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このページは、宇月原晴明さんの本の感想のページです。

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「信長-あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」新潮文庫(2003年12月読了)★★★★
1930年7月のベルリン。総見寺龍彦と名乗る人物にカフェに呼び出されたアルトナン・アルトーは、時間通りにやってきた、白い肌に灰青色の目、朱い唇を持つ、少年とも少女ともつかない風貌の青年の姿に驚きます。その青年こそがアルトーを呼び出した総見寺龍彦。総見寺は自分の先祖が織田信長の尊師・堯照であること、自分の家に伝わる信長伝承によると信長は両性具有であることなどを語ります。それまで「信長」という名前を聞いたことがなかったアルトーですが、しかしアルトーが現在傾倒していたヘリオガバルスもまた、男であり女でもあるという両性具有。総見寺の語る信長と、自らの解釈するヘリオガバルスとの共通点に驚いたアルトーは、信長に興味を抱き、お互いの情報を交換し始めることに。

第11回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
物語は、1930年のベルリンと戦国時代の日本が交互に描かれて展開していきます。アルトナン・アルトーは、実在したフランスの詩人。1930年代に活躍し、前衛演劇に大きな影響を与えた人物なのだそうです。この物語に登場している頃は阿片中毒で、端役をやって食いつないでいる状態。彼には実際に、「ヘリオガバルスまたは戴冠せるアナーキスト」という著作があるのですね。
太陽信仰の神々云々というのは、それほどの共通点とは思えなかったのですが、信長が両性具有という設定には驚きました。山岸凉子さんの「日出処天子」もそうですが、史実の狭間でこういう大胆な解釈をしている作品を読むのは結構好きです。この設定によって、信長に異様なほど傾倒する秀吉の姿や、桶狭間の戦いを始めとする数々の勝利、そして明智光秀による本能寺の変に独特の解釈が付け加えられることになるのですが、妙に説得力がありますね。この戦国時代の部分がとても面白かったです。信長自身が登場するシーンの妖しさも良かったですし、今川義元の軍師であった雪斎を始めとする敵将たち、それらの武将達の下で使われている乱破たちの姿もとても魅力的。こういった歴史上には残らない水面下での攻防の話にはワクワクしてしまいました。
ただ、この戦国時代の場面の方が断然吸引力が強いため、総見寺とアルトーの場面とは、少々バランスが悪い印象。ヒトラーを引き合いに出すというのも新鮮味を感じませんし、この決着のつけ方もあまり好みではなく…。もっと戦国時代の物語に腰を据えて読みたかったです。もちろんアルトーあってのこの作品なのでしょうし、彼らによる説明もきっと必要不可欠なのだろうとは思うのですが…。
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