Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、朝香祥さんの本の感想のページです。

line
「旋風は江を駆ける」上下 集英社コバルト文庫(2003年2月読了)★★★★★お気に入り
後漢時代の呉。孫堅が流れ矢に当たって不慮の死を遂げた後、孫堅の息子・孫策は、袁術の元に膝を屈することを余儀なくされていました。孫堅の死直後、残された私兵軍をまとめていた従兄弟の孫賁が袁術に身を寄せると、袁術は孫策が成人するまで預ると言って数万にも上る兵を取り上げてしまったのです。孫策は袁術のために戦い勝ち続け、しかし袁術はそんな孫策に何一つ報いることのなく今日まで来ていました。孫策は同い年の幼なじみ・周瑜に、袁術から独立するための方法を相談します。周瑜が出した策は、一揆の農民相手に徹底的に負けて軍を失えという、誇り高い孫策には辛い方法。それでも孫策がやりとげると、周瑜はさらに、袁術に頭を下げ、口頭哀願してでも父親の兵を借り受けるようにと言います。孫策はその策を聞いて怒り狂うのですが…。

「旋風は江を駆ける」シリーズ1作目。三国志の時代の呉、それも孫策と周瑜を中心に描いた物語です。周瑜もそれほど長生きはしないのですが、孫策はそれ以上に早く死んでしまうので、通常の三国志だとあまり活躍が堪能できないのですが、これはそんな孫策と周瑜のファンには嬉しい作品。直情型で無鉄砲な孫策に、常に冷静な周瑜、そんな2人を見守る呂蒙や呂範、そして程普や黄蓋など周囲の武将たちのことが、とても丹念に描かれているのが特徴。テンポの良い展開の中で、心理描写も丁寧にされているので、物語にとても入りやすいですね。
特に孫策と周瑜に関しては、お互いがお互いを想う気持ちに思わず熱くなってしまいます。喧嘩したり悩んだり、助け合ったりする2人の姿の根底にあるのは、とても深い信頼関係。しかし2人の関係が良好で、周瑜が飄々と振舞っていられるうちはいいのですが、一旦孫策とすれ違うようになってからが辛いのです。直情型の孫策はまだしも、内にためてしまうタイプの周瑜の姿には本当に痛々しいものがあります。表面上は何事もなかったように振舞い、孫策の言うことには素直に従う周瑜。頭が良すぎるというのももちろんあるのですが、まるで心の痛みに気付かないふりをしているうちに、本当に自分の痛みに鈍感になってしまったように見えます。彼をこのようにさせてしまったのは何なのでしょう。過去に何かとても辛い体験があり、しかし年齢よりも大人でいることを余儀なくされていたのではないかと想像してしまうのですが…。周瑜が自分を失って取り乱す時は、孫策の身に危険が迫った時だけ。なのに、なかなか伝わらないものですね。
この物語が始まった時、孫策と周瑜は20歳。この2人が一緒にいるのはあまりに当然のように感じていたのですが、それ以前にも様々な問題はあったのですね。周家は揚州でも1、2を争う良い家柄で、孫武(孫子)の末裔と自称する孫家とは格が違うわけです。以前から色々と疑問に思っていたことの一端が解けました。
コバルト文庫と侮るなかれ。三国志、特に呉や周瑜がお好きな方には本当にオススメです!

「江のざわめく刻」集英社コバルト文庫(2003年3月読了)★★★★★お気に入り
196年、漢室の献帝を擁して漢王室を我が物とした曹操は、官渡の戦い袁紹を破り、丞相の地位を得、荊週攻略へと乗り出します。ますます強大化する勢力に荊州はあっさり降伏。曹操は次に劉備を撃破しようと軍を進めます。1万余の劉備軍は、10万を越える曹操軍を恐れ、戦わずして東の当陽へと敗走。なんとか曹操軍を振り切ります。そこにやってきたのは、東呉の魯粛。魯粛は劉備に東呉と同盟を組み、曹操へと立ち向かうことを提案します。そして諸葛亮は正式な同盟締結のために、魯粛と共に東呉の孫権の元へ。その頃呉では、曹操に降伏するか開戦するかの選択を迫られていました。孫策の死により、19歳で江東を統べることになった孫権も今や27歳。曹操に下りたくはないものの、降伏を主張する幕僚たちの方が優勢。結局孫権は、決定の軍議に参加させないためであるかのように、周瑜を呂範の元への使者として出すことになります。

