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このページは、荻原規子さんの本の感想のページです。

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「空色勾玉」徳間書店(2001年6月読了)★★★★★
遥か昔。豊葦原の中つ国を生み八百万の神々を生んだという男神と女神が、天上と地下に分かれて憎み合っていた時代。
狭也(さや)は羽柴の郷に住む、15歳になる村娘。幼い頃からの悪夢にだけは悩まされていたものの、養父母と共にごく幸せに暮らしていました。そんな狭也の周りの村の娘たちの目下の話題は、次の満月の祭りのこと。この祭りで、娘たちは村の若者たちと言い交わすことができるのです。しかし祭りのために村にやってきた5人の楽人こそが、実は狭也の悪夢に毎回出てきていた5人の鬼だったのです。実は自分が「闇(くら)」の氏族の「水の乙女」であると言われて戸惑う狭也。「輝(かぐ)」を奉る村に育ち、「輝」に憧れる狭也にとって、「闇」の人間であるということは到底簡単には受け入れがたい現実でした。狭也は祭りの当日偶然に輝の御子である月代王(つきしろのおおきみ)に出会ったことから、逃げるように月代王の宮の采女となってしまいます。しかし宮の神殿で輝の末子・稚羽矢(ちはや)との出会いが、狭也の運命を大きく変えるのです。

勾玉三部作の一作目。日本の上代の神話がベースとなって描かれています。輝大御神をまつるのが「輝」の一族、闇大御神をまつるのが「闇」の一族。この輝大御神と闇大御神は、明らかに伊弉諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冉尊(イザナミノミコト)のことですよね。そして伊弉諾尊の左右の目から生まれたという照日王と月代王は、天照大御神(アマテラスオオミカミ)と月読命(ツクヨミノミコト)。末子の稚羽矢は建速須佐之男命(タケハスサノオノミコト)でしょう。子供の頃から神話系のお話が大好きで、もちろん古事記も大好きだった私にとっては、それだけでもかなり美味しい設定です。
不死の一族である「輝」と、よみがえりの一族である「闇」の戦いを通して、狭也と稚羽矢が自分探しをしながら成長していくのですが、この二人がなんとも言えず良いですね。特に稚羽矢。彼は輝の末子として生まれていながら、狭也に会うまではまるで赤ん坊のよう。良く言えば「無垢」とも言えるんですが…。その彼の成長振りには、読んでるこちらまで胸が痛くなってしまうほどです。

一応ジャンルとしては児童文学になっているのですが、決して児童文学と侮るなかれ!とてもしっかりした骨太の作品なので、大人にも十分読み応えがあるはずです。古代日本の話が好きな方はぜひ。

「白鳥異伝」徳間書店(2001年6月読了)★★★★★
狭也(さや)と稚羽矢(ちはや)の時代から少し下り、ヤマトタケルの頃のお話。
遠子は守の大巫女を中心とする橘の一族に生まれた娘。拾い子の小倶那(おぐな)とは双子のように育っていたのですが、大碓皇子に連れられて小倶那は都へと去り、それぞれの道を進むことになります。そして4年後。大碓皇子がおこした謀反がきっかけで、小倶那の出生の秘密が明らかになり、その結果小倶那は大蛇の剣(おろちのつるぎ)をふるう者へ…。大碓皇子や明姫、そして遠子の郷を滅ぼした小倶那を止めるために、遠子は何としてでも小倶那を止める決意を固めるのですが、剣の力に対抗できるのは、橘一族が代々受け継いでいる勾玉だけ。元々は闇の大御神の首飾りだったという8つの勾玉のうち、この時代に残っているのは5つ。これを再び集めた物は「玉の御統(みすまる)」と呼ばれ、数が増えるほどに途方もなく強力な力を持つというのです。そして遠子は、全国に点在する橘の一族から、それぞれが守っている勾玉を借り受けるための旅を始めます。

