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このページは、石田衣良さんの本の感想のページです。

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「池袋ウエストゲートパーク」文春文庫(2003年8月読了)★★★★★お気に入り
【池袋ウエストゲートパーク】…工業高校を卒業して以来プーのマコトこと真島誠は、池袋西口公園で相棒のマサこと森正弘とつるむ日々。万引きしている所をつかまえたシュンこと水野俊司も仲間に入り、さらにリカとヒカルも仲間になります。リカとヒカルは、お嬢さん学校の生徒で、現在夏休み中。しかしある日、リカが池袋二丁目のラブホテルで遺体となって発見されます。
【エキサイタブルボーイ】…マコトはGKのタカシこと安藤崇から呼び出されます。タカシは池袋の全てのチームの王様。夏の騒動でタカシに世話になっていたこともあり、マコトはタカシの紹介の関東賛和会羽沢組の組長の娘・天野真央を探す手伝いを受けることに。サルこと斉藤富士男と再会します。
【オアシスの恋人】…マコトは中学の同級生・橋本千秋に、イラン人のカシーフを助けて欲しいと頼まれます。ヘルスで働いている千秋は、顧客を装った売人にスピードの常習者にさせられ、怒ったカシーフがその売人のスピードを焼いてしまったのです。カシーフには賞金がかけられていました。
【サンシャイン通りの内戦】…大晦日の夜に尾崎京一という少年が池袋に現れてから、池袋の力のバランスは崩れ、今やタカシ率いるGボーイズと尾崎率いるレッドエンジェルスは正面から対立。赤と青の2つのチームのせいで、池袋の人間は今や赤と青の入った服すら着れなくなっていたのです。

石田衣良さんのデビュー作。表題作は、第36回オール讀物推理小説新人賞受賞。
池袋西口公園を舞台にした連作短編集です。池袋ウエストゲートパークとは、池袋西口公園のことだったのですね。文章も構成もストーリーも登場人物も、全てが刹那的でドライでありながらも、どこか瑞々しくて魅力的。とても新鮮です。渋谷でも新宿でもなく、池袋というこの舞台設定も非常に上手いですね。
4つの物語には池袋でその時々に起きる出来事が、少女売春、レイプ、いじめ、登校拒否、麻薬、不法就労外国人、少年グループ同士の対立など様々な社会問題が含みながら、テンポの良い語り口でドライと描かれていきます。それらが全く押し付けがましくなく、マコトの立場そのままのリベラルな視点で描かれているというのも非常に好印象。…ただ、時々マコトの姿にとても10代とは思えない老成した思考や台詞が垣間見えてしまうことがあるのは、ご愛嬌でしょうか。
全部通して読んでいると、なぜかマコトや他の登場人物たちが、マコトの家の果物屋に置かれた様々な果物に重なって見えてきてしまい困りました。メロンやスイカといった値のはる果物や、出始めのビワやモモやサクランボ。外側だけはワックスでてかてかに光っている、甘みのないみかん。果物屋という1つの小さな世界と池袋という街がどこか重なっているかのようです。

「うつくしい子ども」文藝春秋(2003年3月読了)★★
常陸県東野市。国立大学の付属中学・夢見山中学2年生の三村幹生は、ごつごつでざらざらの風貌からあだ名はジャガ。成績はあまり良くないものの植物が好きで、この国立大学付属中学にも一芸入試で合格しています。弟・和枝は、同じく夢見山中学の1年生、妹・瑞葉は東野第三小の3年生。父親似の自分とは違い、弟も妹も派手な顔立ちの母に似た「うつくしい子ども」。ミズハは、学業の傍ら、モデル業もやっているほどです。しかし夢見山中学の奥にある奥ノ山で女の子の遺体が見つかり、その犯人が捕まることになって、三村家は一変することに。なんとその殺人犯は、弟のカズシだったのです。被害者は向井香流、9歳。妹のミズハの同級生でした。現場には「夜の王子」「PRINCE OF THE NIGHT」「これが最後ではない」などの言葉が銀のスプレーで残されており、マスコミをも巻き込んでの大騒ぎとなります。ジャガはミズハと共に、東京の母親の実家へ。しかし「カズにいちゃん、なんであんなことやっちゃったのかな」というミズハの言葉にはっとしたジャガは、何が弟に殺人を犯させたのかを考え始めることに。

