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このページは、エリナー・ファージョンの本の感想のページです。

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「町かどのジム」童話館出版(2009年5月)★★★★★お気に入り

町かどのポストのそばにはミカン箱が1つ置いてあり、そこにはジムが座っていました。今8歳のデリーが物心ついてからというもの、もしかしたらそれよりもずっと前から、朝も晩も夏も冬もジムはいつだってそこにいました。髪は真っ白で顔は茶色くつやつやとしていて、目は青いガラス玉のようにきらきらしたジム。ジムはデリーの住む赤レンガでできた背の高い家の並ぶ通りの番をしているのだと、デリーは思っていました。ジムはこの通りにはなくてはならない人だったのです。(「JIM AT THE CORNER」松岡享子訳)

ファージョンは枠物語が多いのですが、これもその1つ。今回はレンガの家が並ぶ通りにいるジムとデリーのお話が枠となり、ジムがデリーに語って聞かせるお話が中身となっています。ジムがどういった人物なのかは最初は全然分からないのですが、地域の人々から愛される存在だというのだけは確か。そんなジムのことも、お話が進むにつれて徐々に分かっていきます。ケント生まれで、キャビンボーイになりたくて家を飛び出し、ゆり木馬号のポッツ船長に出会い、世界中を冒険して回り... ジムがデリーに語る最初のお話こそ、小さい頃にマメ畑を荒らしにくる鳥の見張りをしていた時のことなのですが(ベーコンのサンドイッチのお話で、これもまたとても可愛い話のです)、船乗りだったというだけあり、そのお話の舞台は世界中に広がっています。時には海の底へ、時には霧の向こうへ、そして時には氷の抜け道の奥へ。イギリスの街角にいながらにして、色んな冒険を楽しませてくれます。やはり今回は語り手も聞き手も男の子ですものね。
ジムが語ったお話は「男の子のパイ」「みどり色の子ネコ」「ありあまり島」「ペンギンのフリップ」「九ばんめの波」「月をみはる星」「大海ヘビ」「チンマパンジーとポリマロイ」と、題名を見ているだけでも一体どういうお話なのだろうと興味が涌いてくるようなものばかりなのですが、その中で私が一番好きなのは「九ばんめの波」。これはゆり木馬号で航海中のジムが、海の波に酔ってしまったタラ出会う物語。「おまえ、それでもさかなか! こいつはおどろきだ!」と言うジムと一緒になって、海の動物が波に酔うなんて!と思いつつも、タラの「おどろくにはあたらないさ、ジム」「さっきの波は、とてつもなく大きかったじゃないか」という言葉に、妙に納得してみたり。そして船をひっくり返そうとする九番目の大波が来た時、タラはジムに助けてもらったお返しをすることになるのですが、これがまた素晴らしいのです。普通の昔話では、まず読めないような痛快なもの。
海の中の王国や霧の向こうの王国はとても美しいですし、氷の洞窟も幻想的。タラや大海ヘビ、ナマズの女王、ペンギンのフリップといった面々もそれぞれに魅力的。それに何より、枠部分の最後の幕引きもとても粋で気持ち良いのです。とても素敵な読後感です。


「年とったばあやのお話かご-ファージョン作品集1」岩波書店(2009年5月再読)★★★★★お気に入り

子供たちの寝部屋は、この家の大きな屋根裏部屋。古風な暖炉には火が燃えており、7歳のドリス、5歳の双子のロナルドとローランド、そしてまだ3つ半のメアリ・マチルダはそれぞれに自分のベッドを持っていて、それでもまだみんなで遊んだり隠れたりする場所がありました。4人の世話をしてくれているのはとてもとても年をとっているばあや。ドリスたちのお母さんもお祖母さんも、このばあやに育てられたのです。4人のお楽しみは1日のおわりに椅子にかけたり、さっぱりとしたシーツに包まったり、晩御飯のビスケットをかじったり、ミルクを飲んだりしながら聞くばあやのお話。ばあやはつぎものが入ったかごから子供たちの靴下を取り出すと、その穴の大きさに合ったお話をしてくれるのです。(「THE OLD NURSE'S STOCKING BASCKET」石井桃子訳)

