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このページは、伊井圭さんの本の感想のページです。

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「啄木鳥探偵處」創元社CrimeClub(2001年10月読了)★★★★
【高塔綺譚】…生活費の捻出に苦しみ、副業として探偵業を始めた石川啄木。助手は國學院大學の講師・金田一京助。最初の仕事は浅草凌雲閣の経営者からの依頼でした。ここの12階に幽霊が出るという新聞記事が出てからというもの、客足がすっかり止まってしまっていたのです。雨がやんだからと早速浅草に向かう啄木と京助。現場で、幽霊記事を書いた記者に出会います。
【忍冬】…浅草の事件から1年後。今回の事件は「金銀花」という名前の女のからくり人形が、人気役者・橘屋乙次郎の喉を噛み切って心中したというもの。乙次郎は、金銀花に惚れこんで傀儡館に通っていたのです。しかし乙次郎の死体を発見した結城泉若は、自分が犯人だと自首します。
【鳥人】…今回の仕事の依頼主は、幸楽座という演芸ホールの山根座長。最近「鳥人」として評判の榊樹神という奇術師が舞台で失敗を繰り返すようになり、翌日の「最後の飛行」も危ぶまれる状態だというのです。しかしその夜、榊がロープにひっかかって死んでいるのを発見されます。警察には飛行術の練習中の死として処理されるのですが…。
【逢魔が刻】…米屋の子供が誘拐されます。その界隈では幼児の誘拐が続いており、しかしどの子も2〜3日後に帰ってきていたのですが、この成田屋の子供だけは2ヶ月たっても戻ってこないというのです。熱の高い啄木に代わって、京助が依頼人と会い、調査を進めます。
【魔窟の女】…啄木と京助が連れ立って行った娼館での殺人事件。なんと京助の相手をしたおたきが死んでいたというのです。これは啄木が探偵業を始める前の、啄木が探偵業を始めるきっかけとなったと思われる事件。啄木の死後、京助による回想として語られます。特別ゲストも登場。

石川啄木を探偵役に、言語学者の金田一京助をワトスン役に据えた連作短編集です。傲慢で意地悪で見栄っ張り、でも憎めないキャラクターの石川啄木と、気が優しくて怖い場面になると失神する(笑)金田一京助は、案外楽しいコンビ。石川啄木が、その作品群とは少しそぐわない、貧困に苦しみながらも金があれば浪費し、借金をくりかえしていた人物だというのはどこかで聞いたことがあったのですが… きっと本当にこんな人物だったんだろうなあと思わされてしまいました。もし詩の中の啄木しか知らない人がこの本を読んだら、詩を見る目がまるで変わってしまうかも。そして啄木に振り回されながらも、惚れた弱みで(?)彼を放っておけない京助が情けなくも可愛らしく、なかなかいい味を出しています。しかも慌てた時に出てくる、京助の癖といったら… 仮にも偉い学者先生をこんな風に描いてしまっていいのでしょうかねえ…。(笑)
物語の中や、各章の最後に啄木の書いた詩があり、それがなかなかいい味を出しています。きっと元々詩が読まれたシチュエーションとは全然違ってて、詩を読んだ作者が話をふくらませていったんだと思いますが、これがとてもしっくりきます。それに途中の伏線も思いのほか美しかったりして。読み始めた最初は「なぜ啄木?」と思ったのですが、啄木の時代のあの雰囲気にしっかりと浸ってしまいました。
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