Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、篠田真由美さんの本の感想のページです。

line
「仮面の島-建築探偵桜井京介の事件簿」講談社ノベルス(2000年4月読了)★★★★
ヴェネチアの小島を買い取るための下見を頼まれ、ヴェネチアを訪れた京介と神代教授。小島の持ち主はイタリアのファッション大手メーカーの社長夫人だったレイコ・レニエール。しかし、未亡人になって島に引きこもっていた彼女は、そんな売却話のことなど何も知らないと言います。話が食い違い困惑する2人。そこに、レイコを訪ねていたはずの女性ライターが失踪したと言う日本人が現れ…。

建築探偵シリーズ第8作目。
本の帯にある「蒼が下す重大な決断とは」という文句が、否が応でも興味をかきたてるのですが、それに関しては少々拍子抜けしてしまいました。確かにシリーズ全体に関わってはくる決断ではあるのですが、殊更に帯に書くほどのことではないような気がします。それなら「ヴェネツィアに暮す未亡人を巡る愛と狂気のうた」、こちらの方がまだマシですね。
それにしても、この未亡人がなんとも言えない存在です。所々に挿入される女性のモノローグもとても効果的ですし、ラストの意外性も十分でした。どちらかといえば、ミステリとしてよりも、いつもながらの登場人物の様々なドラマの興味の方が上に立ってしまうのですが。イタリアの雰囲気がとても良く出ていて、以前ヴェネチアに行った時のことが懐かしく思い出されます。

「龍の黙示録」祥伝社ノンノベル(2001年5月読了)★★★★
柚ノ木透子は生命保険会社を辞めたばかりの26歳。失踪した父親の6000万円の借金を返すために、会社に内緒で夜バーテンの仕事をしていたのがばれてしまい、首になったところ。そんな透子に舞い込んだのは、龍緋比古(りゅうあきひこ)というオカルト系作家の秘書の仕事。透子は作家としての龍のことは全く知らないものの、お給料の良さに惹かれて面接を受けることになります。しかし面接を受ける前に、念のために国会図書館に勤める知人に聞いてみると、龍と同姓同名で、顔も一緒の人物が明治時代にも存在したということが分かります。龍には、吸血鬼かもしれないという噂まであったのです。面接に無事合格し、透子の仕事が始まるのですが、それと共に透子の身辺はにわかに騒がしくなり始めます。

話が思わぬ方向へと流れていくので驚きましたが、ジャンルとしては、やはり吸血鬼物なのでしょうね。私も良く知っているキーワードが登場し、初めはまさかとも思ったのですが… 吸血鬼とこの題材を併せた作品というのは初めてです。よくよく考えてみれば、周囲の環境から考えても、2つが一緒に描かれても全く不思議はないのですが。
本の表紙の挿絵もそうなのですが、菊地秀行さんに近い雰囲気を醸し出している作品です。妖しい美形の青年が、美少年(美少女?)と2人で古い洋館に住んでいるという舞台設定もそう。しかし最初の章こそ、その手の話のような雰囲気だったので警戒したのですが、2章目以降はぐっと現実的な物語になりました。菊地さんの作品のようなエロティシズムもないので、安心して読めます。私はそれほど吸血鬼物は好きではないのですが、これは面白かったです。こういう世界が好きな人には、堪らない1冊かも。

「センティメンタル・ブルー」講談社ノベルス(2001年6月読了)★★★★★
【ブルーハート・ブルースカイ】…蒼11歳。事件の影響はまだ大きく、暗闇恐怖症、閉所恐怖症、対人恐怖症で苦しんでいた頃。ごく限られた人間としかコミュニケーションがとれなかった蒼が、ある時老犬を連れた木谷奈々江という女性と親しくなります。それは蒼にとって初めての異性の友人でした。
【ベルゼブブ】…高校時代。結城翳(ゆうきかげり)と薬師寺香澄が3年生の時、「Beelzebub」という赤いペンキの落書きが校内のいたる所に見られるという事件が起きていました。翳の幼馴染・藤嶺生(ふじみねお)は、Beelzebubの正体が香澄ではないかと疑いを持ちます。
【ダイイングメッセージ《Y》】…高校2年のある夜、香澄は坂本広尾と一緒に聖ルカ学院へ。広尾がネットで知りあった「Emi」に、歓送会でやる一人芝居のリハーサルを見て欲しいと誘われたのです。そして見事に演じられる「鏡の国のアリス」。しかし芝居が終わった後、舞台となった古い洋館の中でEmiは死んでいました。現場には「Yの悲劇」にまつわるものが残され、「Yが殺す」のメッセージが。
【センティメンタル・ブルー】…蒼、大学1年生。結城翳と藤嶺生と共にミュージカルを見た帰り、香澄は鷺沼蓉を見かけて驚きます。その夜、香澄の所に坂本広尾からの久しぶりの連絡が。彼は新宿でEmiを見かけたというのです。死んだ時そのままのアリスの衣裳を着ており、しかし3年の成長をうかがわせるEmi。そのスカートは真っ赤に染まっていました。

