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このページは、梓河人さんと飯田譲治さんの本の感想のページです。

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「アナン」上下 角川書店(2005年9月読了)★★★★★お気に入り
ホームレスの流(ながれ)は、今年の初雪が降ったら死のうと決めていました。しかし死ぬ前の最後の食事を石田屋の京風懐石に決めて、猫のバケツと共に店の裏のゴミ捨て場の残飯を漁っている時に見つけたのは、捨てられていた赤ん坊だったのです。無意識に赤ん坊を抱き上げてしまう流。しかし新宿のホームレスで、しかも今夜死のうと決めていた自分に赤ん坊が育てられるわけもなく、そのまま交番へと向かうことに。そして顔見知りの警官・牛窪に話しかけようとした丁度その時、暴力団の銃撃戦に巻き込まれ、気付けば自分の寝ぐら近くへと逃げ帰っていました。結局、同じくホームレスのギリコや電波少年、メリーや惣一郎たちの手助けを受けて、流は赤ん坊を育て始めることに。赤ん坊はアナンと名づけられます。

記憶喪失のホームレス・流と、人の悩みを吸い取ってしまう不思議な能力を持った子供・アナンの物語。「ぼくとアナン」が、この物語を子供用に書き直した作品だと言う通り、大きな流れは同じなのですが、細かい部分はかなり違っています。登場人物もこちらの方がぐんと多いですし、大人の世界ならではという出来事も多いです。そもそも流が自殺をしようとしていたことは、「ぼくとアナン」にはないですし、流とアナンが東京を出ることになった理由も全く違うのです。そしてアナンが他人の悩みを聞くのは、ほんの赤ん坊の頃からだったのですね。ギリコや電波少年、メリーや惣一郎、神宮寺といったホームレスや、タイル屋の母娘・早苗と千草、喫茶店を作ろうとしている伊東やその友達の鬼監督等々、様々な人間の人生がアナンを通して見えてきます。アナンがしているのは、それらの人々の話を聞くだけ。他には何もしていません。しかしそれらの悲しみは最初は青い石に、そして後にはタイルを通して浄化されることになり、人々は確実に癒されていきます。そしてこの作品を読んでいる人間も確実に癒されていくような…。この話を聞くという作業を窓に例えている毬絵の言葉には、なるほどと納得。読者もそのようにして、本を通して窓を覗き込んでいるのかもしれませんね。そしてそんな風に基本的に周囲にほとんど影響されず、流れに逆らわない印象のアナンですが、キンゾウの死は人生初の試練と言ってもいいほどの大きな衝撃でした。一時はもう立ち直れないかと思うほどの傷つきよう。しかしそれらの試練を一歩ずつ確実に乗り越えていく場面もとても印象的でした。
私自身は、「ぼくとアナン」を先に読んだせいなのか、それともそちらは猫視点のファンタジー仕立てだったせいなのか、この「アナン」よりも「ぼくとアナン」の方が純粋さが強く印象に残り、素直に感動できたような気がします。しかしもちろん、こちらもとてもいい作品。やはりアナンの創作するモザイクは、文章による描写だけでも信じられないほど美しく感じられますし、アナンの作品に触ってみたくもなりますね。片方を読んで感動された方は、ぜひともどちらも読むことをお勧めします。

「ぼくとアナン」角川書店(2004年8月読了)★★★★★お気に入り
秋の雨の晩、夢の都の裏通りのゴミ捨て場に、フライドチキンのバケツに入れられて捨てられていたキャラメル色の子猫は、イエナシビトのナガレに拾われて、バケツと名づけられます。そして雪の降るクリスマスの夜、バケツとナガレが見つけたのは、なんと人間の赤ん坊でした。赤ん坊はアナンと名づけられ、ナガレ、そして女のイエナシビト・ギリコや、イエナシビト仲間のゲンさんやデンパちゃんによって育てられることに。しかしある日、居心地の良かった箱の家を出なければならなくなったナガレたち。警察官にまで追われることになったナガレは、アナンとバケツを連れて夢の都を逃げ出し、森の町へと向かいます。

飯田譲二・梓河人共著の大人向けの作品「アナン」を、梓河人さんが再び子供向けとして書いたという作品。この題名の「ぼく」は、バケツという名前の猫のこと。猫視点だけあって、ネズミや赤黒トカゲ、犬のリュウノスケやモモンガなどの動物、そして幽霊までもが登場し、ファンタジックな作りになっています。「夢の都」「森の町」「夢の島」などの名称も、いかにも児童書ですね。警官に追われて町から町へと転々するナガレたち。行き着く町のそれぞれで様々な人々との出会いがあり、そこには心温まるドラマが生まれます。アナンが、タイルを使ったモザイクが好きということもあり、物語の中のそれぞれの情景は色彩も深く豊か。アナンがドリームストーンでモザイクを作るシーンもとても綺麗で、実際に見てみたくなってしまうほどです。喫茶店の幽霊やお風呂屋さんの金色の竜にも惹かれるのですが、一番見てみたいのは、やはりタイルで作った卵でしょうか。
最初のうちはごく普通の児童書だなと思いながら読んでいたのですが、終盤、予想外の大きな盛り上りを見せてくれます。ナガレやバケツがアナンを思う気持ちには心が暖まり、その反面とても切なく、ラストは涙なしには読めないかも。大人向けだという「アナン」も、ぜひ読んでみたいです。
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