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このページは、恩田陸さんの本の感想のページです。

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「六番目の小夜子」新潮社(2001年1月読了)★★★★★

ある地方の進学校には不思議な風習が受け継がれていました。それは3年に1度「サヨコ」が指名されるというもの。卒業する「サヨコ」によって次代の「サヨコ」が選ばれ、卒業式の場で密かにメッセージが手渡されるのです。新しい「サヨコ」は、無事に受け継がれたことを示すために、4月の始業式の朝、自分の教室に赤い花を活けなければなりません。新たに指名された「サヨコ」の仕事はただ1つ、その年の文化祭での役割をやりとげること。それによってその年の吉凶が決まるとまで言われている大事な役目なのです。そして今年は6番目のサヨコの年。4月の始業式の朝、神戸から一人の美少女が転校してきます。名前は津村沙世子。偶然なのか必然なのか… 役者が揃い、新しい「サヨコ」のゲームが始まります。

物語は高校3年生の春に始まり、春夏秋冬を経て、また春が巡ってくるという構成。
まず、「サヨコ」が実際に活動するのは3年に1度で、在校生の誰一人として「サヨコ」を直に感じたことがないという設定が面白いですね。誰も直接知る者がいない噂だけの存在の割に、この「サヨコ」の存在感は圧倒的。生徒の中にしっかりと浸透しているのが驚くほどです。確かにその年の「サヨコ」の出来如何によって大学進学率まで左右されるとなれば、確かに無視できないものはありますが… 受験生の心理をも巧みについた設定です。
転校生・津村沙世子とは何者なのか。彼女を中心に緊張感が高まり、得体の知れない雰囲気がどんどん盛り上がります。クライマックスはやはり文化祭でしょう。文章だけだとは思えないほどの臨場感があり、映像が目の前に浮かびます。「学校の怪談」的な設定なのですが、ホラーというほど怖くは感じなかったこともあり、すっかり話に引き込まれてしまいました。ただ物語としては、文化祭で一段落ついてしまいます。なぜその後も続いていくかという部分に関しては、賛否両論あるかもしれませんね。私としては、文化祭の後の展開も勢いで読まされてしまったのですが…。これがデビュー作とは凄いです。
ちなみにこの作品はNHKの「ドラマ愛の詩」シリーズでドラマ化されています。舞台が中学に移っていたり、本には登場しない人物が中心的役割を演じているなど、本とはかなり違う設定なのですが、しかしこちらのドラマも楽しめました。


「球形の季節」新潮文庫(2000年12月読了)★★★★

東北のとある小都市・谷津町には、男子高と女子高が2つずつ、合わせて4つの高校があります。その4つの学校で流れ始めた不思議な噂は、「5月17日に如月山に宇宙人がエンドウさんを連れにやってくる」というもの。4校が合同で主催する「谷津地理歴史文化研究会」に所属する坂井みのり、浅沼博範、関谷仁らは、その噂の出所を明らかにしようとするのですが、出所をつきとめる前に、噂はなんと真実に。そしてまたしても新しい噂が。

前作「六番目の小夜子」も1991年のファンタジーノベル大賞の候補となった作品ですが、こちらも1993年度の大賞候補となった作品。
ファンタジーホラーと言えばいいのでしょうか。深く読めばとても暗い部分のある話なのですが、全体に明るく、とても読み心地のよい作品です。物語は色々な登場人物の視点に移り変わり、しかしその移り変わりがとても自然。どの登場人物にもとても入りやすいのです。谷津という土地も、そこに住む人々も、とても丁寧に描かれているので、それぞれの情景が目の前に浮かんできますし、登場人物もとても印象的で生き生きとしています。
ただ、最後が尻切れとんぼで終わってしまっているのが気になります。ここまで書いてあるのですから、もう少し書いて欲しかったのですが…。伏線だと思っていたのに、そのままになってしまった部分も気になります。しかしそれを含めても、やはり心地良い小説だと思います。