建築探偵シリーズの番外編。今回は。常連のメンバーはほとんど登場せず、純粋に蒼だけの物語。11歳から20歳までの蒼の成長振りが見れるのが嬉しい短編集です。
1作目の「ブルーハート・ブルースカイ」は、「原罪の庭」の事件から約1年半後の物語。まだまだ痛々しくて、見ている方がつらくなってしまう蒼なのですが、こういう出会いもあったのですね。そして2〜4作目は、少し時間が飛び、高校時代から大学時代にかけての物語。3作目の「ダイイングメッセージ《Y》」は、アンソロジー「『Y』の悲劇」にて既読。しかし今回のこの短編集で読み返してみると、アンソロジーで単発の作品として読んだ時に比べ、前後の短編とリンクしてより広く深くなっているように感じられます。同じ物語でも、受ける印象がかなり違いますね。それに、いつも京介の後にくっついている印象の強い蒼が、どのような高校生活を送っているのかとても興味深い所です。「ベルゼブブ」では、周囲の生徒たちが蒼をどうのように見ているのかも分かります。それにしても蒼は本当に良い子ですね。やはり痛みを知っている人間ほど、他人にも優しくなれるということでしょうか。

「月蝕の窓-建築探偵桜井京介の事件簿」講談社ノベルス(2001年9月読了)★★★
栃木県那須。ここに建てられている1軒の古い洋館には昔から様々な伝説があり、幽霊を見たことがある人間も多いと地元では評判の館。「建て主と血が繋がっていなくても、住む人間には必ず良からぬことが起きる」という噂通り、現在の持ち主である印南家も、血の繋がらない兄妹・雅長と茉莉を残して、両親や周囲の人間は事故や事件で全て他界していました。そして印南雅長も亡くなります。1人残された茉莉は、建物と土地を県に寄贈する意志をかため、建物の調査に建築家の倉持と京介が携わることに。

建築探偵シリーズ第10作目。
今回は京介が中心に話が進みます。しかし篠田さん御本人があとがきで書かれているように、京介視点だと本当に物語が進まないですね。読む方もなかなか大変で、途中で深春が登場した時には、正直ほっとしてしまいました。
帯に書かれている「京介の封印された過去をも揺さぶる雪、月、殺人。」というのは、一体何だったのでしょう。「京介の封印された過去」の文字が一段大きく、読者にかなり期待させるのですが、しかし結局少々ほのめかされただけ。真相らしき物は何もなかったように思います。
肝心の物語に関しては、興味深い題材ですし、間違いなく意欲作。それにも関わらず、今一歩踏み込みが足らないという印象。悪くはないのですが、インパクトが不足しています。J.ケラーマンのアレックスシリーズと少し似ている部分があるだけに、本職の精神科医であるケラーマンとの実体験の深みの差が出てしまっているような気もします。最終的には、全てが収まるべき所に収まるのですが。

「東日流妖異変-龍の黙示録」祥伝社ノンノベル(2002年4月読了)★★★★
出版社から回されてきた手紙を読んだ龍緋比古は、午後は休みにしてもいいと柚ノ木透子に言い渡し、透子が外出に出ている間にどこかへ出かけてしまいます。残されていたのは、1週間ほど留守にするという簡単な書置きだけ。龍がそんな風にいなくなったのは、この200年でこれが初めてだとライラは大騒ぎ。その時丁度かかってきた、「アトランティード」というオカルト雑誌の編集者からの電話から、青森に住む中年男性から、龍の連絡先を教えてくれとしつこく問い合わせがあったことを知る2人。さらに透子は、龍が最後に読んでいた手紙が青森県在住の若い女性からの物だったことを思い出し、2人は翌日早速青森へと向かうことに。