100年も200年もそれ以上も生きているような話ぶりのばあや。グリム兄弟もばあやがお守りをして、その時に聞いた話を自分たちの童話集に入れたとか、ペルーのインカ王やエジプトのスフィンクスもばあやお守りをしたというのですから。
ローレライに金の足を授けられた「金の足のベルタ」のお話、かんしゃく持ちのインドの王子のお話「青いハスの花」、スペインの「じまんやのインファンタ」のお話、小さい公爵さまとくずやの息子がそっくりだった「人間てほんとにばかなものですね」というお話、この世で一番綺麗だったペルシャのお姫さま「イラザーデひめのベール」、一番小さい赤ん坊だった「ラップランドの子、リップ」のお話、スイスの山の森で育ったリーゼルの「棟の木かざり」のお話、ノールウェイの船長とネプチューン王が賭けをした「そのあなはつげない」、手さげの中に入ってしまうほど小さくて可愛らしい「中国の王女さま」のお話、イタリアの伯爵の庭師の息子・リオネーロの「金のワシ」のお話、妹のタリアを取り合ったギリシャの「ふたりの兄」のお話、嵐のあとに現れた村と「海の赤んぼう」のお話… ばあやのお話は、子供たちの靴下の穴の大きさによって変わります。大きな穴には大きなお話、小さな穴には小さなお話。でも小さい穴でも細かく丁寧にかがらなくてはいけない時は大きなお話になりますし、穴が大きすぎる時はいいかげんにくっつけておかなければいけなくて、それほど大きなお話にならない時もあります。世界中の様々な子供たちを見てきたというばあやのお話は本当に楽しくて、お話だけで世界一周ができてしまいそうです。


「イタリアののぞきめがね-ファージョン作品集2」岩波書店(2009年5月再読)★★★★

ホットケーキのように平らでリンゴの木が一面に植わっているウィズベックや、テムズ川の岸にあるパングボーンという町に住んだこともあるブリジェットでしたが、主に住んでいたのはイタリアのフローレンスの丘の上の大きな屋敷。「わたし」はブリジェットたちのイタリアの家に遊びに行くことに。丘は周りをぐるりと、背の低い灰色のオリーブの木と背の高い煙突のようにまっすぐなイトスギの木に囲まれていました。(「ITALIAN PEEPSHOW」石井桃子訳)

白い御殿の王子さまの「オレンジとレモン」の木のお話、シエナで一番美しい女の子「ロザウラの誕生日」。小麦が不作でイタリアに小麦がなくなってしまった年の「トリポリの王さまがパスタをもってくる」、ナニーナとチェッキーノの「こわがりの薬草」、赤いビロードの舞踏ぐつとワシとジャングルとせんすの「ネラの舞踏ぐつ」、そして最後の「リンダリーさんとリンダリーおくさんのおはなし」。大人も子供も仮装して通りをかけまわるイタリアでの謝肉祭のお祭りの日、パスタがなくなってしまった日のことなどの実際のお話があり、それにまつわる物語があり、と入れ子構造になっています。まるで「年とったばあやのお話かご」のばあやがブリジェットの家を訪ねたような雰囲気ですが、ファージョン自身がフローレンスに友人の家族を訪ねて行った時の旅行が軸となっているようです。
お題を出してもらっての「ネラの舞踏ぐつ」のお話の時のように、どの物語もいったんお話が始まると「するすると、じぶんで動きはじめ」るのでしょうね。「年とったばあやのお話かご」に比べると、挿入されている物語の数が少ないこともあり、少し物足りないのですが、それでもやはりファージョンの暖かい語りが楽しい本です。


「ムギと王さま-ファージョン作品集3」岩波書店(2009年5月再読)★★★★★お気に入り

「リンゴ畑のマーティン・ピピン」を書くことによって作家としての地位を確立したエリナー・ファージョン。これは70歳をすぎたファージョンがそれまでに書いた子供向けのお話から27編を自選して編んだ短編集。(「THE LITTLE BOOKROOM」石井桃子訳)