「不安な童話」祥伝社文庫(2000年12月読了)★★★★★

大学教授の秘書をしている古橋万由子は、たまたま訪れた天才画家・高槻倫子の遺作展の会場で強烈な既視感(デジャ・ヴ)に襲われます。それまでは名前も聞いたことのない画家のはずなのに、その絵には確かに見覚えがあったのです。絵を見ているうちに平常心を失い「鋏が…」と叫びながら倒れる万由子。後日、万由子の元を高槻倫子の遺子・高槻秒が訪れます。実は、高槻倫子は25年前、万由子が生まれる1年前、まさに鋏で首筋を刺されて殺されていました。秒は万由子を母の生まれ変わりだと信じ、遺書にあった4人の人物に秒が絵を渡す時、同席して欲しいと頼みます。万由子の上司である大学教授・浦田泰山が乗り気だということもあり、それとなく倫子の死について調べ始めた万由子たち。しかし妨害するような出来事が次々と起こり…。

物語はまさに本格ミステリ。特に天才画家・高槻倫子と彼女にまつわる物の描写がすごくいいですね。映像がリアルに浮かぶ文章で、万由子と秒が4人の人物に会っている時に浮かぶ情景もくっきり鮮やかです。祥伝社文庫の中編シリーズは、長さが中途半端な気がして、あまり好きではなかったのですが、この作品はとてもいいですね。この長さをとても良く生かした作品となっていると思います。
「輪廻転生」や「幻視」「既視感」といった超自然的要素を取り入れ、ホラー的な雰囲気をも持ちながらも、話は現実的に進みます。数々の伏線がみごとに生かされた結末には驚かされました。恩田さんがここまでミステリを書ける方だとは知らなかったです。今後にも期待です。


「三月は深き紅の淵を」講談社(2001年1月読了)★★★★

【待っている人々】…会社の会長の家に招待された鮫島巧一。それは毎年若手社員が招かれているという春のお茶会。会長の他に、3人の初老の男女がおり、鮫島を巡る賭けをしていました。その中で一番大きい賭けは、彼がその家の中に眠る本を探し出せるかというものだったのです。
【出雲夜想曲】…堂垣隆子は、江藤朱音を出雲への旅に誘います。目的は「三月は深き紅の淵を」の作者を探し出すというもの。2人ともこの本を読んだことがあり、しかも隆子の父親は、実際にその本を所有していました。父の交友関係から、隆子は作者を割り出せると思うのですが…。
【虹と雲と鳥と】…11月の朝、城址公園の崖下で死体となって発見された2人の少女。それぞれに才色兼備で、違う高校ながらも仲が良かった篠田美佐緒と林祥子なのですが、しかし美佐緒の友達は「林祥子に殺されたのだ」と思い、祥子の友達は「美佐緒に殺されたのだ」と言うのです。
【回転木馬】…ロレンス・ダレルの「アレクサンドリア・カルテット」という素晴らしい4部作にあこがれて、「三月は深き紅の淵を」を書いてきた作者。3部までは無事に書き上げたのですが、4部の出だしをどうするかというところで逡巡します。

「三月は深き紅の淵を」という幻の本を巡る4部作。これは高名な作家が自費で200部のみ印刷したものの、その大部分は回収されてしまい、実際に出回っているのは70〜80冊ほど。そしてこの本には掟がありました。この本を借りることができるのは1回だけ、それも1晩だけだというのです。…という設定。この作品自体も、作品の中に出てくる幻の本も、4部作構成になっています。
「待ってる人々」と「出雲夜想曲」は、幻の本をめぐるちょっとしたミステリー。「虹と雲と鳥と」もあまり直接的ではないにしろ、本に関連付けられているストーリー。しかし4作目は…。これは一体何なのでしょう。作中に出てくる幻の本のストーリーもかなりの尻切れトンボらしいのですが、この作品自体も相当な物。結局何が何だったのやら、良くわからないままに終わってしまいました。しかしだからと言って、読んだ後に落胆するわけではなく、幻の本同様、何かが残る本なのです。全体像が曖昧なのに、細部は妙に詳細。作中作であるはずの幻の本が、いつの間にか現実の本に取って代わってしまったような感覚。とても不思議な読後感でした。


「光の帝国-常野物語」集英社文庫(2000年10月読了)★★★★★お気に入り

「常野」と呼ばれる不思議な能力を持つ一族。ありとあらゆる書物や出来事を暗記する能力、初対面の人の未来を見ることのできる能力、遠くの出来事を見たり聞いたりする能力、何百年も生きることができる能力…。常野の出身者たちはそんな能力を持ちながらも、普通の人に混ざってひっそりと生きています。そんな常野の人々を綴った連作短編集です。