「旋風は江を駆ける」シリーズ2作目。しかし序ではいきなり孫策の死の場面が。これには驚きました。そして物語はさらに数年時代をとんで、赤壁の戦い直前へと移ります。
周瑜は相変わらずの穏やかな笑顔と飄々とした姿を見せてくれます。しかし周瑜を取り巻く人々の顔ぶれがかなり変わりました。まず妻の小喬。優雅な中に毅い光を持った佳人。周瑜や周囲の状況に目を配り、臨機応変に状況に対応して動ける賢い妻でもあります。周瑜とは本当にお似合いですね。そして呂蒙と良く似ていると周瑜に言われることになる陸遜。彼もまた純粋でまっすぐで、見ているだけでもまぶしくなってしまいそうな少年です。周瑜に兄・孫策の面影を見てしまう孫権も、まだまだ初々しいですね。途中では、諸葛亮にやりこめられて感情を爆発させている場面が微笑ましいのです。しかしそのやりこめている諸葛亮もまた、まだまだ若いところを見せています。気負いと焦りが見える諸葛亮のイメージがとても新鮮。劉備の元ではいっぱしの軍師として達観している感のある諸葛亮も、ここでは周瑜にはすっかり翻弄されてしまいます。次こそ自分が、と気負っている彼をかわすかのように、周瑜が孫権に理を説く場面はクライマックス。勇猛果敢な三国志もいいですが、この作品のように心情を1つづつ丁寧に積み重ねてあると、読んでいてもすんなりと心の中に入ってきますね。

「二龍争戦-星宿、江を巡る」集英社コバルト文庫(2003年3月読了)★★★★★お気に入り
曹操との開戦を決意し、劉備軍と同盟を結ぶ東呉。出陣に当たり、周瑜は甘寧を自分の下に組み入れることを孫権に願い出て許され、甘寧も喜んでそれを受けることになります。しかし凌統は、そのことを知り動揺。実は甘寧は、凌統の父親の仇だったのです。甘寧が以前黄祖の元におり、東呉と敵対していた頃、甘寧は戦で陸遜の父を射殺していました。陸遜はそれを怨みに思い、2年前にも一騒動を巻き起こしていたのです。そして今回も、凌統は甘寧のことを「いつ裏切るか分からない男」だと聞こえよがしに言い、甘寧と凌統の間に緊張感が走ります。周瑜は凌統を諫め、甘寧への私心を抑えられないのであれば帰るように言います。一旦は怨みを忘れようとする凌統。しかしそんな時、兵卒たちが甘寧のことを話しているのを聞いてしまい…。

「旋風は江を駆ける」シリーズ3作目、「江のざわめく刻」の続きとなります。
周瑜は部下を扱うのが上手いのか下手なのか、なんと犬猿の仲の2人を同じ場所に置いてしまいます。周瑜の頭の中では、2人ともその戦いにはどうしても欠かせない存在なのですが、しかし大人の男の甘寧はともかく、まだまだ未熟な凌統は周瑜の気持ちを全く理解できず、逆に周瑜のことを情がない人間だと怨む始末。呂範も指摘していますが、周瑜ほどの人物なら相手によって説得の方法を使い分けるべきでしょう。そして物語は緊迫感たっぷりで展開していきます。しかし凌統の揺れる心につけこもうとする存在もあるのですが、周瑜は2度と同じ失敗を繰り返しませんし、しかも凌統が甘寧によってピンチを救われるというシーンによって、それらの確執は一転、信頼関係へと変化します。結局は、大手術して膿を全部出してしまった周瑜の方法が正解だったということですね。多少少女漫画的な展開ではあるものの(まるで男同士の殴り合いの喧嘩の後芽生える友情のよう)、やはりほっとしてしまいました。この回は、甘寧の大人の男としての魅力が全開です。
周瑜に情がないと言う凌統に呂蒙が語る話がいいですね。呂蒙がなぜそれを知っているのかという疑問は残りますが、「巫陽…」と呟くシーンは本当に切なくなってしまいます。
赤壁の戦いのクライマックス「鳳凰の飛翔」へと続きます。

