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このページは、有栖川有栖さんの本の感想のページです。

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「マジックミラー」講談社文庫(2002年3月再読)★★★★★お気に入り
珀友社の編集者・片桐との打ち合わせを終えて喫茶店を出ようとした推理作家の空知雅也は、偶然、三沢ユカリと出会います。ユカリの姉の恵は、空知の大学時代の恋人。しかし空知と恵とが別れた後は疎遠となり、7年ぶりの再会でした。恵はその後、空知の友人で古美術商を営む柚木新一と結婚して、現在は彦根市在住。しかしその翌日、琵琶湖のすぐ北にある余呉湖畔の別荘で、恵が殺害されます。容疑者は恵の夫である柚木新一と、新一の一卵性双生児の弟・健一。しかし犯行当時、新一は博多に、健一は秋田の酒田にいるという完璧なアリバイがあったのです。それでも亡くなる前日も姉と電話で話していたユカリは、義兄たちの犯行を疑い、空知に相談することに。

有栖川さんにしては珍しく、時刻表絡みのアリバイトリックの作品。私は基本的に時刻表が登場するような作品は好きではないのですが、この作品はそれだけに終わらないという所がいいですね。首なし死体の使い方も面白いですし、一番メインとなるトリックは簡単ながらも意表をつく物。しかも、双子と聞いただけで怪しく感じてしまうミステリ読みの心理を逆手に取ったような設定です。しかしこの兄弟には完璧なアリバイがあり、そのアリバイは、簡単に崩せるものではありません。縦横無尽に伏線が張られ、計算され尽くしたという印象。有栖川さんらしさが良く出ている作品だと思います。
空知雅也は、作家アリスを彷彿とさせますね。途中でアリバイ講義をしているのは、英都大学なのでしょうか。となると、赤っぽい髪の女の子はマリアなのかもしれませんね。ちなみに珀友社の片桐は作家アリスシリーズにも登場する編集者です。

尚、この作品の第7章では、空知雅也によるアリバイ講義が行われます。ジョン・ディクスン・カーの「三つの棺」の中で、フェル博士が密室談義をするそうですが、それの有栖川さんバージョン。そしてこのアリバイ講義を元に書かれたのが、鯨統一郎さんの「九つの殺人メルヘン」。9編の短編の中で、この9つのアリバイトリックが実践されています。

空知雅也のアリバイ講義
 1.証人に悪意がある場合
 2.証人が錯覚している場合(時間・場所・人物)
 3.犯行現場に錯誤がある場合
 4.証拠物件が偽造されている場合
 5.犯行推定時間に錯誤がある場合
 6.ルートに盲点がある場合
 7.遠隔殺人
 8.誘導殺人
 9.アリバイがない場合

「双頭の悪魔」東京創元社(2003年9月再読)★★★★★お気に入り
「孤島パズル」事件の影響で傷心の有馬麻里亜は、大学に休学届を出して1人旅へ。そんなマリアを心配した父親に頼まれ、英都大学推理小説研究会の面々は、四国の山奥にある木更村へと向かうことになります。ここには、相場師・木更勝義がその財を投じて芸術家のために作った芸術家だけのコミュニティがあり、現在マリアはここに滞在しているというのです。江神二郎、有栖川有栖、望月周平、織田光次郎の4人は隣接する夏森村に泊まり、橋を渡ってマリアに会いに行くことに。しかし木更村の芸術家たちは、4人をゴシップカメラマン・相原直樹の仲間だと勘違いして門前払い。電話をしても埒が明かないと悟った4人は、マリアを奪回するために夜闇に紛れてこっそりと村に潜入します。アリス、望月、織田の3人は送り返されてしまうものの、江神だけはマリアに再会することに成功。しかしその翌日、大雨のせいで夏森村と木更村を結ぶ橋が流されてしまうのです。

