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このページは、上橋菜穂子さんの本の感想のページです。

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「流れ行く者-守り人短編集」偕成社(2008年9月読了)★★★★★

【浮き籾】…<山畑>のネェやが山犬に襲われたという話を聞いてきたのは、タンダの妹のチナ。触れ役によると、山犬に青白い鬼火がまとわりついて死んだオンザの顔に見えたらしいのです。
【ラフラ<賭事師>】…6歳の時に故郷から逃げ出して7年。ロタの酒場の賭博場でススットをやっているのを眺めていたバルサは、給仕仲間のマナの恋人・アールに助けを求められます。
【流れ行く者】…ジグロが突然倒れます。高価な薬で徐々に回復したものの、その病が思いの他重いと見て取った酒場の主人の態度は変わり、ジグロはヨゴに戻るとバルサに言い渡します。
【寒のふるまい】…食べ物が乏しい冬の最中に山の獣たちに食べ物を分ける<寒のふるまい>を持って山へと向かったタンダ。山に行くのは、トロガイのいえに行くにも峠道に行くにも都合がいいのです。

守り人シリーズの番外編。タンダが11歳、バルサが13歳の頃の物語。バルサの養父・ジグロはまだ元気で、バルサと共に追っ手を逃れて各地を転々としながら、用心棒家業をしたり、トロガイの家に滞在したりしています。
「浮き籾」と「寒のふるまい」はタンダ視点の物語。タンダやその家族の生活ぶりを見ていると、古い時代の日本でもこういった暮らしをしていたのだろうと素直に思えてきます。稲に虫がついた時の反応やその対処、稲刈りと初穂をお供えする祭りの様子などもそうですし、トロガイに教わった目の薬を作るためにタンダがナヤの木肌を剥ぎ取る時に、トロガイに教わった通り「ナヤの木のカミさま、すこーし、木肌を分けてくだされ」と言っていたり、<寒のふるまい>を山に持っていったタンダが「<寒のふるまい>でござる! 大いに食べてござれ!」と言っているのもそう。こういう場面を読んでいると、中沢新一氏のカイエ・ソバージュシリーズで読んだ、一神教や国家が誕生する前の時代の話を思い出します。これはやはりしっかりとした土台の上に描かれているからなのでしょうね。
そして「ラフラ」と「流れ行く者」はバルサ視点の物語。「ラフラ」では酒場が、「流れ行く者」では隊商の旅が舞台となっているので、タンダ視点の物語とはまるで雰囲気が違います。こちらでは、ススットという賭け事の話が面白いですね。ススットには必ず、勝負を調整するラフラと呼ばれる専業の賭事師がいるのですが、このラフラを務めているアズノという老女がとても印象に残りますし、物語自体、ススットの特性がとても生かされている物語。そして「流れ行く者」では、護衛士稼業の哀しさや、それを目の当たりにさせられたバルサの姿が痛いです。しかし本編「精霊の守り人」ではもう既に亡くなっているジグロがまだ生きていて、その姿をバルサの視点から見られるのが嬉しいところ。もっと容赦ない厳しさ一点張りの人なのかと思い込んでいたのですが、バルサに対する愛情や優しさが感じられて良かったです。


「バルサの食卓」新潮文庫(2009年8月読了)★★★★

美味しいものを食べるのが大好きで、美味しそうな食べ物が出てくる場面を書くのも読むのも大好きだという上橋菜穂子さん。子供の頃から大好きな物語にどんな食べ物が登場したか話し始めたら止まらないぐらいだといいます。そんな上橋さんでも、守り人シリーズや「狐笛のかなた」、「獣の奏者」の料理本を作ろうと言われた時は戸惑ったのだそう。なぜなら、それらの料理は異世界の料理。材料となる魚も肉も実も香辛料もこの世にはないのですから。しかし創意工夫が得意な料理人たちによる「チーム北海道」が結成され、物語世界の料理の実現へと動き出します。簡単に手に入る材料を使いながらも創意工夫によって生み出された料理は、きっと物語の中に登場した料理の味に近いはず。そんな数々の料理をレシピ付きで紹介していく本です。

「これがなくっちゃ」「ガッツリいきたい」「ちょいと一口」「心温まる一品」「旅のお供に」「甘いお楽しみ」の6章で紹介される料理は30品目以上。題名こそ「バルサの食卓」ですが、「守り人」シリーズだけでなく、「孤笛のかなた」や「獣の奏者」も取り上げられています。物語の一節の引用があり、そして上橋菜穂子さんのエッセイ。子供の頃の思い出からフィールドワークに出ている時の体験談、世界各地を旅した時のエピソード、作品を執筆していた時の思い出。
そもそも私はあまり便乗本というのは好きではないですし、美味しいものへの欲求もそれほど強くないですし、料理本を作るといういかにも便乗商売的な発想があまり好きではないのですが、これはなかなか良かったです。料理の写真もとても良かったと思いますし、料理そのものも、素朴な物語の世界観をきちんと反映していると思います。異世界の料理の割に、醤油や味噌のようにどこの家庭にでもありそうな身近な和風素材を使ってるのがどうなのだろうとも思うのですが... 例えば、もっと東南アジア系の香辛料とか使っても良かったはず。しかし身近な素材を使って作る異世界料理というのもありなのでしょうね。その分、レシピとしても活用しやすいわけですし。それに上橋菜穂子さんのエッセイ部分が、それほど長くはないのですが、読んでいると物語世界の奥行きをさらに広げてくれるよう。便乗本であることは確かだとしても、きちんと地に足がついた便乗本ですね。ほっとしました。そして一番食べてみたくなったのは、「ノギ屋の鳥飯」と「タンダの山菜鍋」でしょうか。やはり作品の影響か、素朴なものに惹かれます。

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