今回、実際に読んだのは、岩波少年文庫版の「ムギと王さま-本の小部屋1」と「天国を出ていく-本の小部屋2」。これは岩波書店のファージョン作品集の第3巻「ムギと王さま」を2冊に分冊したものです。
物心がついた頃には私の本棚に入っていた本なので、何度目なのか分からないぐらいの再読です。先日ある方に、私のブログを見るたびに「ムギと王さま」の本の小部屋を思い出す、という嬉しいお言葉を頂いてしまい、久々に読みたくて仕方がなくなってしまいました。しかし私が読んで育った本は1冊に20編が収められたもの。その後全27編の完訳版が出ていたのですね。今回読んだのは、その完訳版。例えば「天国を出て行く」の最後に収められてる「パニュキス」など、なぜそれまで訳されなかったのか不思議になるような作品もあり(石井桃子さんによる訳者あとがきに、その辺りのことも書かれています)、とても楽しかったです。
しかし今も昔も特別大好きな話というのは変わらないものですね。「西ノ森」「小さな仕立て屋さん」「天国を出ていく」「レモン色の子犬」「ヤング・ケート」… それらは今も昔も特別に大好きな物語。そして今回読むきっかけとなった、本の小部屋の話。これは「ムギの王さま」のまえがきに書かれている、ファージョンが子供の頃に住んでいた家にあった部屋のことです。この家では、どの部屋にも本が溢れ出しそうなほど置かれていたらしいのですが、その中に「本の小部屋」があったのですね。娘時代のファージョンは、他の部屋の本棚に置いてもらえずに流れ込んできた本がごちゃごちゃと置かれ積まれている「本の小部屋」で、何時間も何時間も過ごし、この体験が後のファージョンを作り上げていったようです。...という私自身が育った家も、かなり似たような状態でした。どの部屋にも本が溢れ出しそうなほど置かれ、廊下にも本棚が当たり前のように並んでおり... だからファージョンの「本なしで生活するよりも、着るものなしでいるほうが、自然にさえ思われました。そして、また本を読まないでいることは、たべないでいるのとおなじぐらい不自然に。(P.4)」という言葉を、子供の頃から実感として感じていたように思います。 しかし、うちにも余った雑多な本が流れ込んでいく部屋はありましたが、本専用の小部屋というものはなく。それだけに、このファージョンの本の小部屋の描写には憧れていましたし、今でも懐かしい情景と共に蘇ってくるような気がします。
今回久しぶりの再読ですが、ファージョンはやはり素敵です。決して派手ではないですし、むしろ地味と言われてしまうかもしれません。それでも私にとっては愛しくなってしまうような、宝石のような作品群。エドワード・アーディゾーニの挿絵がまたぴったりで素敵ですね。カーネギー賞受賞作品なのだそうです。


「リンゴ畑のマーティン・ピピン-ファージョン作品集4」岩波書店(2009年6月再読)★★★★★お気に入り

4月のある朝、アドバセン近くの牧草地を歩いていたマーティン・ピピンは、道端の畑でカラス麦の種をまいている若い男を見かけます。一握りの種をまくごとに、種と同じほどの涙の粒をこぼし、時折種まきを全くやめると、激しくむせび泣く男の名前は、ロビン・ルー。彼は美しいジリアンに恋焦がれていました。しかしジリアンは父親の井戸屋形に閉じ込められ、その屋形には6つの錠がついており、男嫌いで嫁にいかぬと誓った6人の娘たちがその鍵を持ってジリアンを見張っているというのです。マーティン・ピピンはロビン・ルーの望み通り、ロビンの持つプリムラの花をジリアンに届け、代わりにジリアンが髪にさしている花を持ってくるという約束をします。(「MARTIN PIPPIN IN THE APPLE ORCHARD」石井桃子訳)

