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このページは、飛鳥部勝則さんの本の感想のページです。

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「殉教カテリナ車輪」創元推理文庫(2001年11月読了)★★★★
新潟県の塩座間の井摩井美術館に事務員として勤める井村正吾は、ふとしたことで学芸員の矢部直樹と親しくなります。2人ともミステリ好きだったことから話は弾み、井村は矢部からある手記を渡されることに。それは新潟出身の無名の画家・東条寺桂の体験した二重密室殺人事件に関する手記でした。東条寺桂は33歳で絵を描き始め、5年後に自殺するまでに数百枚の絵を書き残すという多作な画家。しかしほとんど売れず、その大半は死後、妻・良子の手によって焼き捨てられていました。良子の手元に残っていた作品が初期のものと思われる風景画ばかりだったことから、矢部は個展を開いた時に売れたという「殉教」「車輪」「バラ」の3枚の絵を追いかけることに。しかしそれによって不可解な密室殺人事件が浮かび上がってきます。3枚の絵に込められた真実とは。

第9回鮎川哲也賞受賞のデビュー作です。
絵に描かれた内容やその手法から、その絵の主題と意味を解き明かしていくという学問を、図像学(イコノグラフィー)というのだそうです。このイコノグラフィーによって、描かれた作品を解釈していくという作風は、ピーター・ワトスンの「まやかしの風景画」でも読んだことがあったのですが、これがなかなか面白いんですよね。作中でも「イコノロジーはミステリに似ている」という台詞があるのですが、本当にまるでミステリの探偵がいろいろな証拠を元に推理を組み立てていくのと同じような作業。一つ一つのモチーフを丹念に吟味して、全体像を作り上げていきます。物語の出来としては、「まやかしの風景画」の方が芸達者な感じはするのですが、こちらもなかなか本格的。そしてこの本の巻頭に問題の絵の写真が入っているのですが、これがなんと作者自らが描いた絵だということで驚きました。本職は美術の先生なのだそうです。しかも作品のために描かれた絵ではなく、作品よりも先に絵が存在したとのこと。物語を組み立て、書いていった過程にまで興味をそそられてしまいます。
中心となる二重密室殺人事件は、2人の人物が2〜3分の時差でそれぞれ密室で死亡、しかも凶器は共通、というミステリ心をとてもくすぐるもの。この謎の真相にも驚きましたが、それ以上に東条寺桂という作家自身に興味を惹かれて読んでいる部分が大きかったかもしれません。これからが楽しみな作家さんです。

「バベル消滅」角川文庫(2001年11月読了)★★
新潟沖にある鷹島。この島の唯一の美術館である大津版画館の警備員・風見国彦は、バベルの塔の版画を見に毎日通ってくる少女に気がつきます。彼女は大津中学校の生徒・藤波志乃。しかし話し掛けてはみるものの、なかなか会話が成立しないのです。一方大津中学校で美術の教師・伊庭克典が殺害されます。続いて同じ学校の用務員・木中稔、事務員の鈴木智子の死体が。木中は服毒ということで自殺、鈴木智子は階段からの転落ということで、事故死と思われるのですが、同じ大津中学の教員・田村正義は、3人の死亡が同一犯による殺人だと確信します。というのも、伊庭が殺された時、傍のイーゼルには完成したバベルの塔の絵があり、木中は手の中にバベルの塔の絵のついたカレンダーを握りしめて死んでおり、鈴木智子の家のポストにはバベルの塔の絵の入った宗教団体のちらしが入っていたから。そして田村は自分なりに被害者を結ぶミッシングリンクを探し始めます。

飛鳥部勝則の長編第2弾。今回も自作の絵を添付しているのですが、今回は前回メインとなったようなイコノグラフィーは登場せず、少し残念。「殉教カテリナ車輪」と似ているのは、章ごとに語り手が変わることぐらいでしょうか。離島、謎の美少女、ミッシングリンク、ダイイングメッセージ、そして全編通してのモチーフであるバベルの塔、間には「殺人犯人の告白」という思わせぶりな章もはさみ、なかなか本格派の作品とも言えると思います。ただ、最後の犯人当てのシーンは緊迫感があってなかなかいいとは思うんですが、バベルの塔に関する薀蓄が説明的すぎて退屈、物語自体の流れも少々強引でスムーズさに欠け、一気に読ませる何かが足りないような気がします。
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