女児殺人事件はカズシの補導によって一応解決するのですが、カズシの家族にとっては、そこからが苦しい時の始まりとなります。周囲の悪意によって家族は崩壊、多少の嫌な思いをするのは覚悟の上で夢見山中学に戻ったジャガも、案の定ひどい嫌がらせをうけることに。それでもカズシのことを理解するために、カズシがやったという事実をそのまま受け止め、理解しようとするジャガ。そんなジャガに協力する長沢静と八住はるき。3人の姿が、きめ濃やかに描かれています。
加害者であるカズシは、裁判の間は弁護士に守ってもらえます。警察や施設にいる間は、外部からの嫌がらせは届きません。しかし加害者の家族であるジャガやミズハは誰も守ってはくれないのです。マスコミは毎日のように好き勝手な分析を繰り返し、それを鵜呑みにした部外者たちが無名の悪意を繰り返します。人間、顔や名前が出なければ、どんなひどいことでも平気でできてしまったりしますよね。確かに家族に全く関係はないこととは言えないですし、「この子はうつくしい子どもだわ、大きくなったら、きっときれいでかしこい人間になる」などと言ってしまう母親にも問題はあったかもしれません。しかし決してそれが全てではないはず。
最後の展開と解決方法には、正直あまり納得できませんし、あまりに都合の良い、大人のやり方のような気がします、そしてそれに対するジャガの決断も、あまりに優等生すぎるような気が。死者への礼とは言っても、そんな虫のいい申し出を受ける必要もないと思うのですが…。それでも事件を通して自分が体験したことを考えると、ジャガには断ることができなかったのかもしれませんね。最後の施設での弟との会話には、薄ら寒い思いをさせられてしまいました。読む前は綺麗に思えた題名も、読み終わってみるとなんとも哀しいものですね。

P.128「緑って不思議だ。そのときの気分で楽しそうにも、悲しそうにも見えるんだから。」

「エンジェル」集英社(2003年10月読了)★★★★
ふと気がつくと、闇にふわふわと浮いていた「ぼく」。しかし空を舞っている時に目に入ったのは、2人の男が若い男の死体を地中に埋めている場面でした。その死体は、なんと「ぼく」自身の死体。それに気がついた時、「ぼく」は過去の情景のフラッシュバックの渦に巻き込まれることになります。母の胎内にいた時から、「掛井純一」としてこの世に生まれでた「ぼく」、片足が不自由だった幼い頃から、ゲームが得意だった小学生時代、新しい母と弟がやって来た中学時代、大滝依子との初体験や父親に10億円という金で売られた高校時代、コンピュータゲームの仕事を始め、自分の持つ金を投資することにした頃、そして父親の死。自分の人生をなぞるようにして「今」に戻った「ぼく」は、自分が誰に何故殺されたのかを調べ始めます。

死ぬ2年前の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまった掛井純一が、幽霊の姿で自分の死について調べるという、少し趣向の変わったミステリ作品。ほぼ同時期に書かれた有栖川有栖氏の「幽霊刑事」とかなり似通った設定ですが、雰囲気はまた違いますね。こちらの掛井純一は基本的に人間嫌い、あちらの神埼は行動的な明るいタイプということで、静と動の違いを感じますし、最終的に愛する女性を守りたいという行動は一緒なのですが、こちらの方がしみじみとしたノスタルジックな雰囲気を感じます。記憶は失われているものの、赤ん坊の頃から追体験が描かれているというのが、物語にはとても入りやすくていいですね。
実体を持たない幽霊という姿で、どのようにして物事を調べ、人々とコンタクトをとるのか、というのが、幽霊物を書く時の作家さんの工夫の見せ所でしょうか。ここでの掛井純一のやり方は非常にオーソドックスではありますが、しかし作りすぎていないところが、この作品の雰囲気にとてもよく合っているのではないかと思います。そして記憶を失っても、恋人だった女性に対する恋心はどこかに残っているのが、また嬉しいところ。
幽霊仲間の小暮秀夫の「知らないでいるというのは、ひとつの幸福の形ですから」という言葉には重みがあるのですが、しかしやはり一度疑問を持ってしまったら、知らないわけにはいかないでしょう。これは彼にとって、知っておいて良かったことのはず。だからこそ、彼も最後に心からの望みに決断を下すことができたのですから。

