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このページは、乙一さんの本の感想のページです。

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「ZOO」集英社(2003年10月読了)★★★★
【カザリとヨーコ】…一卵性双生児のカザリとヨーコ。母親は妹のカザリだけを溺愛し、ヨーコは食べる物もなく、台所の隅で寝起きしている状態。それでも尚、母親はカザリを虐待するのです。
【血液を探せ!】…事故で痛覚を失った老人が、自分が血塗れになっているのに気付きます。包丁が彼の脇腹に刺さっていたのです。主治医が持ってきたはずの輸血用の血液は一体どこにあるのか…。
【陽だまりの詩】…「彼」の世話をするために作られたロボットの「私」。「彼」はある病原菌に感染し、後2ヶ月の命。「私」の役目は、「彼」の世話と死後の埋葬。彼はただ1人の生き残りでした。
【SO-far そ・ふぁー】…父は母を死んだと言い、母は父を死んだと言います。2人とも見える「ぼく」は、父と母の会話の橋渡し。しかしある日の大喧嘩から、「ぼく」は1人ずつしか見えなくなり…。
【冷たい森の白い家】…伯父夫婦に引き取られながらも、母屋には入れてもらえず、馬小屋で馬と共に寝起きをする主人公。馬小屋を追い出された時、森の中に馬小屋と同じような家を作ろうとします。
【Closet】…ミキは、秘密を知るリュウジに呼び出されて夫・イチロウの実家へ。しかしミキがリュウジの死体を見た時、義母のノックの音が。ミキは慌ててクローゼットに死体を隠すことに。
【神の言葉】…自分の声に特別な力があることを知った「僕」は、小学校1年の時、初めてその力を意識的に使います。最初はアサガオの花に。そして徐々に他者に対して…。
【ZOO】…「俺」の郵便受けに毎日のように入っているのは、かつての恋人の死体の写真。彼女が失踪してから、100日以上毎日同じことが続いていました。「俺」は、彼女を探そうとするのですが。
【SEVEN ROOMS】…気が付いたらコンクリートの部屋に閉じ込められていた姉と「僕」。朝になると部屋にはパンと水の差し入れが。「僕」が部屋の真中を流れる溝に入り、壁の下を通り抜けてみると、なんと他にも同じような部屋が7つあり、そのそれぞれの部屋に女性が閉じ込められていました。
【落ちる飛行機の中で】…大学生風の青年が飛行機をがハイジャック。「私」は隣席のセールスマンと死について語り始めます。彼は確実に安楽死をするための注射を持っており、売りつけようとします。

10編が収録されており、とてもバラエティ豊かな短編集となっています。
この中では、「殺人鬼の放課後」に収められていた「SEVEN ROOM」のみ既読。この作品が苦手だったので心配したのですが、他の作品は、それほどではありませんでした。それぞれ残酷だったり怖かったり不快だったり切なかったり。しかも全編に溢れているのは「死」。しかしどれほど生々しく残酷な場面、どれほど気持ちの悪い場面が描かれていても、心配したような気持ち悪さや恐怖は感じなかったです。まるでグリム童話のようなおとぎ話を読んでいるような感覚。
この中で特に印象的だったのは「カザリとヨーコ」。これはどこか「GOTH」に通じるものがありますね。一卵性双生児ながら、1人は溺愛され1人は憎悪されるという、この2人のそもそもの違いは何だったのでしょう。おそらく特に何もなかったのでしょうね。母親は区別することによって、必死に自分の中のバランスをとっていたような気がします。予想はしていても、このラストは衝撃的。残った彼女がその状況を甘受しようとしないところが、また乙一作品たる所以かも。「陽だまりの詩」は、乙一さんならではのとても切ない物語。「SO-far そ・ふぁー」は、素直に驚かされた作品。ここまでさせてしまうとは、既に許されないことなのではないかと思いますが…。痛いです。「冷たい森の白い家」は、白い家の情景が脳裏に焼きついてしまって離れません。そして「血液を探せ!」「落ちる飛行機の中で」はブラックユーモア。「落ちる飛行機の中で」は、続きも読んでみたい気がします。

