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このページは、天沢退二郎さんの本の感想のページです。

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「光車よ、まわれ!」ピュアフル文庫(2008年9月読了)★★

校舎をたてに揺さぶるような酷い雨の日。授業中に突然教室の後ろのドアがあいた時、川岡一郎は心臓が止まるほど驚きます。そこには真っ黒なぬるぬるのものに身をくるみ、真っ黒な頭巾をかぶった、異様に顔の長い目の大きな化け物のような3人の大男がいたのです。しかしよくよく見てみると、それは同じクラスの宮本と武田と斉藤。椅子の上に立ち上がってしまうほど驚いていたのは一郎だけで、3人が化け物のように見えたのはどうやら一郎だけだったようなのです。しかし気付くとその3人も、学級委員の吉川も、鋭い目付きで一郎のことをにらみつけていました。

こちら側の世界とあちら側の世界の分かれ目は水。子供が深さ2cmの水たまりで溺死していたり、水たまりに吸い込まれてしまったりと、この世のすぐ裏に存在するかもしれない世界を実感させられる物語。 水辺は異界への入り口、というのは以前からある概念ですが、ここまで闇の濃い異界はなかなかないように思います。しかしその闇を打ち払うべく存在する光車… というイメージは美しいですし、地霊文字や図書館の夜間閲覧室といったモチーフもとてもわくわくさせられる存在なのですが、読んでいても物語の世界にあまり入り込めませんでした。「面白い」というよりも、昔懐かしい筒井康隆や眉村卓のSF作品を読んでいるような印象。この物語でリーダーシップを取るのはあくまでも龍子という大人びた少女であり、主人公の一郎も他の子供たちも、龍子の駒。龍子だけが全てを知り、全ての駒を動かします。たとえ途中で仲間を失ったとしても、それは大した損失ではなく、必要以上に嘆くことなくそれまでやっていたことの続きに取り掛かるのです。この辺りの人間味の薄さも原因の1つのような気がしますね。素晴らしいファンタジー作品だという評判はかつてから聞いていましたが、いくら読み進めても、拒まれ続けたような読後感でした。子供の頃に読んでいれば、また印象は違っていたのでしょうか。

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