ジャンルとしてはファンタジーなのでしょうか。10の短編は、それぞれに設定が異なる全く違う物語なのに、登場人物が微妙に重なっているので、1つの話が徐々に広がっていくような印象を受けます。1つ1つの短編の質が高く、上手くふくらませれば中編〜長編にもなりそうなところを、敢えて短編にしたという印象。贅沢な作りですね。そしてどの作品にも不思議な透明感があり、どこか物悲しく、しかし暖かくて優しくて、穏やか。一体どこが泣き所だったのか分からないうちに、気がついたら泣けていたという感じです。作者の作為を全く感じさせないというのもいいですね。心が少し疲れた時に読むと、癒してくれそう。その後の物語も、ぜひ読んでみたいです。
この作品はゼナ・ヘンダースンの「果てしなき旅路」「血は異ならず」の影響を受けて書かれた本なのだそうです。あとがきで知って早速読んでみると、そちらもとても素敵な作品でした。しかしとても欧米的な文化の上に成り立つゼナ・ヘンダースンの作品に対して、「光の帝国」には、もっと日本人に近しい味わいを感じる作品。おそらく日本人にとっては、こちらの方がすんなりと世界に入りやすいでしょうね。


「象と耳鳴り」祥伝社(2001年1月読了)★★★★

【曜変天目の夜】…多佳雄は、美術館で公開された国宝の天目茶碗を見ているうちに、十年ほど前に亡くなった友人のことを思い出し、自然死だと思われていたその友人の死に疑惑を抱きます。
【新・D坂の殺人事件】…ドサリと音がしたかと思うと現れた、一人の男の死体。直接の死因は心臓麻痺だったのですが、実は全身のあちこちを骨折していたのです。D坂に突如現れた死体の正体とは。
【給水塔】…散歩仲間・時枝満に連れて行かれたのは、「人食い給水塔」と呼ばれる給水塔のある場所でした。時枝はこの給水塔の周りで起きた不思議な出来事を語ります。
【象と耳鳴り】…「あたくし、象を見ると耳鳴り がするんです。」と語る老婦人。どうやら幼い頃のイギリス旅行中に起きた出来事のせいらしいのですが…。
【海にゐるのは人魚ではない】…多佳雄は息子の春と共に伊東へ。途中でふと耳に入ってきたのは、「海にいるのは人魚じゃないんだよ」という子供の言葉。この言葉から2人が連想したのは…。
【ニューメキシコの月】…現職の判事・貝谷の元に、死刑が確定した連続殺人鬼から毎年から送られてくる絵葉書。アンセル・アダムスという有名な写真家の写真に、宛名が書いてあるだけなのです。
【誰かに聞いた話】…多佳雄は食事中に急に、「銀行強盗が、奪った現金を近くの寺の銀杏の木の根本に埋めた」という話を思い出します。しかし誰から聞いた話なのかをさっぱり思い出せず…。
【廃園】…今は亡きいとこの結子が住んでいた家に来た途端、満開の薔薇とそのむせ返るような香りに、多佳雄の目の前には30年も前の夏の日の情景が蘇ります。多佳雄は結子の末娘の結花と話します。
【待合室の冒険】…多佳雄と春は知り合いの葬式に出かけた帰り、列車事故で足止めをくらいます。駅の待合室で待つ人々を何気なく眺める2人。そしてそこで起きた出来事とは。
【机上の論理】…検事である春と弁護士である夏は、従兄弟である関根隆一に4枚の写真を見せられます。部屋だけが写されたその写真から、そこに住む人物像を推理することに。
【往復書簡】…多佳雄と姪の孝子との手紙のやり取り。孝子はこの春から新聞記者として働き始めたた所でした。彼女の手紙の中にあった、不愉快な手紙の話と放火事件に興味をそそられた多佳雄は。
【魔術師】…早くに判事を引退し、郷里に戻って農業を営む貝谷毅の元を訪れた多佳雄。その新興都市をめぐる「都市伝説」の話を聞き、早速多佳雄は推論を組み立てます。

