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このページは、西澤保彦さんの本の感想のページです。

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「解体諸因」講談社文庫(2000年3月読了)★★★
【解体迅速】…ふと匠千暁の元を訪ねたヤスヒコ。千暁が夢中になっていたのは、古新聞に載っていた連続バラバラ事件。全裸の女性が両手両足を手錠されてバラバラにされるというこの事件の解決に納得のいかない千暁は、別の真相があるのではないかとヤスヒコと共に推理をすることに。
【解体信条】…高校教師・辺見裕輔は、麻紀子と亜紀子という双子の生徒にバラバラ殺人事件の話を聞かされます。被害者の主婦はなんと合計34個のパーツに分けられていました。何故犯人は手足の指まで分断する必要があったのでしょうか。
【解体昇降】…マンションの8Fから1Fまでエレベーターに乗っている間に、全裸のバラバラ死体になった女性。しかも8F、1Fには目撃者が。警視庁きっての優秀なキャリア、中腰警部が推理します。
【解体譲渡】…辺見裕輔がお見合いした相手は、偶然にも毎週のように本屋で出会う美女でした。その美女・藤岡佳子が本屋で目撃した、年配の女性がエロ本を百冊も買うという奇妙な光景。そして隣の席ではマンションのごみ収集所で見つかったバラバラ死体の話が。
【解体守護】…匠千暁の大学時代。同じく大学生の高瀬千穂は、千暁に自分が家庭教師のアルバイト先の出来事について相談します。幼稚園児のノリくんが大切にしているクマのぬいぐるみの左腕が切断され、翌日そこに長女の由江が宝物にしていたハンカチが血まみれで巻かれていたのです。
【解体出途】…沢田直子は甥の匠千暁に、娘の香里の結婚をなんとしてでも阻止するように依頼します。その理由はなんと、相手の若木徹と直子自身が関係を続けているからというもの。しかしこれがバラバラ殺人へと発展し、千暁は事件に巻き込まれてしまいます。
【解体肖像】…麻紀子と亜紀子という双子の姉妹が匠千暁に話した不思議な事件。それはあるポスターのモデルの顔部分だけが丸く切り抜かれるというものでした。街中のポスターが被害にあい、そのポスターはすでに回収されています。そしてその裏にあった出来事とは。
【解体照応】…推理劇「スライド殺人事件」。7人の女性が殺されそれぞれ頭部が切断されています。最初の被害者は体のみが発見され、その頭部は第二の被害者の体と共に、第二の被害者の頭部は第三の被害者の体と共に… とスライド式に発見されていきます。
【解体順路】…匠千暁は、二つの死体の首が切断されて互いにすげ替えられるという事件に意見を求められます。そしていままでの事件がここに収束することに。

「バラバラ死体」がキーワードの連作短篇です。匠千暁を中心にいろいろな人物が探偵として活躍するのですが、それぞれの短編はお互いにリンクし、最終的に1つに収束されていきます。
「解体」をモチーフに1冊の中にアイディアがぎっしりと詰め込んであり、読み応えは十分です。デビュー作だけあり、勢いを感じますね。それに複線もすごいです。すべてが無駄なく配置されている印象。しかし私の読み方が散漫だったせいか、最終章を読む頃にはすっかり混乱してしまい、もう1度最初から読み返すはめに。登場人物が多く、全体の作りが凝っているというのが少し裏目に出ている気もしますね。…今から読まれる方には注意深く読むことをオススメします。しかしそれぞれのキャラクターがなんとも良い感じです。彼らのその後の話が読みたくなりました。

「完全無欠の名探偵」講談社文庫(2000年2月読了)★★★★★
山吹みはるは、ある特殊な能力の持ち主。みはるを目の前にすると、誰もが自分のことを色々と話したいという衝動にかられてしまうのです。しかも鮮明に甦ってきた記憶に、彼らは自ら隠された真相に気が付いてしまう…。しかしみはる本人には、真相を導き出したきっかけが自分だという自覚は全くありません。自分では一切推理をしない名探偵。大富豪・白鹿毛源衛門は、孫のりんが高知に留まりたい理由を探るために、この能力を見込んで彼を高知に送り込みます。

