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このページは、乾くるみさんの本の感想のページです。

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「Jの神話」講談社文庫(2002年6月読了)★★
八王子にある全寮制の名門女子校・私立純和女学院。その年の新入生の・坂本優子は、着いた早々自分の顔を見て皆が妙な反応をするのに気付きます。実は優子は、前の年に学院の塔から飛び降り自殺をした、安城由紀という生徒と顔立ちが良く似ていたのです。由紀は亡くなる前に「ジャック」という言葉を書き残していました。それでも徐々に学院の生活にも慣れていく優子。この学院は実質的に生徒会が生徒を管理しており、その頂点に立つのは、生徒会長であり、マドンナ的な美貌を持つ、全生徒の憧れの的・朝倉麻里亜。しかしその麻里亜が急死します。彼女はなんと妊娠しており、流産の出血によるショックでベッドの中で死んでいるのが発見されたのです。しかしおなかの中に存在するはずの胎児はどこにも見当たらず…。麻里亜の父親である朝倉剛蔵は、「黒猫」こと鈴堂美音子に、麻里亜の死の原因を探るよう調査を依頼します。実は半年前にも、麻里亜の姉である百合亜が同じように妊娠中、出産を目前にして出血死、胎児が行方不明という状況になっていたのです。

第4回メフィスト賞受賞作品。メフィスト賞受賞と聞いただけで、一筋縄ではいかないと構えてしまうのですが、まさにその通りの作品でした。始まりはごく普通の学園物。飛び降り自殺をした女生徒の書き残した「ジャック」という言葉や、夜になるとどこへとともなく消えていく生徒会役員、そして消えてしまった胎児などの謎を中心に物語は進んでいきます。文章にやや癖があり気になったものの、物語の中に入り込んでしまえば忘れてしまう程度。新人作家のデビュー作とは思えないしっかりした作りですね。中盤では染色体などの理系の話もふんだんに出てきて、バイオホラー的な展開をも予想させます。しかし中盤以降の展開は… あまりに荒唐無稽さに本当に驚きました。これがなぜ講談社?そしてなぜメフィスト賞?驚き呆れ赤面しつつ読了。
面白いのことは面白いのですが、かなり読者を限定してしまいそうな作品ですね。どちらかといえば角川ホラーが好きな読者向けの作品ではないでしょうか。それにここでは神と悪魔の宗教論へといってしまいますが、例のアイディアも上手く使えばちょっと面白いSFになりそうです。それなのに、なぜこんなラストに…。
乾くるみさんというのは、お名前から女性の方かと思っていたのですが、実は男性なのでしょうか。これは男性的な感覚の部分が大きいのではないかと思うのですが。…エログロの大丈夫な方に(^^;。

「林真紅郎と五つの謎」カッパノベルス(2004年6月読了)★★★★
【いちばん奥の個室】…姪の仁美に付き添って行ったダイナモンド・エクスプレスというグループのコンサート。コンサート終了後、トイレの個室にマジックショーに出ていた女性が倒れていました。
【ひいらぎ駅の怪事件】…大学時代の友人・佐伯哲弥と飲みに行った帰り、駅のフォームで階段から外人女性が転落。そしてその時フォームにいた女性のバッグからは、カメラがなくなります。
【陽炎のように】…大学の同級だった岸本雄太の妻・尚美が亡くなり、真紅郎は大学時代の同級生・高田康博とその妻・真弓と共に告別式へ。しかしその後、周囲からは奇妙な視線が…。
【過去から来た暗号】…大通りを歩いていた真紅郎は、小学校の時の同級生・川村孝之と再会し、そのまま2人で昼食へ。子供の頃年賀状に書いて送った秘密文字の暗号解読することに。
【雪とボウガンのパズル】…雪の朝、犬のポチの散歩に出た真紅郎は、大学の医学部で法医学を教えていた時の教え子・苺沢に出会います。そして苺沢の下宿の裏に矢の刺さった死体が。

法医学の道へ進みながらも、2年前に妻を亡くして以来、向学心を失ってしまった林真紅郎。35歳にして勤め先の大学を辞め、家でゴロゴロする毎日。そんな真紅郎が出会った5つの謎の連作短編集です。殺人事件もおきるものの、主人公の林真紅郎も全体的な雰囲気もほのぼのしており、読後感も爽やか。「Jの神話」との違いに驚きました。
「いちばん奥の個室」視点が変われば、その状況の複雑さもまるで変わってくるというのが面白いですね。この手品のトリックに驚きました。「ひいらぎ駅の怪事件」真相には意表を衝かれましたが、本当にこういう状態になり得るものなのでしょうか。「陽炎のように」この本の中ではこれが一番好きです。謎を解いてもらいたがっている霊が自分についてきたという前提に、無茶にも思える推理が繰り広げられるのが楽しい作品。全ての白黒をはっきりとさせないままというのも、大人ですね。「過去から来た暗号」暗号好きなら堪らないであろう作品。実際には、実は… なのですが、終わりよければ全て良しといったところでしょうか。「雪とボウガンのパズル」雪密室物なのですが、これも「ひいらぎ駅の怪事件」同様、本当にあり得る状況なのかどうか…。それでもなんだか微笑ましくなってしまうのですが。
「Jの神話」のようなあからさまな癖こそないものの、5つの作品はどれもどこか妙な味わい。本格ミステリと呼ぶには少々とぼけた感じですが、それがいい味になっていますね。どれも最終的に謎が解けた時に、それまで想像していたのとはまるで違う場面が見えて来るのも良かったです。

「イニシエーション・ラブ」原書房(2004年7月読了)★★★
望月からの突然の電話で、大学4年生にして合コンに初参加することになってしまった鈴木夕樹。男女4人ずつの合コンで、事前に恐れていたような孤立状態になってしまうこともなく、しかも成岡繭子とは運命の出会い。繭子は20歳で、一番町の秋山歯科クリニックに勤め始めて3ヶ月という歯科衛生士。合コンの2週間後、同じメンバーで海に行くことになり、その時、夕樹は繭子にこっそり電話番号を教えてもらえることに。そして2人は少しずつ親密になっていくのですが…。

読んでいる間はごく普通の恋愛小説。女性とデートをしたことがなかった、たっくんこと鈴木夕樹は、初デートで彼女の言葉をそのまま受け止めてマクドナルドに連れて行ってしまったり、もう少しお洒落に気を使うべきだと指摘されたりする、ウブな好青年。しかしそんなSide-AからSide-Bに移ると…。何かあるのだろうとは予想していましたが、最後の最後で唖然としてしまいました。そして最初から読み返してみると、また違った面が見えてくるのが凄いです…。しかし後味は良くないですね。怖すぎます。以下ネタばれ→結局物語はB面で終わりなのではなく、B面がA面に繋がって、A面の終わりが本当の最後なのですね。A面B面の「たっくん」の造形が明らかに違うことや細かい部分の齟齬から、おそらく別人だろうとは思っていたのですが、まさかこのような時系列になっているとは、考えてもみませんでした。P.61の「タック」は、やはり人の名前だったのですね。そしてP.71の苦しい呼び方に繋がるのですね。便秘で入院などおかしいとは思っていましたが、まさかそういう事情だったとは。改めて読み返してみると、繭子の表裏がありありと見えてきて非常に怖かったです。しかし考えてみれば、鈴木夕樹も富士通の東京本社に内定をもらっているわけです。もしや繭子にとっては、この物語はエンドレスなのでは…?
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