「少年計数機-池袋ウエストゲートパークII」文春文庫(2003年8月読了)★★★★★お気に入り
【妖精の庭】…マコトに声をかけたのは、小学校の時に同じクラスだった貝山祥子。彼女は今は男に性転換しており、名前はショー。ショーはダイヤルQ2のようなサービスで、女の子の部屋の映像をネットに流す仕事をしているのですが、ナンバー1のアスミがストーカーされて困っていたのです。
【少年計数機】…マコトが西口公園で出会ったのは、多田広樹10歳。LDの広樹は学校には行かず、計数機で常に何かを正確に数え続けていました。しかしこの広樹がどうやら誘拐されたらしいのです。
【銀十字】…果物屋にマコトを訪ねてやってきたのは、有賀喜代治と宮下鉄太郎という老人2人組。同じ老人ホームに住む福田まち子のために、連続ひったくり事件の犯人を捕まえて欲しいというのです。
【水のなかの目】…3年前の千早女子高生監禁事件のことを調べていたマコトにかかってきたのは、羽沢組のサルからの電話。マコトは「大人のパーティ」潰しの強盗4人組を探す仕事を受けます。

「池袋ウエストゲートパーク」のシリーズ第2弾。
前作の冒頭では、池袋一番街の小さな果物屋をを手伝う程度だった「プー」のマコトは、物語が進むにつれ、池袋では少年たちはもちろんヤクザの間でも有名なトラブルシューティングとなり、この「少年計数機」では地元のファッション誌「ストリートビート」でコラムを書くまでになっています。それでも彼の基本的な部分は全然変わっていないというのが嬉しいですね。前作でサルが言っていた「おまえのなかには誰がどうやっても絶対動かないなんかがある」という言葉を思い出します。そして今回登場するのは、おなべのショーや、LDの多田広樹、有賀喜代治と宮下鉄太郎という老人コンビに、水の中の目のマドカやミナガワ、アツシこと牧野温。前作のメンバーがほとんど登場しないのは残念なのですが、今度登場するどの人物もそれぞれに個性的で魅力的。特にこの老人コンビが意外なほどかっこよくていいですね。
前作そのままの勢いを持ちながらも、前作以上に鋭さが感じられる読み応えのある1冊だったと思います。その中でも一番印象的だったのが、ラストの「水のなかの目」。1冊の半分近くを占める中編です。この話は相当痛いですし、読後感も決していいとは言えないのですが、しかしこれほど緊迫感たっぷりに読み終えられたのは久しぶりのような気がします。大満足の作品でした。

「赤・黒(ルージュ・ノワール)」徳間書店(2003年10月読了)★★★
フリーランスのやくざをしている村瀬勝也に誘われ、氷高組の経営するカジノからの現金強奪の話に乗った小峰渉。小峰は普段は売れない映像ディレクターという堅気の人間。しかし仕事で知り合った村瀬に連れていかれたカジノにハマり、多額の借金を抱えていたのです。カジノの店長もグルで、現金強奪は首尾よく成功するものの、土壇場で鈴木と名乗っていた銃撃役の男が裏切ります。奪った現金1億4千万円を分けようと集まった場で、鈴木は村瀬を撃ち殺し、現金を全て奪って逃走してしまうのです。そしてその晩のうちに、小峰の元には氷高組のやくざが。小峰は氷高の前で事情を説明。5千万円の借用証書に拇印を押させられそうになるところを、なんとか鈴木という男と現金を見つけ出すことで話をつけて、1ヶ月の猶予期間を得ることに。小峰には斉藤富士男、通称サルが監視役としてついて回ります。

