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このページは、石持浅海さんの本の感想のページです。

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「アイルランドの薔薇」光文社文庫(2005年3月読了)★★
1994年、北アイルランドのベルファスト。北アイルランドのナショナリスト二大武装勢力のIRA(アイルランド共和国軍)とNCF(新世紀のフィニアン団)が英国政府との本格的和平交渉に乗り出すものの、NCF内部の和平反対派が勝手に起こしたテロのために決裂していました。スティーヴン・クラークの作った爆弾が殺したのは政府の要人ではなく、一般市民だったのです。そして3年後の1997年7月。またしても和平交渉が持ち上がり、今回こそは交渉を成功させたいと願うNCF指導者のマイケル・ライアンは、プロの殺し屋にNCF副議長・ダグラス・マクマホンを消すことを依頼。3年前の一般市民の殺害の陰には、ダグラス・マクマホンがいたと考えられており、今回も和平反対のために何をするか懸念されていたのです。仕事を依頼された殺し屋・ブッシュミルズは、標的にあからさまに接触し、事故死か病死に見せかけて殺すのが得意な殺し屋。そしてスライゴーのギル湖に近いB&B・レイクサイド・ハウスに人々が集まります。

光文社の「カッパ・ワン」からデビュー。同時デビューは、東川篤哉さん、加賀美雅之さん、林泰広さんの3人。
アイルランドを舞台にしたミステリ作品というのも珍しいですね。アイルランドの武装勢力といえばまずIRAで、このNCFに関しては初耳なのですが、これはやはり架空の団体なのでしょうか。このアイルランド紛争に関する部分は、なかなか興味深く読めました。
しかしミステリ部分に関しては、正直物足りなかったです。物語は古典的なクローズドサークル。これは数あるミステリの形態の中でも、私が一番好きな形態なのですが、登場人物の人数が少ないせいか、殺し屋に関しても事件の真相に関しても動機に関しても、全てが予想通りの展開となってしまい、最後まで読んでも、あっと驚く場面が1つもありませんでした。普段はミステリ部分よりも物語部分を断然重視している私ですが、ここまで驚けないというのはやはり残念。探偵役のフジこと黒川富士夫の造形もあまり魅力的には感じられませんでしたし、武装テロ組織に拘束されるという緊迫感もあまり感じられませんでした。テロ組織というと、もっと血の気の多い人々を想像してしまうのですが、案外みんな理性的なのですね。これはやはり、和平交渉が進んでる最中だからでしょうか? しかしこういった素材をミステリに絡めて書ける作家さんが登場したというのが素晴らしいですね。今後の作品も楽しみです。
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