「くつしたをかくせ!」光文社(2003年12月読了)★★★★
怯えた顔をして「サンタがくるぞ!くつしたをかくせ!」という大人たちを見て、慌てて靴下を隠す子供たち。見つからないところ、取り出せないところ、まず考えもしないところに、次々と靴下が隠されていきます。

角川スニーカー文庫でコンビを組んでいる乙一氏・羽住都両氏による初の絵本。本文は日本語と英語。
とにかく羽住さんの絵がとても美しく、そのページごとの色合いにはうっとりしてしまいます。帯に乙一さんの「自分なりに様々な気持ちをこめて書いたつもりです。神様を作品の中にどうやって表現するか、というのが今回のテーマでもありました。」という言葉が載っている通り、「サンタさん」は、セント・ニコラウスという1人の聖人であるよりも、まるで神様のよう。トナカイのそりに乗り、煙突からやってくるあの姿は浮かんできませんが、とっても素敵なクリスマスの奇跡の物語ですね。これは「サンタさんなんて本当はいないんだよ、あれは本当はパパがやっているんだよ」などと分かったように言う子供たちに、本当のクリスマスを思い出して欲しかった大人たちの策略だったのでしょうか?世界中の大人がみんなで示し合わせての大芝居、というのも、想像すると楽しいのですが。
相変わらずのあとがきとプロフィール。それを受けた羽住都さんのプロフィールもとても面白いです。

「失はれる物語」角川書店(2003年12月読了)★★★★★
【CallingYou】…内気な女子高生・リョウは、携帯電話で繋がっているクラスメートたちが羨ましく、自分も携帯を使う場面を空想。ある日のこと、その空想上の携帯に電話がかかってきて…。
【失はれる物語】…気付けば真っ暗な静寂の中に寝かされていた「自分」。唯一かすかに動く右手の人差し指で、妻との会話が始まります。妻は右腕の内側に文章を書き、腕の上でピアノを弾くことに。
【傷-KIZ/KIDS-】…家庭環境が原因で精神的に不安定な「オレ」と「アサト」は、小学校の特別学級のクラスメート。2人はアサトが「人の傷を自分に移すことができる」能力を持つことに気付きます。
【手を握る泥棒の話】…伯母とその娘が「俺」の住む温泉町へ。友人と興したデザイン会社が不調の「俺」は、金持ちの伯母のバッグの中に入っていた現金とネックレスのことを考え始めます。
【しあわせは子猫のかたち】…人間関係が苦手な「僕」は、大学入学を機に憧れの一人暮しを始めます。しかし「僕」が生活を始めてみると、家の中には前の住人の飼い猫と、なにやら不思議な現象が。
【マリアの指】…花火に行った帰り、誰かが電車にはねられるのを目撃した恭介。死んだのは鳴海マリア。数日後、恭介の家の裏庭にマリアが可愛がっていた白猫が。白猫は人間の指を持っていたのです。

角川スニーカー文庫に収められていた作品5編に、書き下ろしの「マリアの指」を加えた1冊。
6編中5編が既読なので、まず「マリアの指」から読み始めてみると、これがまるで「GOTH」のような暗黒系の雰囲気。他の5編は切ない系の作品ばかりなので、この中でどのような位置づけになるのだろうと思ったのですが、もう1度最初から読み返してみると、不思議なほど他の作品に馴染んでいて驚きました。暗黒系と切ない系と、どちらの顔が本当なのでしょう。現象としては暗黒系でも、やはりその根底にはせつなさが流れているから違和感がないのでしょうね。
あとがきに「交通事故が多い」とありましたが、本当にそうですね。そして手や指も重要ポイントのようです。「手を握る泥棒の話」はもちろん、「失はれる物語」もそうですし、「マリアの指」もそう。「CallingYou」も、携帯電話がメインモチーフということで、直接的には書かれていないものの、手や指が重要なはずですし、「傷」も最初の傷は左腕でした。これは今までスニーカー文庫で読んだ時には、全く気付いていなかったので驚きです。他の作品にも、探したら色々とあるのかも。
元々角川スニーカー文庫3冊の切ない系の作品がとても好きなので、これはとても美味しい1冊。羽住都さんのイラストが見れないのが残念ではありますが、乙一作品入門編にも相応しい1冊です。