池袋ウエストゲートパーク外伝。「池袋ウエストゲートパーク」で、マコトの友達として登場するやくざのサルが準主役。Gボーイズやキングのタカシは出てきますが、今回マコトは名前だけの登場です。今回、本編でのマコトの役回りをするのは映画ディレクターの小峰。小峰は、マコトのような地元のネットワークこそ持っていないものの、なかなか粘り強く歩き回ります。最初は見当もつかないまま動き回りながら、徐々に標的に近づくところはマコトと一緒。しかし今回目立つのは、何といってもサルでしょうね。サルは氷高の信頼も厚いようで、仕事もきっちりできる男に成長しているようです。どんどん味が出ているようで、いいですね。そして根枯らしのアベケンこと阿部賢三も、なかなか印象的でした。伝説の張り師であるアベケンが、自宅のマンションにいる時はステテコ姿だったのが、カジノに現れるところでピシッと決めているところなど、絵に描いたような渋さがあります。
物語は軽快に運び、最後のルーレットの大勝負がクライマックス。ちなみに「赤・黒」というタイトルは、この勝負のルーレットの色。
今回はサルは準主役でしたが、もっとサルを中心に据えた物語も読んでみたいです。本編のタカシもそうですが、もっと突っ込んで描いて欲しいキャラクターですね。

P.116「世のなか、なんでもそう簡単に白黒がつけられるか。ルーレットじゃねえんだぞ。あいつは灰色さ」

「娼年」集英社(2003年9月読了)★★★★★お気に入り
リョウこと森中領は20歳の大学生。リョウが大学にも行かずにアルバイトをしているバーに、その日田島進也が連れてきたのは御堂静香でした。シンヤはリョウの中学時代の同級生。今はプロのホストをしており、静香はシンヤの店の客。その日はシンヤと静香の初の店外デートだったのです。静香は年齢は重ねているものの、冷たい感じの美人。シンヤは色っぽいいい金づるが見つかったと得意顔。しかし静香はリョウに興味を示します。そして一週間後。静香は今度は1人でリョウのいるバーへ。女性もセックスも退屈だと言い切ったリョウに、静香は「私があなたのセックスに値段をつけてあげる」と言い、アルバイトが終わったリョウを外へと連れ出します。実は静香は女性の客に若い男の子を紹介するクラブの経営者だったのです。静香の試験に合格したリョウは、コールボーイとして働き始めることに。

リョウはコールボーイ。たとえ彼がVIPクラスの相手をする「特別な男の子」になったとしても、やっていることが売春であることには変わりありません。売春という行為は、私には考えるだけでもとても抵抗がありますし、それをする人を認める気も全くないのですが、それでもこの作品を読んでいると、その価値観を人に押し付けれるのも、どうなのだろうと考えさせられてしまいました。リョウに仕事を辞めさせたがった彼女の気持ちはとても良く分かりますし、その行動もきっと間違ってはいなかったと思います。それでも、彼女の正義感の押し付けが、まるで言葉の暴力のように感じられてしまったのです。何が「普通」で、何が「混線している」かなどということは、人の数だけ違った答があるのでしょうね。一応世間では、大多数が支持する答が「普通」ということになっているのでしょうけれど、それが本当に「普通」なのかどうかは誰にも分からないこと。VIP相手の「特別な男の子」のアズマくんは自分のことを「混線している」と言い切っていますが、彼の想いは限りなく純粋です。それを「普通じゃない」と切って捨ててしまうことは、私には到底できません。その上、静香に「あなたのいいところは全部、自分のなかで閉じている」とまで言われたリョウが、この仕事によってやりがいと感動を知り、人間的に大きく成長することになるのです。尚更どうこう言えるわけがありません。
主人公の職業柄、当然艶っぽい場面もとても多いのですが、まるで淫靡ではなく、逆に爽やかさすら感じてしまいました。きっとリョウがセックスを通して様々な人間の本質を見つめているからなのでしょうね。読む人を非常に選びそうな作品ではありますが、この繊細さと透明感は格別。この作品を読んでいると、まるで水の中を浮遊しているようななんとも言えない感覚があり、それがとても心地よい作品です。