龍緋比古のシリーズ2作目。
今回は、青森に実際に残っているキリスト伝説がモチーフの1つになっています。それは、十字架で処刑されたのは実はイエス・キリストではなくその弟であり、イエス・キリスト本人は日本まで逃れてきたという伝説。この物語では日本で死んだことになっているキリストが、実は墓の下で眠っているだけで、100年ごとに甦るというのです。高橋克彦氏の「総門谷」を思い出してしまうような展開。イエス・キリストと吸血鬼、舞台は東北、これらのモチーフが篠田さん流に練られてとても面白い話となっています。しかし純粋な聖書関係の部分はよいのですが、それ以外のことに関しては、少し分かりづらかったように思います。特に「荒覇吐の神」が分かりづらくて苦労しました。聖水とライラの関係の説明にも、今ひとつ納得しづらいものがあります。
前作に比べると、透子がやけに勇ましくなっていますね。言葉遣いからして、最早ヒロインとは言いがたい男らしさ。逆に龍の方が女々しく感じられます。

「綺羅の柩-建築探偵桜井京介の事件簿」講談社ノベルス(2002年12月読了)★★★
タイシルクを世界中に広め、「King of Thai Silk」と呼ばれたジェフリー・トーマス。しかし彼は1967年のイースターの休日の午後、マレーシアのカメロン・ハイランドの別荘から忽然と失踪し、各方面で大騒ぎになっていました。それから30余年。その失踪の謎を解いて欲しいという話を京介に持ってきたのは、ジュエリー・アカネの女社長・遊馬朱鷺。初めは朱鷺の話に難色を示す京介ですが、京都の霊能力少女・輪王寺綾乃からの手紙を受け取り、突然態度を軟化させます。京介や深春、蒼、神代教授たちは遊馬朱鷺に連れられて、軽井沢にある弓狩家の別荘へ。弓狩家の当主・弓狩惣一郎とその妻・みつは、ジェフリー・トーマスの失踪前、彼と親しくしていたのです。輪王寺綾乃もまた、この別荘に招かれていました。しかし、綾乃による占いが行われたその晩、惣一郎が死亡。京介は改めてみつ夫人に請われて、一同はマレーシアのカメロン・ハイランドへと向かいます。

建築探偵シリーズの第11作目。
実際に謎の失踪を遂げたジム・トンプソンを題材にした物語。しかし失踪事件に斬新な新解釈を打ち出すのが目的ではなく、メインはあくまでも、弓狩惣一郎とその妻・みつ、そしてジェフリー・トーマス。だからこそ篠田さんは「ジム・トンプソン」という名前を使わなかったのでしょうね。しかしその3人のその後のことは分かっても、そもそもなぜみつは惣一郎と結婚したのか、というこの根本的な点が疑問のまま残ってしまいました。この部分は、この物語の土台となる部分だったのではないのでしょうか。肝心要な部分が無視されて、その上に砂上の楼閣が築かれたような印象を受けてしまいました。
前半は軽井沢、後半はタイとマレーシアが舞台。それぞれの情景を旅行気分で楽しめます。しかしシリーズ全体としての物語の流れは、依然として停滞中。それでも蒼は22歳、京介は31歳なのですね。蒼は年齢よりも子供っぽい気がしますが、相変わらずいい子ですね。今回の作品では、かくしゃくとした刀根老人と神代教授の啖呵がいい味を出していました。

「幻想建築術」祥伝社(2004年6月読了)★★★★★お気に入り
この国の五指に入る富豪であり、財閥の長でもある老翁。生きている間、贅の限りを尽くした彼は、自分の終の棲家となるべき館の建築を進めている時に業病に倒れ、その館の一室の寝台の上で血膿を流しながら死にかけていました。そんな彼の目の前に現れたのは、若いとも壮年とも、男とも女ともつかない存在。彼自身が神だと言われ、それが真実であることを悟った男は、都を築くことを望みます。
【神の墓】…神学生アウレリウスは、少女娼婦・アスゥルを連れて大聖堂の至聖所へ。
【聖心臓】…全身を神に捧げ、大聖堂に寝起きしている聖女の元に現れたのは…。
【炎の髪】…都を統治する女侯。16歳の1人息子は、怪しい場所に出入りしていました。
【偸盗】…11歳で孤児となったジーノは、ある日足をくじいた少女・ジネブラに出会います。
【叫び】…川船漕ぎのペダルは、ジョアナ奥様の依頼で都へと向かいます。
【偶像彫り】…猫の身体に入り込んだ「俺」は、彫刻家のリアンの元に通っていました。
【飢える男】…若い石工を殺した殺し屋は、石工の姿が見えないと聞いて驚きます。
【化金石】…友達のセミューンを訪ねたハガイ。彼はこの半年、殺人鬼を追っていました。
【こともなし】…老舗の腸詰屋を切り盛りするヨッパは、夢の中で鬱屈を晴らしていました。
【荒野より】…11歳となったキトラは、都の異変を感じ取ります。