みはるにとっては単なるおしゃべりにすぎないのに、話している本人が勝手に記憶をよみがえらせ、今まで自分が全く気づいていなかった真相に、自分でたどりついてしまうというのが面白いですね。しかもその真相を、「探偵」であるみはるは、本人に聞くまで知ることはないのです。多少強引な感じも受けますが、次々と真相に辿りついていく様子は読んでいて本当に面白いですし、そのいろいろな出来事が収束されていくさまはなかなか見事。この設定が東京だったらここまで説得力を持たないのではないでしょうか。高知という土地柄がとても良く生かされている作品だと思います。

「七回死んだ男」講談社文庫(2000年2月読了)★★★★★お気に入り
自分の意思とは関係なく、ある日突然時間の反復落とし穴にはまってしまうという特異体質を持つ久太郎。一回その落とし穴にはまると、なんと同じ一日を9回繰り返すことになります。周囲の人間がオリジナルの1日目と全く同じ行動をしようとする中で、久太郎だけが自分の意思でその日の行方を変えることができるのです。しかし1回目と全く同じことが起きるはずの2回目の同じ日、なんと祖父が死んでしまいます。久太郎は祖父を救うべく、9回目の決定版に向けて毎日いろいろな手をつくすのですが…。

西澤作品を読むのはこれが初めてだったのですが、まず設定が面白いので驚いてしまいました。こういう物語を良く考えつきますね。犯人は毎回変わるので、「誰が犯人か」ではなく、「どうしたら死なせずにすむか」という、前代未聞のミステリです。同じ日が9回続くのに全く飽きさせませんし、最後に用意されていたうオチもすごいです。すっかりきれいにやられてしまいました。
でもただ一つ納得できないのは、久太郎の成績がとても悪いということ。同世代の人間よりかなり長い時間を生きていて、性格も年の割に老成されているのに、なぜ勉強ができないのでしょうね。発言や行動からしても、それほど知識がないとは思えないのですが…。9回も同じ日を繰り返したら、その日に学校で習うことは、イヤでも頭に入るのでは。(笑)

「殺意の集う夜」講談社文庫(2000年3月読了)★★
「嵐の山荘」に集まった人々。六人部万理は不可抗力からそこに集まった人間を次々と殺してしまいます。しかし同時に万理の親友・四月園子も何者かに殺されていました。園子を殺したのは、万理が殺した6人の中にいるはず。万理はその犯人に自分の殺人の罪を着せようと推理し始めます。

山荘での出来事と別の場所での出来事が交錯して一つの大きな流れにまとまるのですが、どうも話がばたばたして分かりづらいです。伏線が多すぎてなんだかすっかり混乱してしまいました。途中の流れも最後のオチも強引すぎるような…。

「人格転移の殺人」講談社文庫(2000年2月読了)★★★★
宇宙人が残したと言われている、複数の人間の人格を入れ替えてしまう装置。20年も前に研究は断念されているのですが、政府の要請によってその装置は取り壊されずに、現在は場違いにもファーストフード店の中に置かれています。そして起こった突然の大地震。店内にいた6名の人間は、その装置をシェルターと勘違いして、中に逃げ込んでしまい…。

またまた面白い設定ですね。人格転移装置などと言うと、とても胡散臭い印象なのですが、それでもしくみが十分説明してあるので、話にはとても入りやすいです。しかし実際に6人の人格が入れ替わってしまってから後が、相当ややこしいんですよね。殺人を犯したのがどの「体」かということは分かっていても、どの「人格」かということが分からないのですから。読者が6人の特徴をつかめた頃に上手くドタバタを入れているので、なんとかついては行けるのですが… これは本人たちにとっては、本当に冗談にならないほど大変でしょう。(笑)
最後はちょっとびっくりの、なんともほほえましいエンディングでした。

