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このページは、浦賀和宏さんの本の感想のページです。

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「地球平面委員会」幻冬舎文庫(2003年7月読了)★
大学に入学したばかりの「僕」が、春のキャンパスのサークル活動の勧誘合戦の中を歩いていると、突然空からピンク色の紙片が降り注いできます。その神を撒いているのは、三号館の屋上の端っこに立っていた、チェックのミニスカートにジーンズのジャケットを着た女の子。腕組みをして、得意そうに下界を見下ろしている彼女と目が合ってしまった「僕」は、紙片に書かれている文字を見て目が点に。そこには、「新委員募集中。あなたも信じてみませんかーー。地球が平面であることを。興味がある人は、六号館の一階の突き当たりの部屋まで。地球平面委員会」と書かれていたのです。ビラを撒いていた女の子が気になって仕方のない「僕」は、丁度そこに現れた小学校時代からの親友・笠木と共に部室を訪れてみることに。結局、そこにいた面々のあまりの異様さに恐れをなして逃げ出す2人ですが、逆に委員長の宮里真希に執拗に勧誘されることになり…。

冒頭で、清涼院流水氏の「コズミック」からの引用がされていたのには驚きましたが、そういうことだったのですね。(笑)これもまた1つのミスリーディングの役割があるのでしょうか!それにしては少々苦しすぎるような気もしますが…。しかし勝手に殺人など起こらない話だと思い込んでいたので、途中殺人が起きた時には本当に驚きました。そして最後は、一応綺麗にまとまることはまとまるのですが…。こんな下らないネタで、1つの作品を書いてしまうということの方が私にとっては驚き。しかし以前、簡単にリセットボタンを押してしまう若者の話をどこかで読んだことがありますが、それと同じようなことなのでしょうね。今の時代ならでは、この世代ならではのリアリティ。それを考えると、実は非常に皮肉でブラックな作品のような気もしてきます。薄ら寒いです。
安藤直樹シリーズ特有の重苦しさはなく、表面的には非常に読みやすい作品だと思います。オチには賛否両論だと思いますが…。

「ファントムの夜明け」幻冬舎(2003年9月読了)★★★
櫻井真美は、大学時代の友人高畑和也に本を返すように頼まれて、1年前に別れた恋人・石井健吾の部屋を訪れます。そこは真美自身が、1年前まで暮らしていた部屋。しかし健吾は留守でした。隣の部屋の遠藤恵子という女性に尋ねると、長崎に旅行に行ったという話。真美はドアのノブに触った途端に、静電気のようなものを感じます。数日後、真美の元に知らない女性からの電話が。出版社で新人発掘を行っていると語るその女性の名は黒木妙子、健吾の現在の恋人でした。真美は妙子と共に再び健吾の部屋を訪れるのですが、健吾の部屋の前で発作に襲われることになります。そして、もしや健吾は首を絞められて殺されたのではないかという思いが強く湧き上がってくるのを感じるのです。そして真美は、15年以上も前に死んだ双子の妹の麻紀が「頭の中に知らない人がいる」と言っていたことを思い出します。

サイコホラーサスペンスといえばいいのでしょうか。昔の恋人の失踪や妹の記憶によって呼び起こされることになる真美の能力。この能力が発症するにつれ語られる昔の恋人のことや死んだ妹の話など、中盤までの盛り上がりがとても自然ですし、バイト仲間の由紀の祖母の話もとても良かったです。しかし終盤の真美の渋谷に始まる活躍はどうなのでしょう。強い能力があるにしても、こういう人物に出会うこと自体非常に偶然性が強いものですし、出来過ぎのような気がしてしまいました。その後、スムーズにラストに繋げるためにはぜひとも必要な段階だったのかもしれませんが…。全体的にとてもよくまとまっている作品だとは思うのですが、その活躍のせいで、逆にインパクトが弱まってしまったような気もします。
全て読んだ後で、プロローグの意味が分かることになるのですが… これは悲しすぎます。

「透明人間-UBIQUITY」講談社ノベルス(2003年12月読了)★★★★★お気に入り
物心が付いた頃から父と2人暮らしで、その父を小学校の頃に亡くした小田理美。父の死後、親戚中をたらい回しにされた理美は友達が1人もできず、ただ学校と里親の家を往復するのみでした。高校を卒業後、ようやく自分の家に戻ってきた理美は、経済的な問題から大学進学を諦め、現在はコンビニでバイト中。毎日が孤独で自分がまるで透明人間であるかのように感じていた理美は、ある日自殺しようとしているところを飯島鉄雄に止められ、そのまま飯島と恋人として付き合うようになります。そんなある日、理美の元に、父の死の時に世話になった弁護士の仲間からの電話が。生前、父が研究していた資料が一部紛失しており、それが理美の住む家にまだあるはずだというのです。しかも、理美の住むその家には、実は地下室があるはずだと言うのですが…。

安藤直樹シリーズの7作目。
これまでになく、他作品との関連が薄い作品ですね。そういう意味では、このシリーズ特有の思わぬ繋がりを発見する楽しみがあまりなくて残念なのですが、しかし初登場の理美がまた、浦賀ワールドらしい登場人物。父の死がきっかけですっかり孤独の中に入り込み、何かといえば自殺を考えてしまう後ろ向きな女性です。しかしそんな理美を相手に、飯島がなかなかの男ぶりを発揮してくれるのが、いいですね。これまで安藤直樹とは対照的な軽佻浮薄ぶりを見せてきた飯島ですが、この作品ではなかなかの男前ぶりを見せてくれます。孤独感からすっかり透明人間化していた理美も、飯島との出会いによって徐々に自分自身を取り戻せそうな予感。
序盤の日記の部分から、すっかり引き込まれてしまいました。中盤の地下室での状況も緊迫感があって面白かったですし、安藤直樹の大胆で理論的な謎解きと、どこかしらロマンティックな雰囲気を漂わせるラストの対比もいいですね。最近の安藤シリーズの中では、展開が若干大人しい方かとは思いますが、しかし確かに浦賀ワールド。読後感もとても良く、素直にとても面白かったです。
ところで日記を読んでいても、「遠山くん」の年がいくつぐらいなのかよく分からなかったのですが…。読書家でしかもギターも上手いということは、大学生ぐらいだったのでしょうか?まあ、理美自身も、よく知らなかったという事態も十分ありそうなことですが。(笑)
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