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このページは、伊勢英子さんの本の感想のページです。

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「旅する絵描き-パリからの手紙」平凡社(2007年12月読了)★★★★★お気に入り

ずっと旅から旅へという生活の中で絵を描いてきたのに、ある時、何のへんてつもない1つの窓につかまってしまい、パリのアパルトマンにしばらく住むことになった「ぼく」。それはルリユールじいさんとの出会いでした… 「ぼく」から「Y」へのパリからの手紙。

理論社のホームページに連載されていたエッセイを改稿、未公開スケッチを加えて構成し直したもの。以前、「ルリユールおじさん」「絵描き」を読んだ時から、読みたいと思っていた本です。しかし題名と表紙から勝手にエッセイだと思い込んでいたら、これもまた1つの物語だったのですね。本が刊行されるに当たって改稿されたとのことなので、もしかしたら元々の語り手は伊勢英子さんだったのかもしれませんが、ここではすっかり架空の人物である「ぼく」となっています。
「ルリユールおじさん」と「絵描き」はそれぞれ独立したお話だったのですが、これを読むと、その2つの作品が実は1つに繋がった大きな物語だったことが良く分かります。そして「絵描き」に登場しているのは、やはり伊勢英子さんご本人だったのだということも。絵本として刊行されたそれらの2冊に比べると、もちろん絵は少ないのですが、その分文字から伝わってくるものは大きく、何度も読み返したくなってしまうような本となっています。
特に印象に残ったのは、古いアパルトマンにあるルリユールおじさんの家の描写。壁にはどれも天井までの棚がしつらえられており、そこは本でいっぱい。「何百冊あるかわからないけど、すべて革張りで深紅や紺や緑の表紙、金箔の背の文字ーー気が遠くなりそうなほど美しい本棚だった。」という文章が、とても心に残りました。


「にいさん」偕成社(2009年7月読了)★★★★★お気に入り

オランダの貧しい牧師の息子として生まれたヴィンセント・ヴァン・ゴッホとその弟のテオ。「とうさんのような人になりたい」と語る兄と、にいさんのような人になりたいと思う弟。学校を出た兄は画廊に勤め、絵に囲まれて働く喜びがあふれる兄の手紙に、弟も16歳になると迷わず画廊に就職。しかし牧師である父のようになりたいという思いも捨てきれなかったのです。兄はやがて解雇され、様々な職につくもののうまくいかず何度も挫折を経た後、やがて絵描きになる決意を固めます。

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホとその弟のテオの物語。まずこの絵本で目を奪われるのはその色彩。これほどまでに深みのある青とそして鮮烈な黄色の対比とは…。
伊勢英子さんは1990年からずっとゴッホの足跡をたどる旅を続けているそうです。エッセイ「ふたりのゴッホ」、絵本「絵描き」、実の妹さんと共訳したという「テオ もうひとりのゴッホ」を経て、どうしても描きたかった物語がこの絵本として結実したのだそう。その思いがとても強く伝わってくる絵本ですね。ヴィンセントが弟に宛てた手紙は700通近くあり、その文面からは「誠実に生きようとすればするほど、節度のない過剰な人間と見なされて居場所を失っていった彼の生きづらさと、白い画布以外に自分らしく生きられる場所がないという痛切な叫びが伝わってくる」のだそう。天才肌の芸術家と一緒に暮らすというのはおそらく凡人には計り知れない大変さがあるのでしょうし、おそらくテオも兄を愛しながらも困惑し続けたのでしょうね。テオの送る金で旅をするゴッホ、パリのテオのアパートに押しかけて、アパートを絵の具だらけにしながら習作で埋め尽くし、客が来れば誰彼構わず議論をふっかける兄。テオの生活を破壊しながらも、自分の欲求に素直に生きることしかできない兄。「ぼくはきみのエゴイストぶりにあこがれながら、そのすさまじさをにくんだ」という文章が心に突き刺さるようです。そしてアパートを出てからも、金や絵の具や筆、キャンバスを無心し、借りた金を自分の描いた絵で返すという身勝手な兄。しかしその絵は決して売れることがないのです。
この青や黄色の色の命の強さは素晴らしいですね。私が見ているのは絵本であって原画ではないのに、それでも魂を吸い取られるような気がしましたし、物語の中にも引きずり込まれました。強烈に伝わってくるものがある絵本です。


「大きな木のような人」講談社(2009年5月読了)★★★★★お気に入り

パリの植物園に毎日のように来ては絵を描いてる女の子。立ち入り禁止のところにまで入り込み、庭師に睨まれているのですが、ある日勝手に花を抜いたとのことでとうとう捕まえられ、植物学者の先生のところに連れて行かれてしまいます。しかし先生は怒りません。さえらという名前のその女の子は、先生にひまわりの種をもらって、自分で蒔いてみることに。

いせひでこさんの今回の絵本は、「ルリユールおじさん」と同じく絵本というよりも画集と言った方が相応しいようなもの。今回は植物園が舞台なので、木や草花 が沢山。「ルリユールおじさん」は青が印象的でしたし、「絵描き」は黄色が印象に残りましたが、今回は植物の緑。もちろん青や黄色も登場します。さえらが青い背景の中で黄色い花を持って走ってる場面が印象的でしたし、私が一番好きだったのは雨の日の絵。
そして素敵なのは絵だけでなく、お話もです。さえらも可愛いですし、さえらが出会う植物学者の先生がとても素敵なのです。さえらにとってこの植物学者の先生との出会いは一生心に残るものになったはず。しかも先生がさえらに一方的に種を蒔いてるのではなく、さえらの中で花開いたものが、また先生に戻っていくようで、それがとても素敵なのです。物語にはソフィーとあの植物図鑑もちらりと登場し、それもとても嬉しいところ。ソフィーにはルリユールおじさんとの出会いがあり、さえらには植物学者の先生との出会いがあり、そして世界が広がっていくのですね。さえらは将来、どんな道を選ぶことになるのでしょうか。
全体的な色が青いこと、主題が本を扱っていること、そして職人への憧れもあって、私にとっては「ルリユールおじさん」の方がどうしてもお気に入りの本としては上になってしまうのですが、それでも植物という命あるもの、特に木の持つ長い命や雄大さ、そこに存在する物語というものも魅力的。「人はみな心の中に、1本の木をもっている」という言葉がとても素敵ですね。

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