ストーリーとしては、幼馴染の小倶那と遠子が周囲の大人の思惑によって別々の道を生きることを余儀なくされ、運命に翻弄され、しかし最終的には…という、いわば典型的なもの。気の強い遠子が大人しい小倶那を村のいじめっ子から守ったり、お互いになかなか素直になれなかったり、というのもありがちなストーリーのはずなのですが、でも古代日本という設定に、大蛇の剣と勾玉の御統という小道具によって、なんとも壮大なストーリーとなっています。遠子も小倶那もなんて健気なんでしょうね!一途な遠子も可愛いし、甘く見てると意外と男らしかった小倶那も良い味を出してます。ちなみに「空色勾玉」の「輝」と「闇」は、それぞれ小倶那と遠子に受け継がれています。
そしてこの話にもいろいろと面白い人物が登場するのですが、その中でも菅流(すがる)がとても魅力的です。菅流というのは美人に弱くて、でも老人と子供には弱くて振り回されてばかり… と書くととんでもない人物のようなんですが、でも実はとても頭が良い人なんですよね。何も考えていないようでいて、きちんと先のことまで視野に入れています。老人と子供に振り回されるというのも、実際には彼の面倒見の良い性格からきたもの。彼がいなかったら、遠子はきっと何もできないで終わってしまってことでしょう。私はこの話の中ではこの菅流が一番好きですね。彼には幸せになってほしいものです。

「薄紅天女」徳間書店(2001年6月読了)★★★★★
時代は更に下って長岡に京が移った時代。
武蔵国の竹芝の長の家は、遡れば大王の血をひくとも言われる名家。この家に育つの藤太(とうた)は当主・総武(ふさたけ)の末っ子、阿高(あたか)は総武の戦死した長男の忘れ形見という、叔父と甥の関係でした。どちらも今年17歳ということもあり、双子のように育ち、人々に「二連」と呼ばれるほど常に一緒にいる二人。しかしある日陸奥の国から蝦夷が阿高を迎えにやって来ます。阿高こそが彼らの守り神とされる巫女・チキサニの生まれ変わりだというのです。半分拉致されるようにして蝦夷たちと旅に出る阿高。藤太は、同じく阿高を探しにやってきたという大王の使者・坂上田村麻呂と共に、阿高を連れ戻しに旅立ちます。そして総武は旅立つ藤太に、赤ん坊の阿高が持っていたという、竹芝の家に伝わる勾玉を渡すのです。

勾玉は全部で8つ。元々は闇の大御神の首飾りとして連なっていたものです。闇の勾玉は闇の大御神自身がとり、輝の勾玉は輝の大御神へ、残り6つは神の子たちに分け与えられました。
そして幽(あお)の勾玉は「空色勾玉」の水の乙女と風の若子が、暗(くろ)、顕(しろ)、生(き)、嬰(みどり)の4つの勾玉は「白鳥異伝」の遠子が使います。この時代に残っている勾玉は明(あか)の玉1つだけ。

ということで、この「薄紅天女」は最後に残った明の勾玉の物語です。勾玉シリーズ完結編。神代の時代を描いている「空色勾玉」や「白鳥異伝」に比べて、かなり時代が新しくなったこともあり、神の存在が希薄となっています。それに伴って「輝=全」と「闇=悪」というイメージも薄まり、登場人物をはっきりと善と悪に分けることが難しくなっているようですね。それぞれの人間が、それぞれの想いを持って行動しているので、到底簡単には「善悪」の2つにくくりきれない。もちろんそれぞれの人間の立場というものがあるわけなので、それと対立する立場から見た場合は、その行動は「悪」のように見えるわけなのですが…。でも一旦その想いを知ってしまうと、一概に非難するわけにもいかないんですよね。その人はその人なりに良かれと思っていることをしているのですから。はっきりとした悪意を持つ人間がいれば、簡単に勧善懲悪が成り立つんですけどねえ。そういう意味では3部作の中では一番複雑、というか微妙かも。
今回主人公は阿高と藤太。後半で苑上(そのえ)もヒロインとして登場しますが、前半はこのコンビの話が中心です。(前半のヒロインはリサト?)そして彼らが何とも良い味を出してるんですよねー。少年同士の友情の物語だなんて書くと誤解を招きそうなのですが、でもそうとしか言いようがないかも…。気持ちがわかる場面がとても多く、すっかり感情移入してしまいました。そのせいかとても爽やかな読後感。本当のところ、「ましろ」には再登場して欲しかったですけどね。
藤原薬子や坂上田村麻呂などよく名前を聞く歴史上の人物が出てくるのですが、これが何やらとても新鮮な登場っぷりでびっくりでした。新鮮な解釈もとても面白かったです。とても読み応えのある三部作でした。満足!

