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このページは、井上尚登さんの本の感想のページです。

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「T.R.Y.(トライ)」角川文庫(2002年5月読了)★★★★★お気に入り
1911年(明治44年)。上海の刑務所に詐欺の罪で収監されていた伊沢修は、面会に来た丁秀明(ディンシューミン)から、彼の娘・麗華(リファ)が、清王朝の皇帝・溥儀の父親である醇親王に爆弾を投げて処刑されたことを知ります。丁秀明は、娘をそんな道に進ませるきっかけとなった伊沢を憎み、悪名高い暗殺集団「赤眉(チーメイ)」に伊沢の暗殺を依頼していたのです。伊沢は早くもその日から眉毛に紅を塗った刺客に狙われることに。そんな伊沢を助けたのは、同室の関虎飛(グァンフーフェイ)でした。彼もまた中国革命同盟会の人間、しかも幹部。関は伊沢を刺客から守り、赤眉の組織に暗殺を諦めるよう話を通すことを条件に、ある人間を騙して欲しいともちかけます。二度と革命に関わるつもりのなかった伊沢ですが、赤眉の組織力とその実力を目の当たりにして、やむなくその取引を受け入れることに。そして取引が成立、関は早速看守に金を握らせ、伊沢と伊沢の弟分である陳思平(チェンスピン)と一緒に刑務所を脱出します。伊沢の役目は日本のある有力者を騙し、革命のための武器と資金を調達すること。しかし伊沢の暗殺に失敗した赤眉のキムは、組織の意図とはまた全く別に、伊沢のことを狙い続けるのです。

第19回横溝正史賞受賞作品。
清の時代の終りを告げる辛亥革命勃発直前の、上海と東京が舞台となった話です。変わり行く激動の時代を上手く絡めたコン・ゲーム。時代も時代なのですが、とにかくストーリーにスピード感があり、読んでいるとページをめくる手が止まらないほど。特にラストの二転三転からは全く目が離せません。読みながらすっかり騙され、しかし騙されたことに対してほっと安心してしまうのは、やはりこの登場人物たちの魅力のせいなんでしょうね。主人公の伊沢修はもちろん、何かといえば中国茶の薀蓄を垂れる、自称三国志の関羽の子孫・関虎飛、愛敬たっぷりの陳思平、最高に気風の良い新橋の芸者屋のおかみ・喜春姐さんなど、愛すべきキャラクターが揃っています。特に登場する中国人に関しては、その深い繋がりに「義」というものを感じさせますね。そして秋田犬の武丸。この武丸が本当にいい味を出しているのです。というか彼は一番美味しいところをさらっているかも。実はとても重要な役回りです。
中国歴史物が嫌いな人や、日本の軍国主義時代の物が嫌いな人にはオススメできませんが… そういうのが好きな人、コンゲームが好きな人はぜひ。歴史上の事実や実在の人物なども上手く絡めてあって、素直に面白かったです。

ただ、この題名はあまり内容に合ってないように思えますね。横溝正史賞を受賞した時に、「化して荒波」という題名から現在のものに変えたそうです。でも「T.R.Y.」では何のことか分かりづらいし、アピールしにくいと思うのですが…。

「C.H.E.(チェ)」角川文庫(2002年5月読了)★★★★
1997年、南米・リベルタ共和国。ここの小さな旅行代理店にマリーナ・ペトリッチと名乗る老女が現れ、旅行代理店の社長である日系三世のヨシヒコ・ヤザワと居候の従業員・大友彰に、隣の国まで一緒に来てもらえれば一人につき千ドル払うと言います。始めは老女の相手を渋っていた2人ですが、報酬に目がくらんでその仕事を引き受けることに。そして丁度その場に居合わせた立川智恵という日本人旅行者も一緒に、4人で国境へと向かいます。しかし早速空港で警察軍に追いかけられ、智恵はパスポートを警察軍にとられてしまいます。一方、新聞社をやめたばかりのビオレッタ・ベルナンは、幼馴染のパトリシアが「消失」したのではないかと、彼女の婚約者・アルベルト・コロシアから相談を受けていました。パトリシアはなんとシルビオの新曲を探し当てていたのに、仕事に穴をあけたまま失踪したというのです。シルビオは反体制を貫いた大物歌手で、5年前にアルバムを出したきり音楽業界から姿を消していました。そして街には海賊ラジオでシルビオとよく似た歌声を持つサルサが流れ始めます。

「T.R.Y.」に続く作品。今度は一転して中南米が舞台となります。作品の中で流れているサルサそのままに、リズムとノリのいい作品。そのせいか、前作よりもエンターテイメント性の高い作品になっているような気がします。次々と起きる事件もスピード感たっぷりで、4人の逃避行とビオレッタの行動が、サルサによって纏め上げられていくさまは見事。話の設定や舞台としては、私は「T.R.Y.」の方が好みなのですが、「T.R.Y.」にしてもこの「C.H.E.」にしても、映像化したらとても映えそうな作品ですね。特にこの「C.H.E.」の最後の方の群集のシーンはすごい迫力。ぜひ大画面で見てみたいものです。そして登場人物も、一癖二癖ある人物ばかり。「T.R.Y.」よりは多少ややこしいかもしれませんが、やはり皆魅力的です。この中ではやっぱりマリーナがダントツでカッコいい!エルネストやビオレッタも最後にいいとこを見せます。そして智恵に関しては想像通りでしたが、ヤザワに関してはびっくり。彼は思わぬ所で見せてくれると思ったら、こういうことだったんですね。

ちなみに「CHE」とはスペイン語での「やあ」とか「ねえ、君」などの呼びかけの言葉。キューバ革命の英雄・エルネスト・ゲバラの口癖だったことから、キューバ人の同士は彼をエルネスト・チェ・ゲバラと呼んだのだそうです。でもゲバラはともかくとして… もう亡くなってますしね。プロローグとエピローグが、あのカストロの独白。カストロみたいな人物を、勝手に登場させてしまっても大丈夫なのでしょうか?ちょっぴり心配になってしまいますが…。
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