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このページは、石崎幸二さんの本の感想のページです。

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「日曜日の沈黙」講談社ノベルス(2002年12月読了)★★★★
N県K市にある美和第一高原ホテルで公開予定の「ミステリィの館」。これは2年前に亡くなった人気ミステリィ作家・来木来人の自宅の館を移築したもので、そこに宿泊しながら謎解きに参加するというイベントが行われる予定。正式オープンを前に、ミステリィ関係者や一般人にモニターとして参加して欲しい旨の招待状が送られます。モニターの1人として招かれた石崎幸二は、ホテルに向かうバスの中で御薗ミリアと相川ユリという櫻藍女子学院のミステリィ部所属の2人の女子高校生と一緒になり、早速ホテルへ。3人の他には、作家の那賀良和や社会評論家の高田伸子、来木来人のファンクラブの会員や大学のミステリィ研究会のメンバー、ごく普通のOLなど全16人の参加者がいました。賞品は来木来人の未発表資料の隠し場所を示した文書、もしくは現金100万円。未発表資料が、来木来人が生前口にしていた「お金では買えないほどの究極のトリック」に関する資料かもしれないと聞き、那賀良和やミステリィファンは騒然となります。

第18回メフィスト賞受賞作。
最初から最後までハイテンションなユーモアミステリ。作者と同名の石崎幸二は、完全にミリアとユリの餌食となっています。ミリアとユリは、物を知らないかと思えば妙な所で妙なことに詳しかったり少々不思議なキャラクターなのですが、3人の会話はテンポが良くてとても楽しいですね。読んでいると、とにかくニヤニヤさせられてしまいます。その中でも一番笑えたのは、「おまえ計算速いな。西之園萌絵か」という台詞。そして本格ミステリファンを揶揄するような台詞の数々。このライトな雰囲気に、殺人ゲームという血を流さないミステリィがとても良く合っていますね。
肝心の「究極のトリック」は、謎解きというよりも、暗号を解くという方がイメージ的には近いでしょうか。清涼院流水氏を彷彿とさせる雰囲気です。清涼院作品ほどのマニアックぶりではないのですが、これは少々肩透かしだったかも。それに私はてっきり、ほとんど区別のつかないミリアとユリの存在には何かの意味があるのだろうと思ったのですが、それはなかったようですね。石崎が何の仕事のためにホテルを訪れたのか、そもそもなぜモニターに選ばれたのかというのが疑問のまま残ってしまったのですが… それと黒田支配人の言葉遣いが職業の割に中途半端な所な気がして、どうも気になってしまったのですが… しかし読後感は爽やかでとても良かったです。熊さんにはとにかく笑いました。3人ともシリーズが進むごとに魅力を発揮しそうなキャラクターなので、続編にも期待です。

「あなたがいない島」講談社ノベルス(2003年3月読了)★★★★★
旭重科学工業に勤める石崎幸二の元に現れたのは、御薗ミリアと相川ユリ。2人は誰か責任者がいないと夏合宿に行けないと、石崎にその役を頼みに来たのです。2人のペースにはまって合宿代まで出すことになってしまう石崎。そして2人が合宿の行き先として選んだのは、日本精神心理医学学会が主宰する、古離島という無人島で5日間過ごすイベントでした。この研究会はあらゆる状況での人間の心理について研究しており、持ち込む物を1人1つに限定して、大切と思うものや余暇の過ごし方に関する心理調査を行うというのです。参加した人には調査協力の謝礼として5万円、途中で中止した人にも1万円が出るとあって、ミリアもユリも大乗り気。怪しいと思いつつもミリアとユリには逆らえない石崎。3人は早速そのイベントに参加することに。

お嬢様女子高生・ミリアとユリ、そして彼女たちに翻弄されるサラリーマン・石崎幸二のシリーズ第2弾。
またしても物語は初っ端からハイテンション。そして3人が軽口をたたきあっているうちに、気がつけば本格ミステリーへと突入。やはりこの気負いのなさがとテンポの良さが、このシリーズの大きな魅力ですね。3人の会話も相変わらずボケとツッコミが満載で、しかしその軽口の前に重要な伏線や解決への鍵の影が薄れてしまうという強力なワザ。そんな流れでいきなり現実の殺人が起こり、そのギャップには本当に驚きました。
いかにも怪しげなイベントですが、その現実離れした条件作りには実は立派な理由があります。しかしその理由がなかなか分からないため、ミステリファンは逆にその理由を考えることから始めることになります。「いかにも事件が起こりそう」ところからの逆転の発想がいいですね。そしてその条件が実は事件に色々な制約をもたらしているというのも面白かったですし、イベントそのものの目的にも意外性があってよかったです。パソコンを壊してしまったり、会社のメールアドレスにウィルスを送りつけて感染させてしまうというのは、ギャグにしても少々キツいものがあるのですが、しかし最後がきっちり本格ミステリに収束されるところは見事。
ただ、「愛してる」という言葉は、ある程度の積み重ねがあってこその言葉かと…。

ミリアとユリは1作目でも物を知らない割に鋭い所を見せていましたが、ミステリにも徐々に詳しくなっているようですね。「…いつも言ってるでしょ。この世には不思議なことなど何もないのだよって、京極さんが言ってるって」というミリアの台詞も、普段石崎の言うことを何も聞いてないようで、実はきちんと聞いてるということなのですね。しかし作者と同名の探偵役をここまでの扱いにするとは、本当に勇気がありますね。体を張って笑いをとるというのは、大阪人の専売特許かと思っていましたが…。(笑)

