がいたのです。

伊藤遊さんのデビュー作。第3回児童文学ファンタジー大賞大賞受賞作品。
昼は朝廷に仕え、夜になると冥府に通って閻魔大王のもとで役人として働いていたという伝説を持つ小野篁の少年時代の物語。異母妹と恋仲だったというエピソードもありますね。大人になってからは4代の帝に仕えた有能な官僚として有名な篁ですが、ここに描かれた少年時代の篁は、その片鱗もありません。異母妹の比右子を死なせてしまったことをくよくよと悩み、生きていく気力も半分失っているような状態。橋の上で鬼に食われそうになり、そこにいた坂上田村麻呂に危機一髪助けられても、またしても古井戸の中に舞い戻ってしまう始末。父親に元服のことを言われても、大人とも子供ともつかない状態でふらふらしていたいと思っています。
そんな篁に生きる気力を取り戻させるきっかけとなるのが、橋の下に住んでいる少女・阿古那や鬼の非天丸、そして坂上田村麻呂。中でも、帝の命令で屍に甲冑をつけ、剣、鉾、弓などを帯びて「死後も都を守れ」と立った姿のまま葬られたせいで、いつまで経っても橋の向こう側に行き着くことができなくなってしまった坂上田村麻呂の姿が印象的でした。そんな田村麻呂の姿が、角を1本失くしたのがきっかけで、鬼から人間になりたいと願うようになり、しかしいつまでたっても火を通した食べ物が食べられないという非天丸の姿、そして大人への一歩がどうしても踏み出せない篁の姿と重なります。しかし田村麻呂や非天丸とは違い、篁は自力で「狭間」から抜け出ることもできるはずなのです。その篁に狭間から抜け出す最後の勇気を与えたのが、非天丸の苦しみを共に分かち合おうとする阿古那の姿でした。その姿があったからこそ、篁は彼女を護るために立ち上がることができたのでしょうし、人間としての弱さを垣間見せる父母の姿をも認めることができたのでしょうね。
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