文庫版の森博嗣氏の解説が面白いです。

「彼女が死んだ夜」角川文庫(2000年5月読了)★★★★★
大学生だというのに門限が6時という超箱入り娘、「ハコちゃん」こと浜口美緒。厳格な両親の元、息のつまるような生活をしている彼女ですが、やっとの思いで夏休みにアメリカのレイチェルの家にホームステイに行く許可を勝ち取ります。しかし渡米前夜、親戚の不幸で両親が留守の隙に開かれた壮行会から帰ってみると、家の中には見知らぬ女性の死体が。このままでは旅行も中止になりかねないと考えた彼女は、男性陣を呼び出し、死体を捨てて来てくれなかったら自分も死ぬと騒ぎだします。

西澤さんのデビュー作「解体諸因」にも登場した、タックこと匠千暁、タカチこと高瀬千穂、ボアン先輩こと辺見裕輔のシリーズ第2弾です。時系列的には、「解体諸因」よりも前の出来事。
いくら旅行が中止になるかもしれないからといって、死体を外に捨ててしまおうとする、ハコちゃんのこの発想はすごいです。気持ちは良く分かるのですが、普通それはしないでしょう。しかしそれでもあえてやってしまおうとする彼女の追い詰められた思いが、とてもよく伝わってきます。娘にここまでやらせてしまう厳格な親というのは、一体何なのでしょうね。…と思っていたら、その厳格な親の厳格たる所以がまたすごいのです。本当かどうかは明記されていないのですが、もしタックの想像通りだとすると、とんでもないことですね。普通では考えられません。やはり親も純粋に厳格というわけではないからこそ、娘もこんな風に育ってしまうのですね。ごく普通に育っている方が、多少間違いがあったとしても、余程常識のある人間に育つかと思います。
大きな謎と小さな謎。思わぬ出来事が伏線となっていて、巧妙に謎が隠されています。最後の最後の展開と、タックが気付いてしまう真相が哀しいです。
このシリーズは、とにかく登場人物が皆とても魅力的で楽しいですね。特に、「解体諸因」ではそれほど強烈な印象のなかったタカチがとてもカッコいいのです。早く他の作品も読みたいものです。

「麦酒の家の冒険」講談社文庫(2000年7月読了)★★★★
ボアン先輩、タック、タカチ、ウサコの4人は、夏季休暇の最後の4日間をR高原で過ごすことに。しかしその帰り道、ボアン先輩の車はガス欠で立ち往生してしまいます。当てもなく歩き出した4人の前に現れたのは、1軒の山荘でした。その山荘は全くの無人で家具らしきものは何もなく、あったのはただ1つのベッドとクローゼットの中に隠されていた冷蔵庫だけ。そしてその冷蔵庫の中には、なんと96本ものエビスビールのロング缶と13個の凍ったジョッキが。4人はそのビールを飲みながら、この山荘の謎を推理し始めます。

タックシリーズ第3弾。
今回は、4人が実際に現地に行っているにせよ、形式としては安楽椅子探偵物です。ハリィ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」と同じような趣向で、いろいろな推論を重ねていくうちに、実際の事件の真相に辿りついてしまうというもの。いつもながらの魅力的なキャラクターに加え、西澤さんのビール好きが想像できる、なんともアットホームな作品となっています。しかし仮説ばかりが延々と続くので、どうしても残っているページ数を見て、これもきっと違うんだろうなと思いながら読んでしまうんですよね。短編にした方が、もっとぴりっと引き締まった作品になったかも。それにこのメンバーには、安楽椅子探偵よりも、やはり実際に楽しく動き回って欲しいものです。

「死者は黄泉が得る」講談社ノベルス(2000年2月読了)★★★★
「死後」。行政の区画整理によって世間から巧妙に隠された位置にある館に、6人の女性たちが住んでいます。この女性たちは実は普通の人間ではなく「生きる屍」、いわゆるゾンビ。一旦死んで生まれ変わった者ばかりでした。彼らは館に他所者が迷い込んでくるたびに、殺して仲間に引き入れていたのです。その手順は、まず死体を「SUBRE」に入れて記憶を失った状態に蘇生、そしてメンバー全員で「MESS」に入ることによって、全員に新しい記憶体系を仕込むというもの。MESSに入ることにより共通意識(コモンセンス)が埋め込まれ、生前に自分が何者であったかなどの記憶は一切失われます。
「生前」。ヒドゥンバレーでは、ハイスクールの男子生徒・フレッド・チェイスが殺され、さらに彼の姉のクリスティンの周囲の人間が次々に襲われます。クリスティンは夫であるジェイク・ジョーダンのかつてのチームメイトが犯人であるのではないかと疑うのですが…。