「鳳凰飛翔-華焔、江を薙ぐ」集英社コバルト文庫(2003年7月読了)★★★★★お気に入り
曹操軍20万に対し東呉軍3万。緒戦に敗退した曹操軍は烏林に堅固な砦を築き、持久戦の様相を見せていました。曹操軍の間諜が東呉軍に入り込んでいるらしく、悪質を噂が流して兵たちを扇動。兵たちの不安が高まります。既に逃亡者は100名余。周瑜は陸孫に、東呉軍が負けるという悪質な噂を流している間諜に関して調べさせることに。そして周瑜は軍議で、以前から考えていた火計を提案。しかし程普によって一喝の下に却下されてしまいます。ところがその晩、軍議に出ていなかったはずの黄蓋が、自分が火計のために曹操軍に佯降すると周瑜に申し出るのです。その申し出の直前、黄蓋と曹操軍が津で接触していたことを知った陸孫は…。

赤壁の戦い編。
「二龍争戦」を読んでから4ヶ月ほど間があいてしまったので、最初は少々入りづらくなってしまいましたが、それでもやはり何と言っても有名な赤壁の戦い。すぐに慣れることができました。
甘寧が自ら火計を指揮を取りたいと言い出すのはある程度予想ができましたが、実際に指揮を取ることになった黄蓋の土壇場での迷いには本当に驚かされました。2代前から孫家に忠実に仕えている黄蓋は、てっきり孫家のために自ら佯降する決意を固めたものとばかり思っていましたから…。これはなかなか新鮮な解釈ですね。既に定められている結末に向かっていることは分かっているものの、その過程の部分で想像力を働かせることができるというのが、やはり歴史物の醍醐味。結末は知識として知ってはいるものの、なかなか安心させてはくれませんね。緊迫感たっぷり。しかし黄蓋がひたすら渋く決めてくれて、周瑜はクールに決めてくれて、一件落着。
諸葛亮その他、蜀の面々には、それほどいい所がありません。この巻はひたすら周瑜と黄蓋が主役。…黄蓋が鳳凰と考えると少々不思議なのですが(笑)、しかし火計の主役に、自らを焼き尽くして復活するという鳳凰はぴったりですね。

「旋風の生まれる処」上下 集英社コバルト文庫(2003年3月読了)★★★★★
西暦189年。孫策と周瑜、共に15歳の頃。狩に出かけた孫策と周瑜は、引越しの途中らしい3人連れが15人ほどの野盗に襲われてるのを見て、助けることに。2人が助けたのは8歳の伍融とその母、そしてその母子が郷里の会稽に向かうのに付き添ってきた祖茂という28歳の男でした。野盗のために怪我を負った祖茂のために、3人は周瑜の屋敷でしばらく養生することになります。しかし孫策と周瑜がたった2人で野盗に向かったということで、2人は孫策の母・英にこっぴどく叱られることに。丁度その日、孫策の父・孫堅が、久しぶりに舒に戻ってきます。孫堅は太守として長沙に赴き、反乱の鎮圧をしていたのです。父が長沙から反薫卓の軍を動かすつもりだと聞いた孫策は、父親に従軍を願い出ます。渋る母からの許可が出て喜ぶ孫策。しかし孫策と周瑜が戦について話しているのを聞いた孫堅は周瑜の才を認め、周瑜にも参軍を要請するのです。