「波のうえの魔術師」文藝春秋(2003年9月読了)★★★★★
私立のマンモス大学を卒業して就職浪人中の「おれ」こと白戸則道。中途半端なパチプロをして日々をしのいでいた「おれ」は、パチンコ屋コスモスの新装オープンに反対している右翼の街宣車を見ている時に、「ジジイ」こと小塚泰造に出会います。小塚泰造は年は70歳ぐらいの小柄な老人で、仕立ても素材も見るからに高級な三つ揃いのスーツ姿。自分の秘書として働いて欲しいといわれた「おれ」は、月30万円でマーケットというジャングルに迷い込み、そしてマーケットに恋をすることになります。

株式相場を中心にしたコン・ゲーム。主人公自身が株価や経済などに全く興味がなかったという設定だけあり、予備知識のない読者にも大丈夫。主人公が毎日のように新聞を読みデータを集めていくうちに、数字やマーケットに対する感覚を養い、小額の投資から始めて、徐々に大金を動かせるようになっていくように、読者も徐々にマーケットの大きな流れを理解できるようになります。だからといって、説明口調に終始しているわけではなく、あくまでも物語の流れを壊さない程度にさらりと書かれているのがとても上手いです。もし細かい部分が分からなくても大丈夫。物語の面白さには全く影響しないと思います。
なにやら怪しげな「ジジイ」と、パチスロをやって生き延びてきた「おれ」の組み合わせは、主人公が作中で思い出すように、「マイ・フェア・レディ」のヒギンズ教授とオードリー・ヘップバーン演じる下町の花売り娘のイライザの関係のよう。「おれ」は、留年や就職浪人という最低の時期も一緒に乗り越えてきた中川充ちると別れてまで、「ジジイ」の教えるマーケットにのめりこみます。ここでの「おれ」の気持ちがリアルに伝わってきますし、非常によく分かりますね。そしてこの「ジジイ」が目指すのは、社交界でのデビューではなく大手銀行への作戦。「波のうえの魔術師」という異名がぴったりの株の相場師「ジジイ」は、「おれ」に様々なことを教え込みます。「ジジイ」がなぜその大手銀行を狙おうと思ったのかというドラマも織り込まれ、その部分に非常に説得力があったのもとても良かったです。秋のディールの緊迫感はもちろんのこと、ラストもあっと驚かせてくれる幕切れで大満足。
非常に痛快で、しかも粋な作品でした。石田さんの独特のスピード感のある文章が、またこの物語にとてもよく似合っていますね。

「スローグッドバイ」集英社(2003年9月読了)★★★★★
今までの池袋ウエストゲートパークシリーズや他の作品とはまるで雰囲気の違う1冊。初の短編集で、この1冊の中に10の恋愛小説が収められています。1編ずつは20ページほどの長さで、その中で女と男のドラマが繰り広げられていくのですが、どれもあっさりと軽くて、洒落た大人の恋愛の話。1人の夜にお酒を飲みながら読むのにぴったりの雰囲気です。同じように大人の恋愛を描いていても、女性作家さんの描かれる恋愛小説とはどこかとても違うような気がします。この中で私が好きなのは「フリフリ」と「ローマンホリデイ」。最後の「スローグッドバイ」は、まるで私小説のような雰囲気。全体を通してみると、出会いがあれば別れもあり、別れがあれば出会いもまたあるということが淡々と描かれているよう。浮かんでくる情景もとても綺麗です。

収録作品:「泣かない」「十五分」「You look good to me」「フリフリ」「真珠のコップ」「夢のキャッチャー」「ローマンホリデイ」「ハートレス」「線のよろこび」「スローグッドバイ」