裁判官を退官し、悠悠自適の生活を送る関根多佳雄。散歩とミステリーが好きな彼が、身の回りに起こったちょっとした出来事を推理する連作短編集です。
はっきりとした白黒をつけずに曖昧なグレーゾーンで終わる話もあれば、「待合室の冒険」のように、その場ですっきりと気持ちよく決着がつく話が混ざっており、なかなかバリエーションに富んでいます。そしてどの話も、ミステリとしてだけでなく、恩田さんらしいファンタジー的な雰囲気や映像的な美しさも楽しめます。たとえば「曜変天目の夜」に出てくる茶碗。実際には見ることも触ることもできなくても、情景はありありと思い浮かびますし、茶碗の中の密度までしっかりと感じることができるような気がします。「ニューメキシコの月」の絵葉書の写真やそこに書かれた宛名、「廃園」の色とりどりの薔薇とその香りなども、まるで実物が目の前にあるようです。論理的なパズルを楽しめる「机上の論理」ですら、4枚の写真が目の前に浮かんできます。このような描写は恩田さんならではですね。その情景故に、どの話も謎が解かれても余韻が残ります。それが物悲しい余韻のことも多いのですが。
多佳雄と妻の桃代、彼らの息子の春と娘の夏の関係もとても素敵。「六番目の小夜子」で出てきた関根秋はこの家の末っ子なのですね。いつかこの家族を中心にした長編も書いてほしいです。多佳雄と桃代の会話はのんびりとして微笑ましく、ミステリ抜きでも十分楽しめますし、一見のんびり者に見える春が出てくる話は、意外なことに論理的なパズル系の推理が楽しめます。


「木曜組曲」徳間書店(2001年1月読了)★★★★★

4年前に亡くなった作家・重松時子を偲ぶために、毎年命日の前後3日間を「うぐいす館」で過ごす女性5人。しかしその日は、全員が集まる前に、「フジシロチヒロ」と名乗る人物からカサブランカの花束が届けられていました。うぐいす館にある花瓶を知っていたとしか思えない花束。そこには「皆様の罪を忘れないために、今日この場所に死者のための花を捧げます」というメッセージカードが。フジシロチヒロとは誰なのか、時子の死は自殺ではなかったのか、自殺ではないとすれば、その現場にいた5人の中に犯人がいるのか…。時子の死後初めて、5人はその死の真相について語り合います。

登場人物も舞台も物語全体を通して全く変わらず、期間も命日の前後3日間だけ。しかし全く飽きさせません。それどころか、彼女たちがそれぞれに「重松時子殺人事件」に関する自分の考えを繰り広げていく辺りが迫力で、物語自体も二転三転、最後まで気が抜けません。しかし、彼女たちの話を通して浮かび上がってくる「時子」という女性の人物像と影響力は、少々弱いような気がします。生前ならともかく、今は5人の女性のインパクトに完全に負けてしまっているのではないでしょうか。これで実際に生きて動いていた時の場面が読めれば、また違った印象となったのではないかと思うのですが。
登場人物の女性たちは、純文学作家、サスペンス作家、フリーライター、編集者、出版プロダクション経営者、と全員揃って書くことに関係する職業。これは本筋とは直接関係ないのですが、仕事に対する意識や、仕事にまつわるいろいろな話というのは、恩田さん自身が感じてらっしゃることなのでしょうね。そういう点でもとても興味深い作品でした。


「月の裏側」幻冬社(2001年1月読了)★★★

塚崎多聞は不思議な事件があると聞き、元大学教授・三隅協一郎の住む九州の箭納倉(やなくら)へとやって来ます。ここは町の中を縦横無尽に堀割がはしるという水郷都市。ここで起きた不思議な事件とは、掘割に面した家に住む人がある日突然行方不明になり、一週間ほどすると帰ってくるというものでした。行方不明になった人々にはその間の記憶はなく、しかしぐっすり眠ったという感覚だけははっきりと残っていたのです。そして人間の耳や指の巧妙なレプリカをくわえて戻ってくる、飼い猫・白雨(はくう)。協一郎の娘の藍子も嫁ぎ先の京都から里帰り、3人は地方の新聞記者・高安と共に真相を追います。