P.208「違う。妖怪だよ。だが妖怪は京極さんに頼むしかないな。ゲームなら我孫子さんだ」

「長く短い呪文」講談社ノベルス(2003年6月読了)★★★
名門・櫻蘭女子学院高校の夏休み。ミリアとユリは相変わらずの寮生活。顧問の石崎幸二をからかったり、前回の事件で知り合った1学年後輩の須藤まみに勉強を教えたりしています。1学期まるまる休学していたまみは、2学期から通常授業を受けるために、夏休みの間に特別に補習を受けているのです。しかしそのまみが、突然硫黄島に行きたいと言い出します。まみが寮に入って出来た最初の友達・岐城美希が、「わたしには呪いがかけられています」という手紙を残して、突然鹿児島の実家に帰ってしまったと言うのです。その手紙によると、姉の由希が1年前に交通事故で亡くなったのも呪いのせい、妹たちにも呪いはかかっているかもしれないけれど、まだ間に合うかもしれないとのこと。どうしても補習を受けておかなくてはならないまみに代わり、石崎幸二とミリア、ユリの3人が、薩摩硫黄島のすぐ近くにある、岐城一族だけが住む岐城島へと向かうことに。

女子高生・ミリアとユリ、そしてサラリーマン・石崎幸二のシリーズ第3弾。
今回メインとなるのは「呪い」。しかしその呪いが本当に存在するのかどうかも定かではなく、わざわざ岐城島までやって来た3人も懐疑的。そのせいか、3人のギャグも前2作と比べると、心なしか大人しいような気がします。この呪いに関しては… どうなのでしょう。呪いというものが曖昧な存在である以上、受けとめる側が呪いとして認識した瞬間、それは呪いとして発動してしまうのかもしれないですね。しかしその「呪い」は、予想した以上に複雑な状況を作り出すことに。最後の一ひねりが良かったです。ギャグで弛緩しかけていた頭が一気に引き締まります。わざわざこんなことをしようとする人間がいるのかというのは疑問ですし、もっとスマートなやり方はいくらでもあったはず。しかし読み終わってみると、やはり彼らにはこのやり方が一番似合っていたような気もしてきます。そして、それに対する石崎の「ひとついいことを教えますよ」の部分がとても良かったです。
そしてこのこのシリーズで何が楽しいかといえば、やはりこの3人の会話。ウルトラマンやガンダムのネタは私にはよく分かりませんが、最初のメールのやり取りも楽しいですし、ミリアとユリがまみに日本史を教える場面も最高です。こういう風な角度で歴史を眺めていれば、今頃もっと詳しくなっていたのでしょうね。それにしても、ミリアとユリに付き合うために、とっとと仕事を休んでしまう石崎氏。3人分の往復の交通費をポンと出してしまうのもすごいですね。この分だと、「来年あたり日本にはいないような気がする」というのも、かなりの信憑性がありそう。ミリアもユリも一応お嬢様なのですから、その時はぜひとも自費で行って欲しいものですが…。

P.17「いいか、ミリア、ユリ」「おまえたち、キャラがかぶってる。お笑いとしては致命的だ」

「袋綴じ事件」講談社ノベルス(2003年6月読了)★★★★
毎週のように土曜日に櫻蘭女子学院高校に向かっていた石崎幸二は、校門の前で待っていたミリアとユリに、黒塗りの高級車に連れ込まれます。運転手付きのその車には、石崎のまだ知らない櫻蘭の制服姿の女子高生が乗っていました。彼女の名は深月仁美、ミリアとユリとは幼稚園時代からの友達。6歳の時に両親が離婚している仁美は、それ以来母親と暮らしており、毎年1度父親に会うことが義務付けられていました。今回は八丈島の研究所に籠っている父親にこちらから会いに行くことになっていたのですが、しかし母親は深月電子の社長業で忙しくて都合がつかない状態。父と2人では間がもたないと考えた仁美は、まずミリアとユリを誘い、この2人が石崎を強引に連れて行くことに決めたのです。そして母親の秘書の瀬尾孝美も参加。しかし八丈島の研究所について皆で夕食をとり、ホテルからの迎えの車を待っている時、台風による地滑りで道路が遮断されてしまいます。一行は研究所に閉じ込められてしまうことに。

女子高生・ミリアとユリ、そしてサラリーマン・石崎幸二のシリーズ第4弾。
大門寺剛の「玄円館殺人事件」という袋綴じ本を、どんな風に使うのかと思いましたが、こう来ましたか。巻頭の登場人物紹介にまで登場する割に、使われ方が薄かったような気はするのですが、ミリアのワケの分からない犯人当てに使われた時は、ドキドキしてしまいました。まるで「日曜日の沈黙」の初心に戻ったようで、こういうのもいいですね。しかしなぜ5冊もあったのでしょう。3冊で十分だったのではないでしょうか?あと1冊は誰かにあげて、もう1冊は保存用だったのでしょうか。(笑) 
この「玄円館殺人事件」自体も気になります。登場人物の名前や関係の設定が出来ているのですから、いつかこちらの作品も読める日が来るといいのですが。その時は、有栖川氏の作家アリスと学生アリスのシリーズのような関係になるのでしょうか?それとも殊能将之氏の石動戯作シリーズのような…?想像がふくらみます。
今回は女子高生3人の会話が多かったせいか、いつものオタク的ギャグは少なめ。しかしクロロフォルムの話などの真面目な部分も興味深かったですし、恋の行方の賭けの部分も面白かったです。しかもこの賭けは、その後の展開への伏線ともなっているのですから。こういうお遊びの部分がありながら、見事に本格ミステリとしての展開を見せてくれるのが、このシリーズの一番すごい部分でしょう。
…それにしてもあの掛け率、絶妙ですね。(笑)

P.93「いいだろう。高貴で孤高の存在なんだからな」石崎が胸を張る。「八は孤独なんだよ」
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