「骨音-池袋ウエストゲートパークIII」文藝春秋(2003年9月読了)★★★★
【骨音】…マコトが請け負ったのはホームレス襲撃事件5件のうち、同一犯と思われる4件。襲われたホームレスたちは、クスリで意識を失った隙に骨を折られていました。Gボーイズの助けを得るために、マコトはキングのタカシを連れて、ハヤトに買わされたチケットのライブへと向かいます。
【西一番街テイクアウト】…プッチモニやミニモニの曲は踊っても、なぜかモーニング娘。の時だけは踊らない小学生の少女に興味を持つマコト。彼女は、オスカーワイルドの「サロメ」を読んでいました。
【キミドリの神様】…マコトの元に、NPOの小此木克郎という男から電話が。NPOは、最近池袋で流通し始めた新しい通貨「ぽんど」の発行元。偽札が発見され、犯人探しをして欲しいというのです。
【西口ミッドサマー狂乱】…タカシに言われたマコトは幕張レイヴへ。主催しているヘヴンの代表・御厨ソウメイにハードドラッグ・スネークバイトを売る組織・ウロボロスを排除するように頼まれます。

「池袋ウエストゲートパーク」のシリーズ第3弾。
マコトは相変わらずですし、今回タカシの登場が多いのがとても嬉しいのですが、物語自体は少々パワーダウンでしょうか。「少年計数機」の時の鋭さが少々鈍っているような…。タカシのカリスマ性も、今までは遠くから目が合っただけでスパークしてしまいそうなものを感じていたのですが、今回はどこか穏やかになったように感じられました。これが年齢を重ねるということなのでしょうか。もちろん「年相応に落ち着いてきた」という表現もできるとは思うのですが、やはりこのシリーズに関しては痛いほどの切れ味を求めてしまいます。
それでも表題作の「骨音」でのアイディアはとても好きですし、リアルに迫ってくるライブハウスでのシーンも良かったです。4編目の「西口ミッドサマー狂乱」に登場する、服によって義足も着替えるトウコの存在もとても魅力的ですね。この4作の中では、この「西口ミッドサマー狂乱」が一番好きです。これは1冊の半分近くを占めるという中編。冒頭こそ少々入りにくく感じたのですが、途中からの展開がなんとも良くて、ラストまで一気に読んでしまいました。
それにしても、マコトのお母さんは実はなかなか凄い人だったのですね。驚きました。

「4TEEN(フォーティーン)」新潮社(2004年1月読了)★★★
【びっくりプレゼント】…入院中のナオトに、ジュン、ダイ、テツローの用意した誕生日プレゼント。
【月の草】…クラスで3人目の不登校となった立原ルミナの家にプリントを届けに行くテツロー。
【飛ぶ少年】…その場の空気が読めない放送委員・ユズルに、クラスの皆は冷たい視線。
【十四歳の情事】…用事があると急に帰ったジュン。3人は「絶対、女だな」と後をつけます。
【大華火の夜に】…大華火の特等席で、4人は病院から脱走中の末期癌患者と出会います。
【ぼくたちがセックスについて話すこと】…カズヤが4人と一緒に帰りたいと声をかけてきます。
【空色の自転車】…ダイの父親が家の外で凍死。ダイと弟が警察で取り調べを受けることに。
【十五歳への旅】…房総半島2泊3日の旅は、いつの間にか親に内緒の新宿2泊3日の旅へ。

8つの短編が収められた連作短編集。第129回直木賞受賞作品。「4TEEN」というタイトルには、14歳の少年が4人という二重の意味があるのですね。
秀才のジュン、大食漢のダイ、早老病に苦しむナオト、全てにおいて平均的なテツロー。性格も嗜好も、生活水準や家庭環境もまるで違う4人。しかし木造の長屋と超高層ビルが混在する、この月島という舞台と同じように、しっくりと馴染んでいます。打算も何もなく、こんな風に100パーセント他人を受け止められるという純粋な友情は、この年代ならではなのでしょうね。人の3倍の早さで人生を生きているというナオトと、彼に対する3人の思いやりがとても優しくて切なくて良かったです。10代の頃といえば、沢山の失敗を繰り返しつつ成長していく時期。彼ら4人ともが、14歳にしては自分達や周囲のことが良く見えていることには驚かされますが、これは今現在14歳の少年よりも、かつて14歳だった大人が読むべき本なのかもしれませんね。
性を始めとして、摂食障害やいじめ問題、家庭内暴力、同性愛、死に場所などの問題を交えながらも、あくまでもからりと爽やかな印象。少々淡白すぎるような気もしますが…。
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