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このページは、江森備さんの本の感想のページです。

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「天の華・地の風-私説三国志」1 光風社出版(2003年2月読了)★★★★
三国志の時代、赤壁の戦いの直前の頃。蜀の若き軍師・諸葛孔明は、呉と同盟を組んで魏と戦うべく、劉備の使者として呉に単身乗り込んでいました。しかし孫権をその気にさせるのには成功したものの、思いもかけない理由から、呉の国に人質同然に留め置かれていました。孔明は、女細作であるフェイ(非+木)妹に、大都督・周瑜の元からある物を盗み出して欲しいと言います。実は20年前、孔明がまだ10歳の少年の頃、彼は相国薫卓の枕席をはらう美童の1人だったのです。その時の様子は薫卓のお抱えの沈観という名の画師によって仕女図や侍童図、そして閨房図として描かれており、薫卓が誅された時に城と共に灰になったはずのそれらの画が、なぜか孫堅の収集の中にあったのです。そして今は周瑜の手元にあり、それによって孔明は周瑜に関係を迫られていました。周瑜は孔明に執着し、孔明を呉に留まらせるために夜毎に孔明を訪れます。

「天の華・地の風-私説三国志」2 光風社出版(2003年2月読了)★★★★
魏では馬超が挙兵し、長安へ入った頃。孫権の妹・尚香は劉備に輿入れし、臥竜・孔明と並び称される、鳳雛のホウ(广+龍)統もまた劉備の元へ。劉備は会ったばかりのホウ統にすぐに心酔してしまい、元々ホウ統を劉備に勧めた孔明自身ですら、少々面白くないものを感じることに。なんと劉備は、ホウ統を孔明と同格の軍師中郎将に任命する気になっていたのです。軍師中郎将の座は、赤壁の戦いという試練を経て孔明がようやく掴んだもの。劉備の周囲の武将たちもまた、不審な目で見ていました。しかしいつも孔明と比較され続け、鬱屈してきたものを抱えているホウ統は、蜀軍の中で独自の動きを見せ、孔明をさらに苦しめます。そして孔明が孫尚香の勧めで、呉にいる兄・諸葛瑾から養子をもらうために都を留守にしている間に、尚香が阿斗を連れ出すことに。一方、しばらく行方が分からなくなっていたフェイメイは…。

「天の華・地の風-私説三国志」3 光風社出版(2003年2月読了)★★★★
ホウ統亡き後、次第に存在が大きくなったのは、劉璋の家臣だった法正。張松・ホウ統が相次いで倒れ、今回の蜀攻略には法正の働きが大きかったのです。法正は蜀軍太守、揚武将軍に任命されます。しかし法正が蜀に来たのは、劉璋を裏切った上でのこと。裏切り者は再び裏切るという考えの孔明は、折をみて始末することを考えていました。一方孔明は、歌姫・香蝉によって魏延に性癖を知られてしまいます。香蝉は本名を燕郎といい、元はなんと魏延の枕侍童だったのです。そしてこの頃から、孔明は赤眉を名乗る者たちに命を狙われ始めます。赤眉は、狙った獲物は決して逃さない恐ろしい暗殺集団でした。

「天の華・地の風-私説三国志」4 光風社出版(2003年2月読了)★★★★
病床にある孔明は、病を押して劉備の元へ。その日は丁度関中攻めの軍議の日でした。孔明が庁堂に入ると、軍師座に座っていたのは法正。法正は、孔明がいない間にと急いでいたのです。着々と劉備に取り入る法正。そしてホウ統がいた時と同じような状態になる孔明。蜀の水面下では、色々な動きが入り乱れます。そんな時、荊州にいた関羽が、呉によって血祭りにあげられることに。劉備は義弟の仇討ちのために、孔明の制止も聞かずに75万もの大軍を催して呉に宣戦布告。しかし惨敗。劉備は白帝城で病に倒れることになります。

「天の華・地の風-私説三国志」5 光風社出版(2003年3月読了)★★★★
劉備が急死。遺詔によって国権を総覧した孔明は、皇太子・劉禅を立てて皇帝とし、成都丞相府を足場に諸政刷新に乗り出します。疲弊した財政経済を立て直すのは2〜3年かかると言われている大仕事。しかしその財政再建の合間にも、孔明は密かに南にも手を回していました。3年前、劉備が在世で呉の陸遜に大敗した頃に起きた南中での蛮族の乱が未だ完全に平定されていなかったのです。当時のその乱は呉による陽動作戦。しかし劉備が死んだ今、呉との関係は修復され、改めて孔明が呉の手の引いた南中を平定することに。南中に進軍した孔明は、既に反乱軍の主な顔ぶれの中に内訌の種を吹き込んでおり、そのあらかた討ちとることに成功。残る敵は一番人望が厚いと言われている南蛮王・猛獲の軍のみ。しかし魏延や趙雲らと共に相手陣に夜襲をかけた際、相手の奇襲により孔明は谷底に落ち、猛獲の軍に捕虜として捕らえられてしまうのです。

「天の華・地の風-私説三国志」6 光風社出版(2003年3月読了)★★★★
50万の大軍と1年もの歳月を要した南蛮王・猛獲の征伐から2年後。漢丞相である孔明は「出師の表」を表して劉禅から魏の討伐を許されます。漢中から長安をうかがう蜀軍。そこに呉にいる諸葛瑾からの手紙が。そこに書かれていたのは、魏の司馬懿には要注意との言葉。呉の荊州軍も先の江夏石陽の役で、司馬懿によって大敗を喫していたのです。曹操に嫌われていた司馬懿は、曹丕に気に入られ、曹丕が魏の文帝となってから頭角を現してきていました。孔明は細作を放って司馬懿の弱点を探らせます。そして孔明自身は、魏延らと共に微行で興国へ。先の猛獲との戦いの後の孔明の猛獲の扱いを見て、孔明が中華人の血に拘らず夷狄にも同じ権利を認めるという噂が流れており、魏に押さえつけられていた西戎夷狄と呼ばれる人々の希望と憧れの的となっていたのです。魏に襲われるまで馬超に仕えていた蒲阿里もまた、孔明と結ぶことを望んでいました。蒲阿里に会った孔明は、早速裴緒に策を授けます。