学生アリスシリーズ第3弾。読者への挑戦が、なんと3回も挟まれているという野心作。
木更村と夏森村の出来事が、マリアとアリスの視点から交互に描かれていきます。1つ1つのパートが比較的長めなので、じっくりと腰を据えて読めますし、逆に長すぎないので、だれることなく読めました。木更村での探偵役は、言うまでもなく江神先輩。夏森村ではアリスとモチさんと信長の3人が、喧々諤々と3人で知恵を出し合っています。今までそれほど詳細に描かれていなかったモチさんが今回は活躍していますね。トリックや真犯人が分かっている再読でも面白く読めるのは、やはりこの登場人物たちの造形によるものが大きいのでしょう。
そしてこの作品の評価を左右しているのは、犯人の動機や、江神先輩の犯人に対する態度のようですね。確かに動機は少々弱いのかもしれませんが… しかし私は、こういうタイプの人間ならではの思考回路ではないかと思います。そして読者への挑戦が3度も入っているのは多すぎるという意見もあるようですが、この長い物語を読みながら頭の中で整理する意味でも、3回というのはとても綺麗な数字だったと思います。
マリアと電話で話せなくて拗ねるアリス。決定的な恋愛にまでは至らない、微妙な関係がなんともいいですね。アリスの夢を見たマリアの回想場面も印象的。ここには、学生編・作家編の関係に関する重要な手がかりが書かれています。そして優しい兄のような気遣いを見せる江神先輩の、「元気か、マリア?」と言う場面が暖かくて好きです。さらに、作中で江神先輩の過去に触れる場面があったり、あとがきには登場人物の1人が火村の原型となっていると書かれているなど、有栖川ファンには色々と興味深いエピソードが含まれている作品。初読の時は「孤島パズル」の方が好きだった私ですが、今読み返したらどうでしょうね。やはり面白かったです。

P.332「江神さんと離れ離れになったので困ってると思います。スナフキンにはぐれたムーミンみたいに」

「幻想運河」講談社文庫(2001年1月読了)★★★
ようやく始発が走り始めた、早朝の大阪。黒いシャツを着た男が新聞紙で包んだものを、あちこちの川に投げ込んでいました。流されているうちに新聞紙がめくれ、そこには女性の死体らしき物が現れます。そして初冬のアムステルダム。不法滞在中のシナリオライターの卵・山尾恭司は、バラバラ殺人事件に巻き込まれます。殺されたのは、この街に住んでからできた日本人の友人・水島智樹。丁度恭司が2度目のドラッグでトリップしている時に起きた出来事でした。日本人の交友関係が次々に疑われる中、恭司は自分がトリップした直後に書き上げた小説を元に、真相を探り始めます。

大阪とアムステルダムの結び付け方が面白いですね。普段は全く違う印象の街なのに、この作品を読むとまるで同じ街のよう。この作品の舞台の大部分が外国だとは、到底思えないほどです。おそらく有栖川さんが、アムステルダムを通して大阪を描いているということなのでしょうね。そして大阪に対する愛情の強さが、アムステルダムをここまで身近に感じさせるのでしょう。
そしてなぜ舞台がアムステルダムかと言えば、やはりドラッグのシーンのせいなのでしょうか。このシーンにはかなりの迫力があります。ドラッグが登場する作品は色々とありますが、こういう使い方は初めてだったので、とても新鮮でした。

「山伏地蔵坊の放浪」創元クライム・クラブ(2001年1月読了)★★★
毎週土曜日になると、スナック・えいぷりるでは5人の常連客が、山伏地蔵坊が来るのを心待ちにしています。ある時ふらりとこの店にやってきた地蔵坊が面白い話を聞かせてくれたことから、面白い話を聞く代わりに夕食をおごるというのが、土曜日の習慣になっていたのです。山伏の話だけに大法螺の可能性も高いのですが、 実際にあった話として聞くのが暗黙のルール。土曜日ごとの連作短編集です。
【ローカル線とシンデレラ】…単線のローカル線で刺殺体が発見されます。丁度行き違う電車には、山伏地蔵坊の他に、地元出身のアイドルとそのファン、地元の有力者が乗り込んでいました。殺された男は、そのアイドルの追っかけとして有名な男だったのです。
【仮装パーティの夜】…地蔵坊は偶然仮装パーティに紛れ込むことに。そしてそのパーティーの席上で殺人事件が発生します。
【崖の教祖】…若い女性が2人新興宗教に入り込んでしまいます。女性の婚約者と家族に頼まれて、地蔵坊は女性を説得しに教団へと向かうことに。
【毒の晩餐会】…地蔵坊が偶然立ち寄った家は、隠し子出現で騒然としている最中。当主の老人は構わず地蔵坊を晩餐に招くのですが、その晩餐の席で隠し子が毒殺されることに。
【死ぬ時はひとり】…チンピラに道で因縁をつけられたのがきっかけで、地蔵坊はヤクザの元親分に誘われて一杯付き合うことに。しかし元親分は射殺体で発見されます。
【割れたガラス窓】…地蔵坊が山中で出会ったのは、鼻を頼りにトリュフ探しをしている男。その男の家に招かれ、他の客と共に和やかな時間を過ごす地蔵坊。しかしそこで殺人事件が…。
【天馬博士の昇天】…地蔵坊が雪の中で猪に襲われ時に居合わせたのは、発明家の天馬博士。地蔵坊は、発明家同士の争いに巻き込まれてしまいます。