サセックス州のアドバセンに伝わる「若葉おとめ」の遊戯の元となる物語を語ったという形式の作品。囚われの姫を助けにきた旅の歌い手とおとめたちの物語です。三部構成で、古風な歌の歌詞もとても優雅ですし、第一部では若葉のもえぎ色の服装だった乙女は、第二部では白と紅の服装になり、第三部では、黄色い服になるという、視覚的にもとても美しい遊戯。しかしこの「若葉おとめ」という遊戯、歌とその楽譜も実際に本に掲載されているのですが、これはファージョンの創作。
そしてその元になるお話とは、旅の歌い手であるマーティン・ピピンと6人の乳搾りの娘たち、そしてマーティン・ピピンの語る6つのお話の物語。それぞれの娘たちに「王さまの納屋」「若ジェラード」「夢の水車場」「オープン・ウィンキンズ」「誇り高きロザリンドと雄ジカ王」「とらわれの王女」といった物語が語られていきます。それは美しい農家の娘・ジリアンの正気を取り戻すため。恋に思いわずらう娘には今まで誰も聞いたことのない恋の物語を話して聞かせるのが一番だとジプシー女に言われたため、娘たちがマーティン・ピピンをリンゴ畑に招き入れたからなのです。
子供向けのお話が中心のファージョンにしてはとても大人っぽい恋愛の物語ばかりで、子供の頃もどきどきしながら読んでいたのですが、大人になって再読しても、やはりどきどきしますね。これはやはり子供向けの作品ではないのでは… と思いながら読んでいたら、やはり違いました。訳者あとがきによると、30歳の男性のために書かれた物語なのだそうです。女性向けではなく男性向けだったというのが意外ですが、確かにこれは30歳の男性でも十分楽しめる物語だと思います。ファージョンは男性のことをよく知っていたのでしょうか。読んでいると、まるでブロンテ姉妹が男性のことをほとんど知らずにヒースクリフやロチェスターというキャラクターを創り出したというエピソードを思い出してしまいます。
マーティン・ピピンの語る6編の物語の中でお気に入りは、今も昔も「王さまの納屋」と「若ジェラード」。そして「オープン・ウィンキンズ」。この3編は今改めて読んでもとても素敵でした。そして「夢の水車場」は特に大人っぽく、子供の頃は今ひとつ理解しきれていなかった作品。夢のようなこの物語の良さを分かるには、私は幼すぎたようです。そして「誇り高きロザリンド」と雄ジカ王」は、神話のような雰囲気を持つ作品。子供の頃は鍛冶屋のウェイランドの伝説のことを知らなかったので、今読み返すと感慨深いです。それぞれの物語は乳搾りの娘の1人1人に向けたものなのですが、その中にそれぞれの乳搾りの娘の「若衆」の外見が織り込まれているのも楽しいところ。なぜそれぞれの青年たちの外見がマーティン・ピピンに分かったのでしょうね。
そしてお話とお話の間の「間奏曲」もいいのです。他の娘たちが眠ってしまった後で、その物語が語られた娘とマーティンの2人の会話になるのですが、そこで娘たちと男たちの諍いの原因について語られるのです。例えば最初のジョーンの場合。
 ジョーン「だって、マーティンどの、男たちは、一たす一は、二だっていうんですよ。」
 マーティン「そんなことを?なんとまあ、男とは、そのようなあほうどもなのか! この世でいちばん小さい女のところへ聞きにいったとしてもーーこのことは、あんたもわたしもよく知っているがーー一たす一は、一で、ときには、三にも、四にも、六にさえなるが、二には絶対ならぬとわかっているのに。へえ、こまった男どもが!」
 ジョーン「よかった、あんたも、わたしのほうがまちがってないって思ってくれるでしょう。だけど、男たちって、がんこだから!」
こういった会話の繰り返しも微笑ましいです。もちろん最後には諍いの決着もつくことになります。

登場人物メモ:
ジョーン…小さい、時によって色々変わる、チャールズ(背が高く肩幅が広く、目は灰色がかった青、血色はよく、優しい頼もしげな顔立ち、髪の毛は濃い茶色で、首の付け根の所に白っぽい家が一房)
ジョイス…笑い上戸、詰まらないことに大騒ぎする、マイケル(髪は黒く、肌は小麦色、目は青く、まつげは金色)
ジェニファー…思わせぶりはしない、トム(灰色がかった緑の目、髪は黒っぽい赤、鼻はそばかすだらけでしし鼻)
ジェシカ…知りたがり屋、企みがない、活気がある、オリバー(左の頬にほくろ)
ジェイン…生真面目、ずるいところがない、ありのままを認める、ジョン(赤みのさした白い肌、筋骨逞しく堂々とした体、目は青い氷のように光り、髪の毛と髭は赤みを帯びた金、太い腕と胸には細かい毛が生えて銅色の肌に琥珀色の艶)
ジョスリン…憎たらしい、らしくないふりをする、ヘンリー(声変わりしかけたところの少年)


「ヒナギク野のマーティン・ピピン-ファージョン作品集5」岩波書店(2009年6月再読)★★★★★

空が緑に変わりかけ、月や星が出始めた頃。ヒナギク野にいたのは、ヒナギクでくさりを編んでいる6人の女の子と1人の赤ん坊。もうベッドに入っていなければいけない時間なのです。そこにやって来たのはマーティン・ピピン。自分の子供をベッドに連れに行くためにやって来たマーティンは、子供たちのために寝る前のお話と歌を1つずつ、そしてそれぞれの子供たちの親を当てることになります。(「MARTIN PIPPIN IN THE DAISY FIELD」石井桃子訳)