「旋風は江を駆ける」シリーズ5作目。今回は孫策と周瑜の初陣の話です。
孫策が出陣することになり、見送るつもりだった周瑜もまた、孫堅に望まれて出陣することになります。「旋風は江を駆ける」で周瑜と程普の間がしっくりいっていないのですが、既にここに根はあったのですね。根とは言っても大したものではなく、ただ単に虫が好かない程度ではあるのですが。根っからの軍人である程普は、孫策のように分かりやすい少年の方が好みなのでしょう。しかし孫策に「お前。来い」と言われても即座に断った周瑜が、孫堅に「軍略の才がある」と言われて動揺し、程普の募兵の檄にさらに後押しされていくのがいいですね。そしてそんな周瑜を見ながら複雑な思いを抱く孫策の姿も濃やかに描かれています。
下巻に入ると、糧食への毒混入や孫堅の暗殺未遂など色々な出来事が立て続けに起こり、本当に目が離せなくなります。孫堅を庇って毒に倒れる周瑜。「公瑾は誰にも見せないから」と言って周瑜を見守る孫策の気持ちが痛いほど伝わってきます。孫堅を狙っていた刺客というのは全くの予想通り。しかし最後はとても爽やかです。

「青嵐の夢」集英社コバルト文庫(2003年3月読了)★★★★★
盧江郡の舒に移ってきた孫家。新しい住まいの隣は、三公の一の大尉をも排出したこともあるという名門・周一族の家でした。引越しをしたその日、孫策は従兄弟の孫ロと立ち会いをしている時に弾き飛ばしてしまった剣を探すために、塀を越えて周家の庭に忍び込みます。その剣は、弟の権が父・孫堅からもらった大切な剣だったのです。庭の木の下に剣を見つけて一安心の孫策。しかし自分の家に戻ろうとしたその時、屋敷の方から聞こえてきた琴の音に惹かれて、孫策は思わず屋敷の回廊への階を上ぼることに。その琴を弾いていたのは、見とれてしまうほど綺麗な顔立ちをした少年でした。しかし孫策を見た瞬間、その少年は刀を持って堂を飛び出してきたのです。盗人に間違えられて大慌ての孫策。最悪の出会いをした2人は、さらに孫策の母の提案で、一緒に琴の稽古をすることになってしまいます。

「旋風は江を駆ける」シリーズ6作目。10歳の孫策と周瑜の出会いの物語です。三国志には載っていない、朝香祥さんの完全オリジナルということになります。しかし孫策と周瑜の性格は、基本的に大人の時と同じ。そうではないかとは思っていましたが、2人ともそのままです。無鉄砲な孫策に、常に冷静沈着な周瑜。あまりに対照的な2人ですが、対照的であるからこそ、自分にないものを持つ相手に惹かれるのでしょうね。しかしそんな2人が本当に友となることができたのは、やはり周瑜の母の病気がきっかけでしょうか。日頃ポーカーフェイスを決して崩さない周瑜ですが、この時ばかりはさすがに内に秘めているものが表面に現れます。孫策がこんな周瑜の一面を見ることが出来たのは本当に大きいですね。この出来事で、後年の信頼関係にもぐんと説得力が出てきます。
「同族に三公がいても、私にはたいして関係ないでしょう?」と言い切ってしまう周瑜の強さが好きです。そして自分より常に相手のことを考えているところも。常に大人であることを余儀なくされ、ポーカーフェイスでいることが身についてしまった少年だからこそ、思わず内面の感情を出してしまう場面は、本当に切なく感じられます。両親が健在であれば、周瑜ももう少し子供らしさを持てたのでしょうか。しかしそれは、最早本人にはどうすることもできないこと。孫策のように、強引にでも相手の懐に飛び込める人間でないと、なかなか周瑜のことは本当には理解できないのでしょうね。やはり周瑜にとって、孫策は大きな存在だったとしみじみ思わされます。