「これは王国のかぎ」中央公論社(2004年1月読了)★★★★★
片想いの相手・宮城が一番の親友のリコとくっついてしまう最低最悪な失恋の直後、15歳になった上田ひろみ。しかもリコからの誕生日のプレゼントは、リコが宮城との初デートで行ったディズニーランドのドナルドダックのぬいぐるみでした。しかし自分の部屋で泣きつかれて眠ってしまったひろみは、ふと気がつくと、まるで知らない場所にいたのです。そこは太陽が眩しく輝くどこかの岸辺、そして目の前にいたのは、頭に縞模様のターバンを巻いた異国の男性。その見知らぬ男性はハールーンと名乗り、汚れた小さな金物の壷の栓を抜いたら、ひろみが壷の中から飛び出して来たのだと言います。どうやらひろみは、アラビアンナイトに出てくる魔神族(ジン)となってしまったようなのです。行くあてもないひろみは、ハールーンに「ジャニ」という名前をもらい、ハールーンの冒険に付き合うことに。

ごく普通の女の子が、突然アラビアンナイトの世界に飛び込んでしまう物語。アラビアンナイトは元々大好きなので、とても楽しかったです。最初生首で現れるところや魔神族となった自分になかなか慣れられずに四苦八苦するところ、水気が大の苦手というところ、透明になると風に吹き飛ばされてしまいそうになるところなどの、細かい部分もとても楽しめました。
自分の意思が強く、明るく逞しく自分の道を切り開いていくハールーンの姿は、失恋の相手である宮城にそのまま重なりますね。そしてもう1人の王子ラシードは、親友のリコでしょうか。美人だけど、少々トロいリコ。どこかリコに対して優越感を持っていたことが、ひろみの自己嫌悪をひどくしているようです。しかしリコに対するひろみの複雑な思いは、ジャニとしてラシードを助けていく間に徐々に解けていきます。ひろみのこの冒険は、失恋とそれに伴う自己嫌悪からだったのですが、しかし現実逃避からの冒険ではあっても、きちんと自分と向き合い、気持ちに折り合いをつけて再び現実世界に戻ってくることができるのなら、それもまたいいのですね。
中川千尋さんの挿絵は、少女時代、この手の本を読んでいた頃のことを思い出すような懐かしい雰囲気で素敵です。そしてこの作品の各章のタイトルは、リムスキー=コルサコフ作曲の交響組曲「シェエラザード」からとのこと。以前にも聴いたことがあるはずの曲なのですが、このような物語を喚起する力のある曲だとは、もう一度改めて聴いてみたくなってしまいます。

「西の善き魔女-セラフィールドの少女」1 中央公論社C★NOVELS(2001年6月読了)★★★★
グラールの最北端の地・セラフィールド。女王生誕祭の朝、15歳のフィリエルは、その日にロウランド家で開催される舞踏会を楽しみにしていました。15歳になったら誰でも参加できるというこの舞踏会のために、世話になっているホーリーのおばさんが青い美しいガウンを作ってくれたのです。そして、父親である天文学者のギディオン・ディー博士の所からは、弟子のルーンが青い石のついた豪華なペンダントを届けに来ます。早速そのペンダントを身に付け、生まれて初めての舞踏会に出かけるフィリエル。しかし舞踏会で、そのペンダントが大きな騒動を引き起こします。実はそのペンダントは、行方不明になった第二王女エディリーンの持ち物だったというのです。

シンデレラ登場編。物語自体は、田舎の娘が実は高貴な生まれだったという、ありがちなパターンです。でもキャラクターがなんともいいんですよねえ。可憐なのに芯の一本通っている女王候補のアデイル、カッコいいのに不器用なアデイルの兄のユーシス、無愛想で研究にしか興味のないディー博士の弟子・ルーン、太っ腹なホーリーのおかみさんなどなど。まだまだ話が始まったばかりなのですが、早くも大きな展開を見せているので、今後どうなるのかがとても楽しみ。
しかし、アデイルの趣味が同人誌だったとは…。(作中ではさすがに同人誌とは言ってないんですけど、でもまさにそのものです。)しかも兄をネタに男同士の話ですか…。その辺の設定がぶっとんでいて大笑いです。ものすごいセンスですね。(笑)