「リンゴ畑のマーティン・ピピン」での大人っぽい恋物語とは打って変わって、こちらは子供向けの可愛らしい物語。ここでの聞き手となる6人の女の子たちは、「リンゴ畑」での6人の乳搾りの娘たちの娘であり、それぞれの女の子の親を当てるという趣向が楽しいのです。「リンゴ畑」では6人の外見の説明がほとんどなかったせいか、性格の違いが今ひとつ掴みきれていなかったのですが(はっきりと掴めたのは年上のジョスリンぐらい)、こちらは6人が6人とも全然違っており、親が誰なのか考えることを通して「リンゴ畑」の6人を改めて知ることができるのです。
マーティンの語る6つのお話は、縄跳びがとても上手な「エルシー・ピドック夢で縄跳びをする」、左ぎっちょの魔法しか使えないトムと左ぎっちょの妖精・ウーニーの「トム・コブルとウーニー」、痩せたの子ブタのトコの「タントニーのブタ」、海賊の物語「セルシー・ビルのお話」、綺麗好きの7人姉妹と小さなウィルキンズの「ウィルミントンの背高男」、美人とは到底言えないウィンクルのマーメイド「ライの町の人魚」の6つ。そして赤ん坊のシビルには、教訓話を集めたような「ニコデマスおじさんとジェンキン坊や」。このお話の中で子供の頃から私が特に好きなのは、「エルシー・ピドック夢で縄跳びをする」と「トム・コブルとウーニー」。と言いつつ、「タントニーのブタ」や「ウィルミントンの背高男」、「ライの町の人魚」も捨てがたいのですが…。
そして「リンゴ畑」と同じく、間奏曲がまた楽しいのです。みなマーティンに親を当てられてしまうのではないかとドキドキしており、当てられないための駆け引きもそれぞれなら、当てられそうになった時、大丈夫だと分かった時の反応もそれぞれ。マーティンは子供たちの涙に負けて、結局「私の子だ」を6回繰り返すことになるのです。間違えたマーティンを容赦なくいじめる方が子供らしい反応かもしれませんが、私としてはサリーやシライナ、シルビアみたいな反応が子供の頃も好きだったし、今でもそうですね。

登場人物メモ:
シルビア…いたずら好き、知りたがり屋。小さな顔で鼻がそっている。髪はうす茶で目はハシバミ色。(ジェシカとオリバー)
シライナ…ほっそりした体つき。夢見るような顔つきで、口は少しあいている。髪の色はもう少しで銀色、目は青。(ジェニファーとトム)
スウ…小さくてがっしりして浅黒い。ひじにえくぼ。髪はくせがなくてほとんど黒く、おかっぱ。目もほとんど黒。(ジェインとジョン)
ソフィー…素早くて陽気でくったくがなく、いつもにこにこしている。髪は金色がかなり多く、毛先はカール。目は光る茶色。(ジェシカとジョン)
サリー…小さく変わった顔。青白くそばかすがあり、眉は跳ね上がっていて、あごは尖っている。髪は短く柔らかくて、跳ね上がっている。目は緑。(ジョーンとチャールズ)
ステラ…鼻が曲がっていて、口は一文字。肌はクリーム色。両頬に野バラのようなピンク色。目はスミレ色。(ジョスリンとヘンリー)


「銀のシギ-ファージョン作品集6」岩波書店(2009年6月再読)★★★★★

ノーフォークの海辺の風車小屋に住んでいるコドリングかあちゃんの子供は、全部で6人。息子はエイブにシッドにデイブにハルの4人で、それぞれに頑丈で大食漢で働き者。娘は18歳のドルと12歳のポル。ドルは丸ぽちゃの可愛い娘で、気性も素直で優しいのですが、怠け者なところが玉に瑕。12歳のポルは、ドルとは全くタイプが違い、子猫のように知りたがり屋の利口者。ある日、1ダースのダンプリングが焼けるのを待って白昼夢にふけっていたドルは、コドリングかあちゃんの「ダンプリングは、かならず三十分でもどってくる」という言葉に、今そこにあるダンプリングを食べてしまっても大丈夫だろうと考えます。(「THE SILVER CURLEW」石井桃子訳)