「華の名前」集英社コバルト文庫(2003年3月読了)★★★★★
前年187年に長沙太守の地位を得た孫堅は、早速蛮と呼ばれる長沙郡の先住民の乱を鎮圧、烏程侯に封じられることに。それを知った周家では、祝賀のために周瑜が使者となり、長沙の臨湘を訪問することになります。周瑜は、祝いの品々を載せた船で舒から長江を遡り、洞庭湖を通って湘水へ。その船には、護衛と称してこの春14歳を迎えたばかりの孫策も乗っていました。しかし長沙に入ったところで、地元の江賊に目をつけられてしまいます。江賊の船3隻が自分たちに向かって来るのを知った孫策と周瑜は、先手を取って相手の船に乗り込むことに。その江賊の船を率いていたのは、孫堅が下したばかりの部族・楚の君長の娘・芙蓉だったのです。

「旋風は江を駆ける」シリーズ7作目。孫策と周瑜14歳の時のエピソードです。
男勝りで腕自慢の芙蓉が、自分を負かした唯一の男に恋をしてしまい、しかも恋した途端に女らしくなりたいと望んで努力してしまうという展開は、あまりにありきたりとも言えるものなのですが、しかしそこに絡んでくるのが孫策と周瑜ということで、やはり楽しい物語に仕上がっています。普段は石橋を叩きながらも、いざとなると大胆な行動に出る周瑜は本当にいい味を出していますね。周瑜の考えで、2人が先手を取って相手の船に乗り込むところもかっこいいですし、続く戦闘シーンもなかなかのもの。そして女らしい仕草を身につけたいと思った芙蓉のために、毎日のように通う場面も… しかし読みながら、蓮の弟だからといって、なぜ男の周瑜が?と全く感じないというのも少々問題でしょうか!
展開も結末も予想通りではありましたが、それでもやはりとても爽やかな読後感でした。

「花残月」集英社コバルト文庫(2003年3月読了)★★★★★
孫策と周瑜長沙から戻って数日後。周瑜に頼まれた孫策が周家を訪れると、家の中は取り込みの真っ最中。周瑜の姉の蓮が、周家の総領である周忠に挨拶に行く準備をしているところだったのです。盧江で一番と言われる美貌の周蓮は現在17歳。最近の孫策は仄かな恋心を隠せず、蓮の前に出ると柄にもない緊張振りです。その蓮が旅立ち、そして帰ってくる予定の日。薬草採りに出かけた孫策と周瑜は、野盗に襲われた少女を助けることに。その頃、盧江のあちらこちらで、同じ一団だと思われる者たちに旅人や商人が襲われ、金品や馬、若い女性が強奪されるという事件が相次いで起きていました。少女を助けたことがきっかけで、孫策と周瑜は野盗退治に乗り出します。

「旋風は江を駆ける」シリーズ8作目。前作の「華の名前」とセットで孫策初恋編ですね。
通常なら主役は孫策と周瑜の2人なのですが、今回の陰の主役は、何と言っても周瑜の姉・蓮でしょう。美しくて賢くて、しかも芯の強さを持っている女性。しかもお淑やかでありながらも、思いの外茶目っ気も持ち合わせてるという素敵な女性です。そんな蓮の趣味が、弟いじめだというのですから笑えます。実際に周瑜をいじめて楽しんでいる場面が何度かあるのですが、やり込められている周瑜の可愛いこと。他では見られない貴重な姿ですね。蓮によると、普段理論武装している周瑜にも時々綻びがあるとのことなのですが、やはりそれは蓮だからこそつつける綻びなのでしょう。これほど素敵なお姉さんなら、今までの作品でももっと前面に出てきて欲しかったです。そしてそんな蓮を前にするとしどろもどろになってしまう孫策もなかなかの微笑ましさ。しかし3人がお互いを想う気持ちの強さに安心させられながらも、その行動にははらはらさせられ通しでした。
そしてこの作品には、「青嵐の夢」に登場した本家の周忠が再登場します。「青嵐の夢」では、偉ぶった嫌なヤツという印象だった周忠ですが、この作品ではなかなか頼り甲斐のある大人という良いイメージになっています。ただ、孫策と周瑜と共に野盗退治に乗り出す子供たちの印象が薄かったのが少々残念です。