またしても設定の面白い物語です。このゾンビを作り出す装置の存在と、その装置の定義がとても面白いです。一見突飛な小道具を使いながらも、しかしなかなかに説得力のある世界を作り上げていますね。山口雅也さんの「生きる屍の死」に対するオマージュという言葉が後書きにある通り、死者と生者が見事に共存している作品です。しかし「生きる屍の死」と同じ出発点ながらも、全く違った話に仕上がっているところが、またとても面白いです。しかしこの結末は何事なんでしょう。○○は××で△△は□□だった…?!
最後の最後で一気に混乱してしまいました。しかしよくよく見返してみれば、いたるところに伏線があったのですね。すっかりやられてしまいました。

「瞬間移動死体」講談社ノベルス(2001年5月読了)★★★
中島和義31歳、家の中の家事全般をこなしている主夫。妻は売れっ子作家の中島景子。精神的サディズム(景子)とマゾヒズム(和義)の融合によって、ある意味とても愛し合っている夫婦です。しかし微妙なバランスの上に成り立っている愛情のせいか、景子の心ない一言によって和義がとうとう切れてしまうことに。そして彼は景子を殺そうと決意。そのために、自分の能力であるテレポーテーションを使おうとするのですが…。

西澤さんの今回のネタはテレポーテーションでした。しかしそれにしてもすごい設定ですね。テレポーテーションなどというワザを持っていたら、普通ならその人物は無敵になってしまうのではないかと思うのですが、これにとんでもない制約をつけて、話をかなり複雑にしています。まずテレポーテーションするためには、下戸の主人公が泥酔する必要がある。テレポーテーションできるのは自分の身一つで、ついた先では真っ裸になってしまう。しかも自分と入れ替わりに、行った先の部屋にある何かが移動してしまう… などなど。この制約のせいで、却って真相が推理しやすくなっているのですが、しかし笑って楽しめる一冊です。あまり色々考えずに、登場人物や物語自体を楽しんでしまうをオススメします。

「複製症候群」講談社ノベルス(2000年2月読了)★★★★
突然空から降ってきた虹色の壁。ロクこと下石貴樹は、友人の包国サトルや、飯田篤志、草光陽子、梅暮里志保らと共に担任の古茂田先生の家に行く途中、その壁の中に閉じ込められてしまいます。なんとか無事脱出し、古茂田先生の家に辿り着くのですが、今度はテレビの特番を見て驚きます。テレビによると、「ストロー」と呼ばれるようになったその壁は世界中に出現しており、しかし不用意にその壁に触れると、なんと自動的にその生物のクローンができてしまうというのです。不注意や故意から複数のクローン人間と共存することになった彼らは、「いかなる理由があろうとも、クローンを作り出した人間は厳重な処罰をうける。そしてオリジナル一人を残して、クローンはすべて処分される。」という国会での採決を聞き、徐々に自我が崩壊し始め…。そんな時、隣家の老婦人が刺殺されているのが発見されます。

相変わらずの突飛な設定とテンポの良さを持つ作品。どんどんクローン人間が作られていきます。オリジナルとクローンは、外見も中身もまるで同じ、しかもクローンには自分がクローンであるという自覚がないのです。お互いに自分こそが本物で、相手がクローンだと思い込んでいるというこの状況は、実はかなり怖いですね。オリジナル以外は全て処分されるという国会の決定を知った陽子やサトルの反応も、心情的にはよく分かります。陽子の行動には驚きましたが、しかしやはりパニックに陥った時はこうなってしまうのかもしれませんね。
ただ、この「ストロー」という壁がなぜ出現したのかは結局分からず仕舞い。別に構わないと言えば構わないのですが、やはり推論だけでなく、きちんとした理由付けをして欲しかったです。
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