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このページは、稲見一良さんの本の感想のページです。

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「ダック・コール」ハヤカワ文庫JA(2002年6月読了)★★★★
好きで選んだはずのデザイン会社での仕事を投げ出し、気ままな旅に出た「ぼく」は、川原で父親ほどの年の男に出会います。拳大の石を「と見こう見」しながら拾っている男。その男に興味を持った「ぼく」は、突然の雨に彼を自分の車に誘うことに。男の持つ鞄いっぱいに詰まっている石には、彼が手すさびで描いたという鳥の絵が描いてありました。石の形を生かした鳥の絵は、稚拙ながらも生き生きと泳ぎ、飛び、歩いており、「ぼく」はその鳥たちに魅了されます。
【望遠】…3年がかりで作っている大作映画。若者の仕事はその中でも重要な夜明けのシーンを撮ること。1年に1度しか撮れないアングルということもあり、失敗の許されない仕事でした。しかし若者はそのシーンを撮る直前、幻のシベリヤ・オオハシシギを見てしまい、夢中で鳥にカメラを向けます。
【パッセンジャー】…1人で山に猟に出かけたサムは、見たこともない鳥の姿を見かけます。それは見慣れたキジバトやドバトよりはるかに大きく、美しかったのです。サムは夢中でその鳥を追いかけます。
【密猟志願】…今までの人生を無難に生きてきた男。しかし実は男らしさと男らしい行動に憧れていたのです。そして彼にとって「密猟」こそが、男であることを明証する端的な冒険。そんなある日、彼は森の中で1人の少年と出会います。
【ホイッパーウィル】…100キロはある鹿を獲物に帰ってきたケンは、家に見知らぬ男がいるのを見つけます。それは州刑務所から脱走した4人の囚人のうちの1人でした。ケンは郡保安官のアル・ダンカンと共に、他の3人の行方を追います。
【波の枕】…船の火事で真っ暗な海に放り出された源三は、海を漂ううちに流木を見つけます。そしてそこにはカメの姿が。それは村の古い漁師に聞いたカメの枕と呼ばれるものだったのです。 
【デコイとブンタ】…カモ猟の時に使われる、カモをおびき寄せるための木で作ったカモ。ダック・デコイ。密猟専門の主人に池に捨てられて以来、1人で過ごしてきたデコイの「俺」は、ブンタという少年に拾われることに。 

第4回山本周五郎賞、 第10回日本冒険小説協会大賞最優秀短編受賞作品。
「ぼく」によって語られるプロローグ、モノローグ、エピローグの間に、鳥をテーマにした6つの作品が収められています。この6つの作品は鳥というテーマが共通しているだけで、ハードボイルド調だったりファンタジー風だったりと様々。舞台も日本だったりアメリカだったり、時代も現代だったり第二次大戦後比較的すぐの頃だったりと、バリエーションに富んでいます。プロローグの最後の部分に「ぼくを無限の世界に誘い込んだ」とありますが、この6つの作品が、実際に「ぼく」がみた夢の話なのかどうかは謎。短い話から始まって徐々に長くなり、そしてまた徐々に短くなって終わる、というのが、まるでとりとめのない夢の話のような雰囲気でもありますが、どちらかといえば寝ている時に見る夢というよりも、石に描かれた鳥の絵が呼ぶ白昼夢といった雰囲気です。
どの作品も稲見氏の男らしさが漂っているような気がしますね。良くも悪くも、とても男性的な作品だと思います。乾いた視線で淡々と静かに登場人物を綴っていく… そこには人生の喜びや哀しさ、そしてそれらを客観的に見つめる目の暖かさが溢れています。私はこの一見突き放したような雰囲気に初めのうちはなかなか入り込めなかったのですが、しかし一旦入り込むと、それからは夢中になって読んでしまいました。
この中で一番好きだったのはデコイを主人公とした「デコイとブンタ」。読んだ後で思わず心が熱くなってしまうような我知らず涙がにじんでしまうような作品です。デコイの「俺」が、口のきけないブンタを見つめる目がとても暖かいのです。「ホイッパーウィル」は、冒険小説的なワクワク感と主人公の深い哀しみの記憶が絶妙な作品。「波の枕」のファンタジー的な情景もとても美しくて素敵でした。
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