「約束の時へ」集英社コバルト文庫(2003年3月読了)★★★★★
191年。漢室を牛耳り政治を弄ぶ董卓の討伐に様々な武将たちが兵を挙げるものの、戦況は膠着状態のまま、足掛け3年が過ぎていました。そんな折、孫策と周瑜の2人は、孫堅によって河内への使者の任を与えます。任務は袁紹と曹操に書面を渡すこと。袁紹宛の書面には、反董卓連合全勢力をもって洛陽を包囲し、董卓との決戦に臨むための献策、曹操宛の書面には孫軍と曹軍のみで董卓を討つ方策が記されていました。どちらの人物も乗ってこない場合は、孫軍だけで董卓を討つという孫堅。しかし2人が曹操軍の元に辿り着いた時、曹操は留守。帰りがいつになるか分からないと聞いた2人は、曹操を追って行こうとします。しかしその時、曹操軍の陣営の兵隊が、徐栄率いる董卓軍が孫堅軍に攻撃をかけるという話をしているのを孫策が小耳に挟みます。2人は使者の任を果たさないまま、孫軍へと駆け戻ることに。

「旋風は江を駆ける」シリーズ9作目。「旋風の生まれる処」の続編に当たります。孫策と周瑜、共に17歳。2人とも一気に凛々しい青年となっていますね。そしてしばらく外伝という名の朝香さんオリジナルの物語が続いていたのですが、この作品で史実に戻ってきました。曹操や曹洪、呂布などの武将も登場します。
孫堅が2人を使者として出したのは、軍営の中にばかりいる2人に、孫堅や孫軍の置かれている位置を認識し、どこにどのような敵が潜んでいるかを知るためという面が大きかったのですね。これからの孫策の成長に期待する孫堅の気持ち。しかし孫策は、そのような気持ちにはまるで気がつかないのでしょうね。それでも根が素直な孫策には十分な効果が上がっているようですが。しかも今回は呂布と戦う羽目に陥ります。あまりの実力差に勝負にならず、孫策の自尊心はずたずた。本当にこのままいったら良い武将になれたのに…と、思っても仕方のないことを思ってしまいます。
このシリーズは呉視点ですが、魏や蜀のことも決して悪く書いていないのが好印象ですね。曹操や曹洪の活躍ももっと読んでみたいです。現在のところここまでのようですが、続きが出る予定はないのでしょうか?

「運命の輪が廻るとき」角川ビーンズ文庫(2005年9月読了)★★★
薫卓が天子を傀儡にして政治を弄んでいた頃。薫卓を真の敵として漢室を救うために戦っていた破虜将軍・孫堅は、南陽太守・袁術の下にいることを甘んじていました。袁紹と袁術の争いに巻き込まれながらも、自分の足場を着々と固めていく孫堅。しかし袁術に命じられて迎えた対劉表戦で、戦には勝っていたものの、矢を受けてしまうのです。

コバルト文庫で出ていたかぜ江シリーズの続編。しかし続編とは言っても時系列的には「約束の時」から「旋風(かぜ)は江を駆ける」の間に当たります。
あとがきによると、シリーズの続編、しかし出版社を変えての新たな作品ということで、かなりの苦労をされたようです。確かにシリーズ物とはいえ、初めての読者には登場人物の紹介をしなければならないですし、以前からの読者をも満足させなければならず、なかなか難しいところだと思います。そのせいか、孫策と周瑜の描き方に少し物足りないものを感じてしまいました。直情型の孫策と冷静沈着な周瑜という図は相変わらずですし、2人の友情も固い絆で結ばれているのですが、「旋風は江を駆ける」の時に感じられたような熱さがないような…。おそらく、「続編」「新作」のバランスに対する朝香さんの迷いが、作品の中にそのまま出てしまったのでしょうね。今回は1作目ということで、本来の調子が出なかっただけならいいのですが。
それでも孫堅の死による孫軍の存亡の危機、孫策の焦燥感や葛藤、そんな孫策を諭す周瑜という辺りはとても良かったです。これをきっかけにシリーズが再開されるといいですね。すぐにではなくても、いつか孫策と周瑜の嫁取り場面が読みたいです。
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.