「小生物語」幻冬舎(2004年8月読了)★★★★
ネットで公開されていた日記をまとめて1冊の本にしたもの。普段は「僕」という一人称だという乙一氏が、「小生」という一人称で綴る、どこからどこまでが本当のことか分からない「うそ日記」。サイトに公開されていた時は、なかなか読む時間が取れなかったので、1冊の本で読めるのはやはりとても嬉しいですし、ありがたいものですね。
そして改めて読んでみて、やはりとにかく面白かったです。本文はもちろんのこと、まえがきも最高。「息もつかせぬ手抜きの連続」辺りでは、思わず噴出してしまいました。元々あとがきが面白いという評判の乙一氏ですが、やはりこういった地の文章には、作品世界とはまた違う独特の味わいがあって楽しいです。しかし到底人気作家とは思えない、乙一氏の過剰なまでの自己卑下ぶりは、どこまでが本当なのでしょうか?

「銃とチョコレート」講談社ミステリーランド(2006年6月読了)★★★★★
その頃、リンツの住む国では、怪盗ゴディバによって富豪の家から高価な宝物が盗まれるという事件が相次いでいました。ゴディバを追うのは、名探偵と名高いロイズ。ロイズの活躍は国中で注目されており、ロイズは国民のアイドル的存在。そしてリンツもロイズに憧れる1人でした。そんなある日、リンツは近所に住む新米新聞記者・マルコリーニから、ゴディバがいつも現場に残していくカードの裏には、実は風車の絵が描かれているということを聞きます。それはゴディバ自身と一部の限られた人間しか知らない情報。そして、そのことを聞いたリンツが思い出したのは、以前父と一緒に露店で買った古いヘブライ語聖書と、その表紙に隠されていた1枚の地図のこと。その地図の裏にも、風車小屋の絵があったのです。早速リンツはロイズに手紙を書くことに。

ミステリーランド第10回配本。
まず、リンツ、メリー、デメル、モロゾフ、ロイズ、ゴンチャロフ、ドゥバイヨルなどなど、登場人物名や地名にチョコレート関係の名前がつけられているのが可愛くて楽しいです。そのせいで、英語圏の名前やドイツ語圏の名前、ロシア語圏の名前など世界各国の名前が入り乱れ、読んでいて落ち着かない印象もあったのですが、子供ならそのようなことは気にならないでしょうね。むしろ、何も知らないでこの本を読んだ子供が、あの名前は全てチョコレート絡みだったのかと後で気づいたら、さぞ楽しいだろうなと羨ましくなってしまいます。「怪盗vs名探偵」という、私が子供の頃から大好きなパターンなのですが、物語は乙一さんらしく一筋縄ではいかない、綺麗事だけでは済まされない展開。チョコレートにも甘いミルクチョコレートだけでなくブラックチョコレートがありますが、この作品もブラック風味。とてもビターです。そして平田秀一さんのダークなイメージの挿絵がまた雰囲気を盛り上げています。
あっさりと仕掛けが見えてくる部分もあるのですが、予想を遥かに上回るブラックな展開には驚かされました。本当にこれでいいのかと不安になってしまう部分もあったほど。しかしそれがまたとても魅力的なのですね。特にドゥバイヨルのキャラクターのインパクトが強かったです。戦争や移民問題など色々と考えさせられる要素を盛り込みつつも、それが決して説教臭い形ではなく、さらりと、しかししっかりとこちらに伝わってくるのもとてもいいと思います。
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