おそらく明治時代の大物だった老翁のみた、10の幻想的な夢物語のオムニバス。それらの物語は全て同じ「都」での物語であり、それぞれの物語はお互いに少しずつリンクしています。その都の中心にあるのは大聖堂。そしてその信仰の土台となっているのは、キリスト教やイスラム教よりもむしろ、旧約聖書の世界に近い印象。しかしどの宗教も矛盾を抱えているように、この都もまた、自らの内部に矛盾を抱えています。城壁に囲まれた都の情景はそれほど詳細に描かれていないのですが、しかし読んでいると情景がまざまざと見えてくるような気がしますし、しかも神の視点の移り変わりと共に、するりと形を変えてしまうような儚さをも感じます。キャンパスに描かれた情景が、次々と塗り替えられていくのに、読み終えた時に気付いてみれば、それらの情景の破片が散らばってるだけだったという感じ。まさに夢の世界。色々なことを感じるのですが、一読しただけでは上手く言葉にできないのがもどかしいですね。「建築術」という言葉からは、まず想像できないファンタジー。しかし読み終えてみると、まさに「建築術」。こういった幻想的な情景は篠田さんの本領発揮のような気がします。こういう物語は大好きです。

「angels-天使たちの長い夜」講談社ノベルス(2003年6月読了)★★★
8月22日金曜日の夕方、向陵高校の校内で見知らぬ男性の死体が見つかります。死体には学校の購買部で売っているナイフが刺さっていました。その日は夏休み中の登校日。しかし教師たちは昼食の弁当で集団食中毒となり病院へ。校長、教頭、理事数人は海外視察中。生徒も帰宅するよう指示されていたのですが、校内に15人の生徒が残っていたのです。15人の中に犯人がいる可能性が高いと考えた3年生の藤嶺生は、警察に連絡する前に自分たちで犯人を探し出そうと提案。その理由は、一度警察に誰かが犯人として逮捕されてしまったら、犯人の動機も言い分も聞くことができず、冤罪だったとしても何もできないため。そして6時になった時、正門が自動的に閉ざされて、生徒たちは校内に閉じ込められてしまいます。15人は否応なく犯人を探し始めることに。

高校3年生の蒼こと薬師寺香澄が登場する、建築探偵シリーズの番外編。語り手は薬師寺香澄の同級生・結城翳。蒼は主役どころか15人の1人に過ぎないという役割です。探偵役ですらないのです。
15人という人数は、一度に覚えるには少々多く、しかも男女の性別が分かりにくい名前が多いのが難点。各登場人物がそれぞれ個性的に描かれているにも関わらず、最後まで巻頭の登場人物表を参考にすることになってしまいました。それがなければ、もう少し物語の中に入れたのではと思うと残念です。しかし、ちょっとしたお金持ちの子の集まる名門進学校にいそうな登場人物たちの存在はもちろんのこと、事件を解決する過程で曝け出されていく、それぞれの心の奥底に秘められた想いもとてもリアル。その年代独特とも言える揺らぎや痛さもいいですね。結果的に、謎を残したままで物語は終わることになりますが、それもまた良いのではないかと思えるようなラストでした。

「唯一の神の御名-龍の黙示録」祥伝社ノンノベル(2002年4月読了)★★★★★
【朝は紅茶の香り】…ある朝のライル(ライラ)の一人語り。龍の物語が始まります。
【終わりなき夜に生まれつくとも】…キリストを失った龍。砂漠を彷徨っていた龍に近づいたのはリリト。龍はリリトに唆され、キリストの仇をとるためにローマ皇帝ティベリウスの元へ。
【唯一の神の御名】…倭の国に流れ着いた龍。推古天皇の時代、摂政である厩戸皇子と出会った龍は、厩戸皇子にキリストの面影を見ます。しかし次の大王の座を巡る攻防があり、厩戸皇子は病床に。
【夜のやさしい獣】…透子の一人語り。そしてライル(ライラ)の願い。