グリムの「ルンペルシュティルツキン」と同系の「トム・ティット・トット」の伝説を元にしたファージョンの創作物語。元となった伝説も巻末に収められているのが嬉しいところ。読み比べてみると、ファージョンがいかに元の話を膨らましたのかがよく分かります。子供の頃も楽しく読んでいましたが、大人になった今読んでみると、見事に換骨奪胎されているのが分かります。
まず、元の物語には女の子は1人しか出てこないのですが、こちらに登場するのはドルとポルの姉妹。王様と結婚するのはドルです。彼女は色白で金髪碧眼。とても美しく気立てもいいのですが、とにかく怠け者。そしてそのドルとは対照的なのが妹のポル。ポルは「木の実のように日に焼けて、ボタンのようにぴかぴかしていて、目から鼻に抜けるように利口で、子ネコのように知りたがりや」の女の子。やらなければならないことは、きびきびとこなします。外見も中身も全く違い、まるで少女と少年のように正反対です。昔ながらのおとぎ話のヒロインに相応しいのはもちろんドルですし、実際にノルケンス王もドルを見た途端、その美しさに惹かれていますし、のんびりとしたドルのおかげでノルケンス王は癇癪を半分に抑えることができるようになります。母親になった時に見せる母性も素敵。しかし冒険に相応しいのは、やはり聡明で活動的なポルなのです。名前を知るためには相当の勇気も必要。元の話では偶然名前が分かるのですが、それはおとぎ話だからこそ。今読むお話としてはやはり詰めが甘いです。ポルが活躍するこの展開には、とても説得力があります。訳者あとがきで石井桃子さんが、ドルがポルを待つ場面は青髭みたいだと書いてらっしゃるのですが、本当にそうですね。換骨奪胎しながら、おとぎ話の良さはしっかり残してるのが素晴らしいです。
それに謎めいたチャーリー・ルーンや銀のシギといった存在もいいですね。幻想的な月の男と月の姫の伝説も絡み、それがとても重要な役割を担って作品に彩りを添えています。二重人格な子供っぽいノルケンス王も昔話にはなかなか見ることのできない個性的な王さまですし、頼り甲斐のある王さまの乳母のナン夫人も、どんと大きく構えたドルとポルの「おがやぁん」ことコドリングかあちゃんもいい味を出しています。単純な魅力の4人の兄たち、そして若い小間使いのジェン、家令のジョン、コックのクッキー、乳しぼりむすめのメグス、庭師のジャックといった脇役も楽しい面々。そして元々は舞台のために書かれた作品だと知ると、ノルとポルの喧嘩や、4人の兄たちが食べたいものを列挙しながら登場したり、案外いいコンビのノルケンス王とポルの喧嘩など、楽しい見せ場がいっぱいです。


「ガラスの靴-ファージョン作品集7」岩波書店(2009年7月再読)★★★★★

外で雄鶏が「コケコッコー!」と鳴き、地価の大きな暗い石造りのお勝手のせまいベッドの中で目を覚ましたのはエラ。以前は2階の綺麗な部屋で暮らしていたのに、エラの本当のお母さんが亡くなり、娘を2人連れた婦人がお父さんと結婚してからというもの、エラは穴倉のようなこの部屋に追いやられ、家の仕事を一手に引き受けさせられていたのです。鳴き続ける雄鶏、そして早く起きることを催促する道具たちに、エラは渋々起き上がります。しかしその時、馬具につけた鈴の音と馬のひづめが鳴る音が聞こえてきます。1ヶ月もの間留守にしていたお父さんがとうとう帰ってきたのです。(「THE GLASS SLIPPER」石井桃子訳)