「天の華・地の風-私説三国志」7 光風社出版(2003年3月読了)★★★★
街亭での大敗戦から2ヶ月後。孔明は趙雲、魏延ら主力を漢中に残したまま成都へ帰還。敗戦の責任を取るつもりで戻った孔明でしたが、成都にはまるで凱旋将軍を出迎えるような歓呼の声が響き渡っていました。敗戦は、朝廷によって勝利にすり替えられて宣伝されていたのです。劉禅に会った孔明は、敗戦の責任をとって丞相の座を退きたいと伝えますが、その代わりに右将軍として国政の重責を担うことに。劉禅は自分の地位の安定のために、孔明をおだててこれ以上の遠征をやめさせたかったのです。劉禅は側近たちと、孔明追い落としについて相談するのですが…

「天の華・地の風-私説三国志」8 光風社出版(2003年3月読了)★★★★
孔明が病に倒れ、その情報は早くも魏に伝わります。魏は漢中に総攻撃をかけることを決定。漢中南山下原で養生している孔明はそれを知り、気力で復活。魏が進軍を始めたという知らせに、敵が迫り手に余る事態になった時の備えて、孔明は高翔、李恢、王平、姜維の4人に錦袋入りの命令書を渡します。一方、孔明が主要の糧秣輸送路として使っていた米倉道が賊に襲われたり、雨で通れなくなったりして糧秣が不足しがちとなります。しかし実は政敵である李厳の配下の運ぶ米に限って、常に5日以上遅延し、量も半ば以上失っていることを孔明は見抜いていたのです。その時丁度到着した苟安を厳しく詮議し、大雨の氾濫のせいにする苟安を処罰することに。しかし李厳の元に逃げ帰るかと思われた苟安は、そのまま魏の司馬懿の元へと走ります。しかし降り続く雨に、両軍とも撤退を余儀なくされます。

「天の華・地の風-私説三国志」9 光風社出版(2003年3月読了)★★★★★
成都へ戻る姜維は途中党首に呼び出され、任務の再確認をさせられることに。急ぐ必要はないものの、それが常に頭の隅にあり、逡巡する姜維。そんな折、孔明は姜維や朝薫、細作数名を連れ、微行で呉へと向かいます。目的は孔明の兄の諸葛瑾に会うこと。そしてその旅がきっかけとなり、姜維と朝薫はお互いに心惹かれることに。孔明も姜維を娘の婿とする心積もりをしていました。しかしそんなある日、夜更けに朝薫の元を訪れようとした姜維は、孔明や魏延らのことを目撃してしまうのです。そして魏延の言葉から、孔明が自分に良く似ていたという周瑜とも関係を持っていたことを察知してしまいます。朝薫のことを愛しながらも、どうしても朝薫の顔と孔明の顔がだぶってしまう姜維は…。

「天の華・地の風-私説三国志」全体を通しての感想
江森三国志、全9巻。所謂三国志でありながらも、この作品は、初出が「小説ジュネ」ということで、や○い味たっぷりの三国志となっています。(江森さんは、元々中嶋梓さん主宰の小説道場出身の方なのですね)
主人公は孔明。「真鉄の剣がはじく月の光が、もし形になるとしたら、おそらくこの様になるであろう。」と形容され、周瑜に月天宮の仙女を思い起こさせるほどの美形として登場。その美しさは50歳を過ぎても続くので、少々薄気味悪くもあるのですが、しかし常に冷静沈着な切れる軍師というイメージしかなかった孔明の様々な面が見えてくるのが面白いです。特に男性との関係を通して、孔明の女としての部分がまざまざと見えてきます。
そして通常の三国志に出てくる武将たちや歴史上の事実にも、かなり斬新なイメージが打ち出されています。周瑜に関しては、実はかなり違和感があるのですが、ホウ統の劣等感による屈折、子供のように移り気な劉備の寵愛、そして姜維や他の面々の表と裏の顔については江森さん独自の物語を展開しており、しかもそれがなかなかの説得力を見せてくれます。周瑜とホウ統の死の真相、劉備と孔明の関係、孔明と姜維の関係、「泣いて馬謖を切る」、五丈原での孔明の死なども、ここではまるで違う物語。それに伴いどろどろした人間関係や、水面下での攻防などもリアルに描かれているのが面白いですね。特に水魚の交わりと言われた劉備と孔明の関係も、ここではまるで違う様相を見せ、しかもこの物語の角度から見てみると、劉備の遺言の意味もまるで違って聞こえてくるのが不思議なほど。孔明と魏延の反目を逆手に取ったこの関係もとても上手いですし、姜維についても本当に驚かされました。9巻の結末も、表面上の史実は変わらないのに、まるでif物を読んでいるよう。今までの三国志が浅く感じられてしまうほどです。イメージが全く変わらなかったのは趙雲ぐらいでしょうか。彼は最初から最後まで好感度の高い真面目な武将として描かれています。
男性同士のシーンなどもあるので、受け付けない方も多いのではないかと思いますが、しかしこのストーリーには一読の価値があると思います。とても良く研究され、練られているという印象。ただそれは、基本の三国志があってこそ。この作品は基本を知った上での応用編の楽しみだと思います。演義系でも正史系に関わらず、何らかの作品を先に読んでおくことをお勧めします。
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