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このページは、小川未明さんの本の感想のページです。

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「赤い蝋燭と人魚」偕成社(2009年9月読了)★★★★

北の海に住む人魚は、生まれてくる子供に、寂しく冷たい海ではなく、人間の住む美しい町で育って欲しいと考え、子供を陸で産み落とします。それは人魚の 女の子。その女の子を拾ったのは、蝋燭の店をしている子供のいない老夫婦でした。老夫婦は神様に授けられた子供だと考えて、大切に育てるのですが...。

「日本のアンデルセン」「日本児童文学の父」と呼ばれる小川未明の有名な童話作品に、酒井駒子さんが絵をつけたもの。原作となる童話は大正10年の作品で、「人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります」という始まりがとても美しいものです。しかし私自身にとっては、美しいながらも、暗くて怖くて寂しくて哀しくて、実は子供の頃からずっと苦手だった作品。老夫婦が子供を拾う話となると、どうしても「桃太郎」や「かぐや姫」が思い浮かぶのですが、この物語はまるで違うのですね。なぜ、そしていつの間に、そんなことになってしまったのだろう、と、なんだか裏切られたような気がしてしまったものです。
しかしこの童話に、酒井駒子さんの絵がこの上なくよく似合うのです。酒井駒子さんの絵は黒が基調で、その黒がとても印象に残る絵。暗い北の海の中や、そこで暮らす人魚の孤独感が黒い背景の中で表現されていきます。この上なく寂しいのだけれど、なんとも美しい情景。しかしそんな黒が基調の絵も、海岸の小さな町の描写では背景が白となります。小さいけれど、ちょっと素敵な町。そんなイメージ。そして蝋燭の店をやってる、信心深いお爺さんとお婆さん。2人が拾った可愛い人魚の女の子。神様に授けられたこの子を大切に育てようという優しい気持ち。しかしまた徐々に黒くなるのですね。それは、拾ったのが普通の女の子ではなく、人魚だと分かった時から始まっていたのでしょうか。どんどん美しく育っていく人魚の女の子。絵がうまい彼女のおかげで、蝋燭店は繁盛します。しかしそれが良くなかったのかもしれません。女の子の真直ぐな気持ちは、いつしかお爺さんとお婆さんに届かなくなってしまうのです。優しかったはずの手は、いつしか残酷な手になってしまい…。
この物語にはこの絵しかない、とそう思えてしまうほど、はまっている酒井駒子さんの絵。闇のような黒と血のような赤が、ただただ印象的。ずっと苦手で、今でも苦手な物語なのですが、それでもここまですんなりと読むことができたのは、酒井駒子さんの絵のおかげかもしれません。

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