「銀のシギ」と同じように、元は舞台のための脚本として書かれたものを小説に書き直したという作品。こちらもやはりファージョンらしい味付けがされて、元となっている「シンデレラ」の物語が楽しく膨らまされています。こちらの方が「銀のシギ」よりも賑やかで、まるでクリスマスのための贈り物といった印象の作品です。
元の「シンデレラ」と違うのは、まず主人公のシンデレラに「エラ」という名前がつけられていること。日本語訳のシンデレラを読んでいる限りではよく分からないのですが、特定の名前はおそらくなかったはず。しかし以前読んだアーサー・ラッカムの「シンデレラ」(シャルル・ペローの物語をもとにC.S.エヴァンスが再話したもの)でも、同じようにエラという名前がつけられていました。やはりこれは「Cinderella」という名前が「Cinder(灰)+Ella」ということだからなのでしょうね。C.S.エヴァンスが再話したのは、ファージョンよりも後のこと。これはファージョンのオリジナルの創作なのでしょうか。それとも他にも前例があるのでしょうか。はたまた英語圏では「灰かぶりのエラ」が一般的なのでしょうか。元話がペローの童話だとすると、フランス語のシンデレラは「サンドリヨン(Cendrillon)」なので、また違うと思うのですが…。(この場合「Cendre」が灰)
そしてこのエラ、とても前向きな明るさを持つ女の子なのです。元話と同じく辛く厳しい生活を送っているのですが、その辛さや厳しさを感じさせないほど。自然体として前向きなのですね。その自然体な部分は王子と会った時も変わることがありません。(その場面のちぐはぐな会話の可愛く楽しいことといったら!) そしてこの作品は、なぜお父さんは何もしてくれないのか、と子供の頃からもっていた疑問にも答えてくれました。お父さんは優しく、しかし優しすぎる人だったのですね。しかも仕事で家を長期に渡って留守にしていれば、どうしようもないというのが分かりすぎるほど分かってしまいます。もちろん、キリスト教社会では離婚は難しいとは思いますが、継母の横暴ぶりを知っている以上、エラを信頼できる人間に預けるなり何なり、何らかの対策はあったと思うのですが。
エラの過ごす地下室の道具たちが話し出すというのも楽しいですし、継母が実は○○だった、という部分や、頭が悪くて欲張りで太っているアレスーザと、怒りっぽくてずるくて痩せっぽちのアラミンタという2人の姉たちの対照的な姿も、いかにも喜劇的。妖精のおばあさんがあまり気のいい親切な妖精のゴッドマザーという雰囲気ではなく、むしろ少し怖そうな雰囲気であったりという部分が意外だったのですが、この妖精のおばあさんの「チューイチュイ」という小鳥への呼びかけの声がとても印象的。そして夢をみるのは普通はお姫さまと相場が決まっていますが、この作品では王子さま。ハート型の純金の額縁を眺めながら、運命の女性を夢見ている王子さまも一風変わっています。しかし一番良かったのは道化でしょうか。王子の代わりに怒ったり喜んだり悲しんだりする道化。彼の意外な洞察力と、エラの父親との場面がいいですね。賑やかでありながら心暖まる、この作品にぴったりの存在だと思います。


「マローンおばさん」岩波書店(2009年6月読了)★★★★★

森のそばで1人貧しく暮らしていたマローンおばさん。誰もおばさんの様子を尋ねる人も心にかける人もなく、1人放っておかれていました。しかし雪が深く降り積もったある冬の月曜日、窓の外にいたのは1羽のスズメでした。みすぼらしく弱り果て、まぶたは半分ふさがってくちばしも凍り付いていたスズメを、マローンおばさんはすぐに中に入れてやります。(「MRS MALONE」阿部公子・茨木啓子訳)

スズメ、ネコ、キツネ、ロバ、クマ… 来る動物たちを全て快く迎え入れ、乏しい食べ物も持ち物も何もかも分け与えたマローンおばさん。そのマローンおばさんが主人公となった短い詩の物語です。最後の「あなたの居場所が ここにはありますよ、マローンおばさん」という言葉が、読んでいて本当に嬉しくなってしまいます。
挿絵はエドワード・アーディゾーニで、物語も絵もとても美しい1冊。巻末に英詩も掲載されているのが嬉しいですね。手元に置いておきたくなる1冊です。


「ねんねんネコのねるとこは」評論社(2009年7月読了)★★★★

どんなとこでも寝てしまうネコ。ピアノの上でも窓の棚でも、部屋の真ん中でも、ブランコの上でも、部屋の真ん中でも、ブランコの上でも…。(「CATS SLEEP ANYWHERE」まつかわまゆみ訳)

エリノア・ファージョン文、アン・モーティマー絵の絵本。短い言葉に可愛いネコ。どのページにも気持ち良さそうに寝てるネコがいて、その表情が可愛くて、思わず撫でたくなってしまうような絵本です。ネコというのは、本当にいつ見ても幸せそうに寝ていますものね。そして見開きの左ページと右ページのさりげない繋がりも楽しいのです。すぐ読み終えてしまうような絵本ですが、ネコ好きさんなら堪らないはず。

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