山伏地蔵坊が、自ら語った物語を謎を解いてしまうという形の連作ミステリ。そのほとんどが、雪密室などのオーソドックスな謎。普段の学生アリスや作家アリスのシリーズとは一味違い、どこか素朴な味わいがあります。後書きを読むと、山伏のモデルはなんと東京創元社の戸川編集長とのこと。なぜ唐突に山伏なのかとずっと不思議に思っていたのですが、ようやく分かったような気がします。

「朱色の研究」角川文庫(2000年9月読了)★★★★★
作家・有栖川有栖が大阪の夕陽丘の自宅で見事な夕日を見ていた頃、火村の研究室を、ゼミの生徒の1人・貴島朱美が訪れていました。朱美の話は、2年前に迷宮入りした殺人事件を火村に再調査して欲しいということ。その話の間、火村の部屋からも同じ夕日が見えていたのですが、朱美には実は、6年前の火事で伯父が焼け死ぬ場面を目撃してから、夕日のような鮮やかなオレンジ色に対する恐怖症がありました。数日後、火村がアリスの部屋に泊まった翌朝、火村宛の不審な電話がかかってきます。それは、火村とアリスにすぐ近くの高級マンション・オランジェ夕陽丘の806号室に行けというもの。そこには貴島朱美の言う2年前の事件の関係者の死体があったのです。

作家アリスと火村のシリーズの8冊目。
物語の中にはいたるところに「夕日」と「朱色」のモチーフ。本の装丁までもが鮮やかな朱色。既に作品に彩りを加えたという次元ではなく、色が作品の主題として扱われています。火村と作家アリスが謎の人物に呼び出されて死体を発見する羽目に陥ったり、同じ人物が2度殺されたりと、なかなか古典的な味わいのあるミステリ。しかしこの犯人の動機に関しては、賛否両論あるのではないでしょうか。この程度のことで人殺しまでしなくても、と思う人も結構いるはず。という私も、なんとなくなら理解できるのですが、やはり「そこまでしなくても」と思ってしまいます。人が何によって追い詰められてしまうのかは、他人には所詮完全には分かり得ないことなのですが。
「なぜ推理小説の中では人が殺されるのか」という問いに対する作家アリスの答えがとても興味深いです。そして悪夢にうなされる貴島朱美を救うために、火村が初めて語る自分の悪夢の話。作家アリスシリーズのファンには満足度の高い作品なのではないでしょうか。

「有栖の乱読」メディアファクトリ−(2003年11月再読)★★★★★
「私の読書体験は平凡」と仰る有栖川有栖さんの、子供の頃から大学、社会人時代にかけての読書遍歴。「月光ゲーム」が本になり、サラリーマンとの二足の草鞋状態から専業作家になるまで。そして有栖川さんの選んだミステリ100作品。「マジックミラー」から「朱色の研究」に至るまでの自作品の解説も収められています。

ミステリを読み始めて間もない頃に出会った本です。その頃はまだ、自分がどんな作品が好きなのかも掴めていませんでしたし、知識不足のあまり、次に何を読んだらいいのかも分からないという手探り状態。有栖川さんの100選には本当にお世話になりました。本の紹介を読んでいると、どれも読んでみたくなってしまい、その中から特に惹かれる作品を1つずつ選んで読んでみるというのは非常に楽しかったです。既に品切れや絶版で、古本屋で探しても見つからない作品もあり、結局100冊のうち半分ほどしか読めていないのですが、ここに紹介されている本は、これからもぼちぼちと読んでいきたいと思っています。読書遍歴は、私とはあまり重ならなかったのですが、やはり男女の違いというのもあるのかもしれませんね。それでも、「本がなくては生きていけない」という根っこの部分で、非常に共感を覚えるエッセイでした。
ちなみに、同志社大学の推理研だった有栖川さん。推理研の先輩には、黒崎緑さんや白峰良介さんがいらっしゃいます。それと、小学校の頃に「私はやっぱり乱歩がいちばん好き」と言い張った女の子が現在の奥様というのが、とても素敵なエピソードですね。