龍緋比古のシリーズ3作目。今回は現代の話ではなく、龍緋比古の過去の話。外伝的な物語。
イエス・キリストによる血と祝福によって、現在の姿となった龍。現代物だった前2作では、その姿になってから既に2000年も生きており、物静かに生を達観しているイメージがあるのですが、この過去の物語の中に登場する龍はまだまだ若いですね。キリストを失ったやるせなさが強く感じられますし、まだまだ熱いものを持っています。
本書には古代ローマ編のと古代日本編の2つの物語が収められているのですが、特に古代ローマ編の「終わりなき夜に生まれつくとも」が面白かったです。リリトとの出会いには驚きましたが、彼女の存在がとても効果的。そして何といってもハドリアヌスと少年トートのエピソードが良いですね。ハドリアヌスのかっこ良さには惚れ惚れ。そして「唯一の神の御名」の方は、拝火教のエピソードの絡め方もとても意外で面白かったのですが、それ以上に蘇我入鹿と山背大兄皇子の描き方が、既存の作品とは一味違っていていいですね。そして厩戸皇子と例の人物との思わぬ共通点は全くの盲点で、読んだ時には思わず声が出そうになりました。
はからずも、ハドリアヌスと厩戸皇子が同じような答えを出しているのですが、やはり常識的に考えれば、そういう答が出るものなのでしょうね。私が2人の立場だったとしても、同じように考えると思います。しかし透子の場合は、彼ら2人とは少々立場が異なるわけです。さて、どうなることやら。
現代物もいいですが、過去の物語もとてもいいですね。読む前に想像した以上にワクワクしながら読むことができました。そのうち登場するというフランス革命絡みの話もとても楽しみです。

「魔女の死んだ家」講談社ミステリーランド(2003年12月読了)★★★★★お気に入り
昔、高い石の塀で囲まれた大きな家に住んでいた「あたし」。その家にはそれはそれは美しいおかあさまと、ばあややねえやが一緒に暮らしており、美しいおかあさまを目当てに、毎日たくさんの「すうはいしゃ」たちが家を訪れていました。しかし庭のしだれ桜が枝いっぱいに花をつけていたある春の日、おかあさまはピストルで撃たれて死んでしまったのです。そして「あたし」は、繰り返しおかあさまが死んだ情景を夢にみることに。

ミステリーランド第2回配本。同時配本は有栖川有栖氏「虹果て村の秘密」、はやみねかおる氏「ぼくと未来屋の夏」。
とても情景が美しい物語。庭の枝垂れ桜と、美しい「おかあさま」こと小鷹狩都夜子のイメージが重なります。桜というのは、梶井基次郎氏も「桜の樹の下には」の中で、桜の樹の下には死体が埋まっている、と書いていたように、非現実的な美しさと裏腹に、どことなく妖しさや恐れも感じさせたりもするもの。このイメージが「魔女」とも呼ばれる母の姿、そしてこの古い洋館にとてもよく似合っていていいですね。ほんのりと淡い色合いの八重の枝垂れ桜と、「おかあさま」の着ている黒いドレス(もしくは振り袖)という色の組み合わせも、なんとも艶やか。波津彬子さんの美麗なイラストもこの物語の雰囲気にとてもよく似合っていて、幻想的な雰囲気を醸しだしています。舞台の設定は現代ですが、「大正ロマン」という言葉がぴったり。
色々な人間の言葉から、1人の人間の姿が浮かび上がってくる場面など、どことなく有吉佐和子さんの「悪女について」を思い浮かべたりもしたのですが、ここでは主人公とも言える子供の視点を、十分にページを割いて繊細に丁寧に描いているのが、とても良かったと思います。「世界で一番古い職業」という言葉や、「おかあさま」の造形など、子供には相応しくないと考える人もいるかとは思いますが、私は逆に、無理に少年少女を意識しすぎていないところに非常に好感が持てました。私自身、「崇拝者」という言葉を初めて知ったのは、「赤毛のアン」のシリーズでしたし、相応しい作品で出会えば、決して早過ぎるということはないかと。
最後に姿を現す彼の存在が、ファンにはまたとても嬉しいところです。
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.