「西の善き魔女-秘密の花園」2 中央公論社C★NOVELS(2001年6月読了)★★★★★
ロウランド家の居候となったフィリエル。どこにいても命に危険があるというルーンも一緒にロウランド家で傷の養生をします。しかしフィリエルのあまりの立ち居振舞いに頭にきた監督役のセルマの言葉がきっかけになり、フィリエルはトーラスの修道院付属の女学校に行くことに。そこは生徒達の家名や身分は伏せられ、表向きは平等を理念とした場所だったのですが、実はここでの人間関係がそのまま将来に持ち越されるという小さな王宮だったのです。フィリエルはあっという間に女生徒たちの格好の餌食となり、孤立無援になってしまいます。

女子校編。いやいや、この女学校はすごいですねえ。私も女子校育ちで寮生活もしたことあるので良く分かるのですが、女の世界って本当にすごい所なんですよねー。ここの学校は王宮の前段階だから、尚更怖い。読者の期待通り(笑)、実によく描かれています。しかし黒幕が彼女だったとはね。物語的にも結構意表をついてくれる部分があって面白かったです。
そしてアデイルの書いた同人誌の原稿がここで大活躍です。白馬の王子様のシーンも笑えたなあ。…今ふと思ったんですけど、このシリーズってものすごい読者サービスですね。ティーンエイジの女の子の夢をいっぱい盛り込んでるような作品です。(笑)

「西の善き魔女-薔薇の名前」3 中央公論社C★NOVELS(2001年6月読了)★★★★★
フィリエルたちは遂に首都・メイアンジュリーにある王宮ハイラグリオンへ向かうことに。そしてルーンは王宮近くの王立研究所へ。フィリエルとユーシスははロウランド家を歓迎する夜会で一緒に踊ったことから、その仲を噂され、それは婚約騒ぎにまで発展します。そしてフィリエルに接近するリイズ公爵とルーンに接近するレアンドラ。フィリエルはようやく自分の気持ちに気がつきます。

王宮編。まあ王宮での話というのは特に目新しいものでもないのですが…。この話の中で一番興味深かったのは、「物語には精神(サイキ)がある」ということ。「古い物語に仮託して何か言うことを『楽園の言葉で語る』という」のだそうです。シンデレラや白雪姫、ラプンツェル、7匹のコヤギ、他にもいろいろある物語は、王宮から一歩外に出ると異端になってしまうのですが、王宮の中ではとても重要。逆にそれらの物語に対してどれだけの知識をもっているか、どれだけ気の利いたほのめかしに使えるかが、その人の王宮での価値に繋がるのです。…いやいや、「七匹のコヤギ」がねえ…。(笑)

「西の善き魔女-世界のかなたの森」4 中央公論社C★NOVELS(2001年6月読了)★★★★
竜騎士となって南に向かうことを決めたユーシスを、フィリエルはアデイルのために何としてでも守る決心をします。そんなフィリエルにレディ・マルゴットはさまざまな南に関する知識を授け、さらにフィリエルが女学校の時に剣を習っていたイグレインをフィリエルの補佐につけることに。フィリエルとイグレインは、竜騎士の一行を密かに追って旅をしますが、実はフィリエルがユーシスを守るという大義名分の下に隠しているのは、ルーンとの再会の希望でした。

竜退治編。「竜は世界を解く鍵となる」とディー博士が言った通り、いきなり世界観の核心に触れる展開ですね。フィリエルに懐くユニコーンの子供、竜の謎、世界の果ての壁、そこでフィリエルに起きた出来事と吟遊詩人の存在とは…。どうやらこの不思議な話し方をする吟遊詩人の存在が鍵になりそうです。
それにしても、このユニコーンはどうやら全然可愛くないらしい…。これこそちょっと意外な展開かも。それにイグレイン… 思いっきり女子校育ちですね。(笑)
でもここまで広げてしまって、本当に5巻でカタがつくのかしら。ちょっと心配です。(笑)

「西の善き魔女-闇の左手」5 中央公論社C★NOVELS(2001年6月読了)★★★
ルーンと再会し、一緒に研究者たちのところで暮らし始めたフィリエル。しかしある日二人で壁を見に行こうとしたところを、途中で軍隊に捕まってしまいます。結局ケインたちに助けられて事なきを得るのですが…。ルーンはこの軍隊のことをユーシスへ伝えに行き、フィリエルはすべての物事をただす決心をします。