「ジュリエットの悲鳴」角川文庫(2001年8月読了)★★★
【落とし穴】…馬の合わない同期・鬼頭と上着を取り違えて帰ってしまった苗川正晴。そのせいで鬼頭に自分の不正の証拠を握られてしまい、完全犯罪を実行する決心をします。
【裏切る眼】…かつての愛人・千里に別荘に呼び出された京助。千里の夫は京助の従兄弟でもある和敏。しかし3年前に和敏が転落事故で死亡して以来、京助と千里は疎遠になっていました。
【危険な席】…特急しなのには、1日に1本だけ大阪-長野間を運行する列車があります。しかし長野まで出張に出た小笠原朋彦は、その列車が折り返し運行ではないことに気付きます。
【パテオ】…作家・虻田克也は作家たちの集まるパーティに出席し、その二次会で、売れっ子作家達の傑作の秘密を知ることに。彼らは皆、ミステリの夢をそのまま作品としたというのです。
【登竜門が多すぎる】…作家志望の野呂茂夫の元に、目羅琥珀と名乗る男が訪れます。彼は古今東西の大作家たちの作風をインプットした創作用ワープロソフトを売り込みにきたのです。
【タイタンの殺人】…西暦21XX年、木星のタイタンシティのアフロディーテホテルで一人の地球人が殺されます。容疑者は3人のエイリアン。読者への挑戦状も挿入されています。
【夜汽車は走る】…男が夜汽車に乗っていると、子供の頃の記憶や昔の恋愛の思い出が甦ります。男の人生はいつも夜汽車と関係の深いものだったのです。
【ジュリエットの悲鳴】…ロックグループ・トラジェディのCDから微かに聞こえるという女性の悲鳴。インタビュアーである由理枝は、ボーカルのロミオにその悲鳴に隠された真実の話を聞きます。

その他Intermissionとして、「遠い出張」「多々良探偵の失策」「世紀のアリバイ」「幸運の女神」の4作が収録されています。
かなり初期の作品も含んでいるという、ノンシリーズ物の短編集。いつものシリーズ物とは全くテイストが違い、ブラックな作品からSFタッチの作品までバラエティ豊かです。そのせいかあまり全体的な統一感はないのですが、却って気軽に楽しめる一冊かもしれません。私がこの中で一番印象的だったのは、「裏切る眼」。色彩的にとても鮮やかで、最後のシーンは圧巻です。

「有栖川有栖の密室大図鑑」新潮文庫(2003年11月読了)★★★★★お気に入り
1841年に「モルグ街の殺人」が発表されて以来、作家をも読者をも魅了し続けている密室ミステリ。有栖川有栖さんの選んだ古今東西の40の密室ミステリが、磯田和一さんのイラストと共に紹介されていきます。同じ「密室」というモチーフを使いながらも、そのバリエーションは本当に豊富です。

ネタバレは一切なし、とは聞いていても、紹介されているのは未読の作品が多く、余計な先入観が入りそうだと読むのを躊躇していた1冊。しかし実際に読んでみると、とても素敵なミステリガイドブックでした。逆に有栖川さんの文章が、読みたい心を非常に煽ってくれます。
そして磯田さんのイラストも素晴らしいのです。有栖川さんの「絵はうんとチャーミングであって欲しい」という希望通りの、本当にチャーミングとしか言いようのない絵。そして磯田和一さんの「作画POINT」も、とても面白かったです。ご自身もミステリを多く読んでらっしゃるという磯田さんですが、ミステリの好みは有栖川さんとは少し違うようですね。絵それぞれの苦労したポイントや、好きな作品なのに意外と苦労した、逆にとても気持ちよく描けたなどという裏話なども、とても面白く読めました。