自分の隣にいる人間が、いつの間にか別の「モノ」に取って代わられていたら。もし、自分以外の人間がすべて「盗まれて」いたら。怖さがじわじわと寄せて来るようなホラーです。自分が「盗まれて」いるかどうか知るには「盗まれて」みるしかない、というのも、なんとも怖い考え方ですね。しかし自分だったら、耐え切れなくてすぐに靴を脱いでしまうかもしれません。とても不思議な不気味さを持った作品です。しかし本当はそれだけの物語ではなく、おそらく強烈な風刺を含んだ作品なのでしょうね。
尚、作中でフィニィの「盗まれた街」や映画「ボディ・スナッチャー」が引き合いに出されているのですが、私は残念ながらどちらも知りません。ホラーなのでしょうか。少々苦手な分野かも。


「ネバーランド」集英社(2001年1月読了)★★★★

冬休み。田舎の男子校の寮である松籟館に住む少年たちもほとんどが帰省し、その中で菱川美国、篠原寛司、依田光浩の3人だけが、それぞれの都合と思惑から寮に残ることになります。そこに父親が留守がちの通学生・瀬戸統も飛び入りで仲間入り。4人だけの休みを過ごすことに。宴会で酒が入ったこともあり、普段は見ることのできない面が徐々に明らかになり、密度の濃い時間が流れていきます。

この4人の少年たちが、なんともいい味を出していますね。特に大きな謎があるわけではないのですが、読んでいるうちにどんどん引き込まれてしまいます。最初は「変なヤツかも」と思っていた瀬戸統も、話が進むうちになんとも良い男の子に見えてきます。皆それぞれに背負っているものがあり、それは本人にとってトラウマとなっていたり、大きな影響力を持っていたりするのですが、それが明らかになった時の、お互いに対する態度がとてもいいのです。…しかし実際問題として、男4人が集まって、それほど綺麗に秩序正しく過ごせるはずはないと思うのですが…。女性のドリームとも言える設定かも。
それでもやはり恩田さんの上手さが勝ったというところでしょうか。とても素敵な作品です。


「麦の海に沈む果実」講談社(2001年1月読了)★★★★★お気に入り

2月の終わりの日、湿原の真ん中に位置する青の丘に建つ「三月の学園」と呼ばれる全寮制の学園に転入してきた水野理瀬。贅をつくした最高級の教育設備、様々な行事、しかし「3月以外の月に入ってきた人間は学園に害をなす」という伝説。この閉鎖的な学園の中では、校長が絶対的な権力を持って君臨し、生徒はほとんど外に出る自由がありません。そして理瀬が割り振られた「ファミリー」は、定員12人の半分しかいない半端なファミリーでした。理瀬が来る直前にも、2人が失踪したばかりだったのです。

「三月は深き紅の淵を」の4章「回転木馬」をベースにした物語です。
「回転木馬」が良く分からないままに終わってしまっただけに、読み始めはとっつきにくく感じたのですが、途中からどんどんひきこまれてしまいました。とても良かったです。まるで一昔前の少女漫画に好まれそうな設定ではあるのですが、ファンタジックな雰囲気をもちながらも、内容はかなりしっかりとしたミステリ。ずっしりと存在感のある、中身の濃い作品です。登場人物にも、校長を始め個性的な人物が揃っており、結末にもとても満足。
ここに登場するのは、教育機関としてはこれ以上ないほど贅沢なつくりの学校です。過保護な親が上品な教育を望んで送り込んでくる「ゆりかご組」、能力を伸ばすために入ってくる「養成所」、お金だけはたっぷりあるが、家族から事実上厄介払いされた「墓場組」と、3種類の生徒たちがおり、個人の要望で一流の講師を呼び寄せてもらうことも可能。しかしやはり外に出られない檻であることには変わりないのですね。プライバシーが全くないというのはとても辛いことですし、理瀬がだんだんと鬱状態になっていくのも良く分かります。しかも校長の意に染まない生徒は「間引かれる」という噂があるとは。それでも特殊技能を研鑚したい生徒にとっては、やはり最高の環境です。こういう環境は、日本ではともかく、外国には本当にありそうですね。この設定も非常に興味深かったです。

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