結末編。前の巻から妙にSFめいた展開になりつつあったのですが、今回の展開にはびっくり。そもそもの始めはそういうことだったんですね。そういうことなら、天文学その他も異端の学問になるはずですよね。うーん、なるほどー。でもこの展開にページ数をとられてしまったせいか、他の色々なことが疑問のままに残ってしまったような…。おとぎ話のこともそうだし、ユニコーンの存在もそう。そして博士の存在も。ちょっと消化不良気味の結末でした。

結局このシリーズでは2巻3巻が一番面白かったですね。1巻は登場人物や設定の紹介があるからまだしも、4巻はやっぱり手を広げすぎじゃないでしょうか。これのせいで、結局何が一番のポイントの話だったのか、あやふやになってしまったような気がします。確かにシリーズを通して楽しく読めたし、面白かったのですが、読後感としては、まあこんなもんなのねーって感じ。もったいないなあ。
でも今回レアンドラが意外と良い感じだったのでびっくりしました。実はとても柔軟性のある人だったんですねー。この人に柔軟性があったら、もう本当に無敵ではないですか。うぅ、これはやっぱり詐欺だわー。(笑)

「樹上のゆりかご」理論社(2004年3月読了)★★★
辰川高校2年生の上田ひろみは、合唱祭実行委員をしている加藤健一に頼まれて、中村夢乃と共に市の社会教育会館で開かれる合唱祭の昼のパン売りをすることに。メインの合唱祭もパンの売り子の役目も無事におわり、ほっとするひろみですが、しかしそこで売られたパンの1つに、カッターの刃先が仕込まれていたのです。幸い大事には至らず、大騒ぎにはならないものの、ショックを受けるひろみ。しかしこれをきっかけに、同じ2年ながら1つ年上だという美少女・近衛有理と知り合うことになります。その後、同じく実行委員をしていた鳴海知章が生徒会長になり、ひろみは自然と生徒会執行部のメンバーとして秋の学園祭の準備にも関わることになります。しかし学園祭を間近に控えたある日、生徒会長の鳴海の元に脅迫状が届いて…。

「これは王国のかぎ」に登場していた上田ひろみが、高校生となって再登場しますが、こちらは前作とは打って変わった学園物。しかもミステリ風味です。上田ひろみが進んだのは、かなり偏差値の高い学校なのですが、受験校にも関わらず、生徒たちが自発的に校内イベントに力を入れているというユニークな校風。男子に頼ることができず、力仕事も当然自分たちでやらなければならない女子校出身の私にとっては、「女の子には決してそうじをさせない、重いものを持たせない、喫茶店でお金を払わせないという暗黙のルール」には驚いてしまいました。重いものはともかく、掃除もしないなんて!しかし荻原さんご自身が通われていた高校が、本当にこういう雰囲気の学校だったようですね。
物語の展開としては、少々起伏に乏しく感じられてしまったのですが、しかし色々と印象に残る場面がありました。夏祭りでの、江藤夏郎の「本音を言わなきゃ、おれたちが学生でなくなって、本音を言ったらたたきつぶされる場所へ行く前に」という言葉。そして「なあんで、私たち、こんなに必死になって、たった一日のためのキャンバスを作っているんだろう」というひろみの発言に対し、「たぶん、この先一生、これほど壮大な、ばかばかしいむだをする時間は残されていないと思うから」と言う夢乃の言葉。やはり基本的に賢い子たちなのだなと思う言動が多く、それがとても新鮮でもありました。題名の「ゆりかご」とは、この学校の、女子が特別扱いされる居心地の良い雰囲気のことなのでしょうね。周囲のやることにわざわざ口出しをしない「賢い女生徒」たちは、敢えてそのゆりかごを出ようとは思っていません。しかしひろみはいつの間にか、ゆりかごから振り落とされてしまっています。自分に一体何が出来るのか、自分とは何なのかと考え、どこか片意地を張っているひろみ気持ちはとても良く分かりますし、暗中模索ながらも少しずつ掴んでいく姿が印象に残りました。
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