「幽霊刑事(デカ)」講談社(2001年11月読了)★★★★★お気に入り
上司の経堂課長に人気のない海岸に呼び出され、「すまん!」という言葉と共に射殺されてしまった刑事の神崎達也。彼はふと気が付くと、なんと幽霊になっていました。自分で見た自分の姿は半透明。しかし自分の母親や妹、同僚であり婚約者同然の森須磨子の目の前に現れても、誰1人として気配すら感じてくれないのです。ただ1人神崎に気が付いたのは、イタコの血を引くという後輩の早川。殺されて1ヶ月が経過しようとしているのに、未だに経堂は全く疑われてもいないどころか、見当違いの捜査活動が続いているのを見て、神崎は苛立ちます。何故自分が経堂に殺されなくてはならなかったのか、経堂の言葉にはどういう意味があったのか。神崎は早川の力を借りて、自ら捜査に乗り出すことに。

講談社の「IN★POCKET」に連載されていた作品です。
幽霊が探偵役になるというのは、まるで西澤保彦さんや山口雅也さんが得意とするようなシチュエーション。今までにもこのような設定の例はあると思うのですが、有栖川さんが独自のルールを敷き、それにのっとって物語を展開しているところが実にいいですね。幽霊になってしまうことのメリットデメリットも作品の中で十分に生かされてます。そして主役はその幽霊なのですが、上司に射殺された男の幽霊とはいえ悲壮感はほとんどなく、それどころか普段実際に生きている人間以上に存在感があります。誰も聞こえないのに、巧みに合いの手(ツッコミ)を入れながら、時には愚痴をこぼしている姿は、コミカルで面白く、また哀愁も漂うもの。この辺りはさすが大阪人の感覚と言うのか、有栖川さんらしさが現れていると思います。ラストシーンは、言ってしまえばまるで予想通りの展開なのですが、これがなかなか感動的。この余韻がなんとも言えず良いですね。元々は推理劇の台本と書かれたものを書き直したということで、映像的にもアピールする楽しい作品です。

「暗い宿」角川文庫(2003年11月読了)★★★★
【暗い宿】…新聞を読んでいた作家アリスは、奈良県吉野郡大塔村の以呂波旅館の記事を見つけて驚きます。そこは1週間前、アリスが急病で無理に泊めてもらった宿だったのです。
【ホテル・ラフレシア】…犯人当てのイベントに参加するために、石垣島のホテル・ラフレシアを訪れたアリスと珀友社の片桐、そして火村。アリスはラフレシアホテルを絶賛する夫婦と出会います。
【異形の客】…猛田温泉に現れた客は、顔を包帯で覆った上にマスクとサングラスと帽子を着用という、まるで透明人間のような姿。もしや指名手配者かと従業員たちは騒然となります。
【201号室の災厄】…東京で火村が泊まったのは、海外のロックミュージシャンも泊まる高級ホテル。バーで酒を飲んだ後、火村は部屋を間違えて、女性の死体を目撃することに。

作家アリスと火村のシリーズの10冊目。
「KADOKAWAミステリ」に掲載されていたという、宿を舞台とした作品が4つ集められています。この中で一番印象に残ったのは、「ホテル・ラフレシア」。有栖川さんご自身があとがきにも書かれていましたが、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」は、確かに「美しくも薄気味が悪い曲」。私はこの曲を聴くたびに、かつては大きく綺麗だった、しかし今や薄汚れてしまって手の施しようのない場末のホテルを思い浮かべてしまうのです。ここに登場する、日光の降り注ぐ明るいホテルのイメージとは好対照。しかしそんなイメージを持っていたので、このラスト結末がむしろ非常にしっくりくるように感じられました。曲のイメージが、むしろ伏線になっていたかのような感覚。そしてこの作品は、ミステリイベントでのアリスの謎解きがなかなか面白かったです。ここでイベントに参加している作家アリスは、ごく簡単に謎を解いてしまっていますが、有栖川さんご自身も、実際にこういうイベントに参加した時は簡単に解いてしまわれるのでしょうか。そして「ホテル・ラフレシア」もそうなのですが、「201号室の災厄」のラストにも驚かされました。伏線はきっちり張られていたものの、これは相当痛いですね。
全体的に、とても綺麗にまとまっているという印象の短編集です。
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