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このページは、大竹伸朗さんの本の感想のページです。

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「カスバの男-モロッコ旅日記」集英社文庫(2008年6月読了)★★★★★

飛行機でマラガに降り立ってからタンジールやフェズを訪れ、マラケッシュから再び飛び立つまでの11日間のモロッコ旅日記。画家・大竹伸朗さんが見たモロッコという国を文章、写真、そして絵で表現した本です。

11日間の旅を日を追って書いているという意味では旅行記のはずなのですが、これは普通の旅行記とはまるで違いました。大竹伸朗さんという1人画家のフィルターを通して見たモロッコを感性のままに表現してる作品。解説の角田光代さんが書かれてるように、これは「異国の夢日記」なのかもしれません。
マラケシュを訪れたところで、こんな文章がありました。「ストロボをたいて撮影すると、一瞬の強烈な光とともに対象となる像が網膜に焼きつく。光をいっさい遮断した部屋の中で像が焼きついた何秒間かは、目を開けてても綴じていても関係のない状態におちいる。目を閉じながら見る風景は実に不思議だ。「見る」ことの不思議さと頼りなさを、いっしょに感じることになる。」…まさにそのように書かれた本なのでしょうね。モロッコという国のエッセンスは強烈に伝わってくるのですが、それはあくまでも大竹伸朗さんが見て感じたモロッコ。カメラのシャッターを押した時のように、まさにその瞬間を切り取ってるわけではなく、頭の中に残像として残ってる「いま」を紙の上に表現しているような印象。それは、作中にも出てくるギタリストのエピソードにも似ているかもしれません。ギタリストが「こんな感じ」と曲を弾いた時のように、実際に元の曲と照らし合わせてみるとかなり違っているのに、原曲よりもその「感じ」が的確に表現されているという…。
最初は読みにくい文章だと思いながら読んでいたのですが、それが逆に大竹伸朗さんという方の個性を端的に表しているような気もします。文章としては変でも、とても伝わってくるものがあります。途中からは、もうこの文章しかあり得ないという気がしてきたほどでした。大竹伸朗さんの感じたモロッコ、面白かったです。ただ、大竹伸朗さんというフィルターの個性がが強すぎて、素のモロッコはあまり見えてきません。この本を読んでモロッコに行ったとしても、こんな風景は全然見えて来ないのでしょうね。

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